溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 「どうして謝るの? 」

 ふるふるとかぶりを振りながら、美花は顔を隠す。

 お願い、見ないで。 今の自分は凄く浅ましい顔をしてる。


 「ごめんなさい、ごめ、なさ…… 」

 居たたまれなさと恥ずかしさに、口からは謝罪の言葉しか出てこない。

 キスが足りないなんて思ったのも、初めてだった。
 そんなことを思うなんて、今まで隠れていた自分の中の汚ない本来の欲望が、どろどろと顔を出してくるみたいで怖い。

 きっと、それを見て呆れたから、あんなふうに言ったんだ。


 「美花ちゃん…… 」

 頭上から聞こえるため息に、ぎくりと身が竦む。


 「そんなに好きなんだね。 分かった、もうしないか……」

 「お願い、嫌いにならないで……っ 」

 「ら……って、え? 」

 同時に放った言葉が重なって、お互いに目を瞠った。


 美花がおそるおそる顔をあげると、驚いた顔の浩峨と目が合う。
 まさか、こんなことを言われるとは考えてもいなかったというみたいに。


 「僕が、美花ちゃんを嫌うって……、どういう意味? 」

 違うの……?


 聞かれた質問に軽蔑された訳ではないと知って、目の奥がキン……と痛くなる。


 みるみるうちに曇る視界。

 限界まで溜まった涙が溢れて頬を伝い、それを見た浩峨がギョッ……として、瞳を見開くのが見えた。


 「ちょっと、待って。今度は、どうして泣くの? 」

 「分かんな……、嫌われたんじゃないって、分かったら……っ 」


 泣き顔を見られたくなくて咄嗟に顔を両腕で隠すと、交差した両手の手首がそれぞれしっかりと捕らえられた。


 「だから何で、僕が美花ちゃんのことを嫌いになるんだよ? 」


 それだけではなく、暴くように開こうとしてくるから美花は必死で抗う。

 だって、同じことだ。 知られてしまったら、きっと嫌われてしまう。


 「離して……よ……っ! 」

 「嫌だ 」

 きっぱりとした拒否に、逃げられないことを知る。


 「……っ。離して……って、言ってるでしょ、もう 」

 逃げたい、逃げたいのに、逃しては貰えない。
 強い力に泣き顔をあらわにされて、自分の陰った部分まで光のもとにさらされてしまう気持ちになる。


 「美花ちゃん、僕は美花ちゃんのことを絶対に嫌ったりしないよ? 君は何を知られたくないの? 」

 甘やかすような言葉に、心が揺れる。


 「何がそんなに怖いの? ねぇ、美花ちゃん 」


 それでも頑なに首を振り続けると、コツンとおでこにおでこをぶつけられた。


 「痛……っ! 」

 「痛いね 」

 言いながら浩峨はクスッ……と笑い、もう一度額を合わせてきた。今度は、ゆっくりと優しく。

 「……ホント、こうしたらこの中のことが全部分かるといいのに 」


 『ねっ? 』と同意を求められた途端、わぁっと胸いっぱいにあふれてくるもの。

 美花は、もう駄目だと思った。


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