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しおりを挟む「聞か……なくても、すればいいじゃない。貴方は、私を好きにする権利が…… 」
「そういうんじゃなくて 」
後ろから回された長い腕が美花の全てを包み込み、おとがいに添えられた指先が下を向いていた美花の顔を上向きにさせる。
「俺ね、キスには拘ってるの。 大事な子にしかしたくないんだ 」
大事な子……。そこには、特別な想いがあると錯覚しそうで、美花はぎゅっと瞳を閉じた。
本気な訳ない、冗談に決まってる。
冷静であれば、浩峨の一人称が変わっていたことに気付けた筈なのに、美花は気付けなかった。
「美花ちゃん、少しだけこっち向いて? 」
少しだけと言っているけれど、僅かに傾けただけでもきっと口唇は触れてしまう。
ただでさえ心臓が爆発しそうなのに、そうなったら自分がどうなってしまうか分からない。
「わっ、私 」
あまい吐息にクラクラする。
「ん……?」
「私っ、好きな人がいるの! 」
動揺して自分の口を突いて出た言葉に、一番驚いたのは美花だった。
何を言っているんだろうと思う。これでは、まるで好きな人としかキスしたくないと言ってるみたいだ。
今更、何人もの男に身を任せた汚れた身体のくせして。
けれどもっと驚いたのは、返ってきた浩峨の言葉だった。
「うん、知ってるよ 」
美花は自分の耳を疑う。
「知ってる……? 」
「知ってるから、僕のことそいつの代わりにしていい 」
「そいつって……」
「呼んでいいよ、好きなヤツの名前。 そのまま目を瞑っていれば分からないだろ? 」
頭を抱えられるようにして手のひらで目隠しされる間際、開いた瞳に映ったのはいつもの優しい笑顔。
なのに、どこか切なさを感じたのは何故?
「あ、あの…… 」
小さく浩峨が笑った気がした。
ーーー好きだよ、美花。
直後、囁かれたあまい声。 心も身体も、縛られたようになって動けなくなる。
戸惑う口唇に、ふわりと乗せられる柔らかい感触。優しく押しあてているだけなのに、全身が痺れて震えた。
好きって、あの人の代わりに言ったの?このキスは、あの人として? それとも……。
隠された瞳は、何も映さない。
合わせるだけの口付けが、ゆっくりとほどけて吐息が零れる。
出来てしまう距離が淋しい。
もっと……としがみつくと、抱き締める浩峨の身体が揺れるのが分かった。
ーーー……やばいな、マジかよ。
耳に落ちた呟きに、ハッ……と我に返る。背中を伝う、冷たいもの。
「……っ、ごめんなさい! 」
私、何してるの?!
自分のしたことを考えれば、これ以上に軽蔑されることなどないだろうけど、それでもこの人に嫌われるようなことはしたくない。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
けれど、謝りながら慌てて離れようとすると、払う腕を掴まれた。
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