溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 ハラリ……と落ちてきた前髪がうざったくて、乱暴にかき上げる。


 『はっ? 何でそんなこと俺が知って…… 』

 「知らないんなら、壱葉くんに聞いて? 」

 『冗談、壱葉が知る訳ないだろ。あの妹が勝手に出てってから、壱は一回しか会ってないんだよ。それも……』

 「……だったら、お前が調べろ。得意だろうが 」


 ごちゃごちゃうるせぇと、浩峨が声音を変える。


 すると、暫くの間の後、電話の向こうから『……勘弁してくれよ。俺の周り、こんな奴ばっかし 』と、泣き言が聞こえてきた。

 そう、いつもニコニコ笑みを絶やさず、誰にでも優しい浩峨先生の本質は、すぐ下の兄弟である浩輔が一番良く知っている。


 「いや、お前んトコの社長さんよりは、よっぽどマシだと思うけど? 」

 『……朔耶もおんなじこと言うだろうよ』


 げんなりとした浩輔の言葉に思わず吹き出した時、『何してんだよ、冷めちゃうだろ 』という浩輔の愛猫の声が小さく奥から聞こえた。


 「冷めちゃうってさ 」

 『面倒臭いこと、頼みやがって…… 』


 けれどもこの生活を手放したくないならば、浩輔に返答の余地はない。

 分かっている答を、浩峨は待つだけだ。


 『……一遍死ねよ、くそ兄貴 』

 忌々しそうに言う、それが浩輔の了解の返事だと知り、浩峨は笑う。

 どこの兄貴も《くそ》だな。


 「口が悪いぞ、コウちゃん。」

 直ぐにブチッ……と切られる通話。


 「本当に可愛いんだから 」

 片目を瞑って更に笑うと、浩峨は階段を降りる足を止めた。
 そして、少しだけ考えると、今来た階段を上がり始める。

 コンビニで食べる物でも買ってこようと思っていたけれど、やはり家に戻ろう。


 何故だか無性に、部屋に居る眠り姫の寝顔を見たくなった。












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