溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 「あれ? どうした、コウちゃん? 浩輔ー? 」


 沈黙するスマホに呼び掛けると、先程よりもっと大きなため息が聞こえてきた。

 『……それって、もしかしてそういうことなのか? 』

 「そういうことって、どういうこと? 」

 『とぼけんなよ、今自分で言ったじゃないか。あのコの好きかも知れない朔耶に勝てないって 』

 浩輔に言われて、初めて気付いて思わずポンと、手を叩きたくなる。


 「あぁ…… 」

 『あぁじゃ、ねぇよ。まさか、本当に…… 』

 「うーん、まだよく分かんないんだよね 」

 浩峨は人差し指で、自分の鼻先をポリッと掻いた。


 「ただ、あのコは面白い。俺の予想や思惑をいい意味でことごとく裏切ってくれる 」

 綺麗に片付けられた部屋の真ん中で、淡い色の長い睫毛を震わせることもなく、疲れて子どもみたいに寝息を立てる美花はまるで天使のように見えた。

 それこそ、あんな大それたことを犯したコだとは、信じられないくらいに。 
 けれど、ひとたび目を覚ましてしまえば、周りにいる全てのものが敵だとでも言うように、たちまち瞳にほむらを宿す……。


 『……兄貴の趣味、分かんねぇ 』

 「だから、俺自身にもよく分かんねぇもんが、お前に分かって堪るか  」

 本気で呆れた声を出す浩輔に、浩峨は苦笑した。そして、思いだしながら瞳を閉じる。


 「あの時、俺には泣いてるように見えたんだ 」

 『えっ……? 』

 抱かないなら出て行くと、見知らぬ男に抱かれに行くと、馬鹿なことを言って聞かないから、ガラにも無く頭に血が上ってひん剥いてみれば、小さな白い身体に残る幾つもの赤黒い青痣と擦過傷に息を飲んだ。

 ずっと、気のせいかと思っていた。 ナイフを持って気が触れたみたいに声をあげて笑っている女の子が、泣いているように見えるなんて。
 
 しかし、それを見た途端、何かが頭の中でカチリと音を立てて嵌まった。

 大丈夫なのか、この子……。もしかしたら、この子は自分でも気付いていないのかも知れないが、壊れる許容範囲を越えているのかも知れない。 いや、既に……。

 思ったら、胸の奥が痛い程に軋んだ。


 踏み込むな、放っておけと、心の中でシグナルが鳴る。

 最初からそのつもりだったろう? 面倒なことに関わるな。……自分に言い聞かせるけれど、次の瞬間、考えることとは反対に身体が動いていた。


 ーーーやだ、やっ……。


 あの子の声を聞きながら、傷痕に上書きをするように口付ける。

 これで、痛みが消えるなんて更々思ってはいない。

 浩峨は、自分自身に深々と嘆息する。けれど困ったのは、誤算はそれだけでは留まらなかったことだ……。


 「おい、浩輔。 お前、あの子が七瀬の家を出た後、どこに行ってたか知らない? 」



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