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 バーンと開かれるドア。
 ん?何んか、どこかで同じシーンがあったような……。そう、今朝辺り。

 でも、音に驚いて振り向いて、腰を抜かしそうになる。

 だってだって、だってっ!そこに居たのは、私の最推し、クラウス様だったのだものっ!


 「ディー……ナ? 」

 ハァハァと息を切らしながら、信じられないものを見るみたいに、透き通る様な深い蒼《ブルー》の瞳が私を見つめている。プラチナに近い金色の髪が、クラウス様が息をする度にキラキラと揺れた。

 「本当に君なのか? 」

 いやいやいや、それ私の台詞ですから。
 側に近付いてくるクラウス様に、ドキドキして苦しくなった。じっと見詰めていられなくて、目の前に手を翳す。
 
 うぅ、目が眩む。やっぱり、本物の破壊力は凄まし過ぎだ。

 本当は瞬きもせずに見ていたかったけれど、余りの眩しさに目を伏せずにはいられなかった。
 それにしても悔やまれる。あぁ、ここにアドルフ様が居たら、どんなに良かったことだろう。

 カツカツと足音が近付いて来た。
 

 「申し訳ありません。お城までは兄と共に参ったのですけれど、兄は仕事があるとのことで、ここに来たのは私1人でございます 」

 私なんかより、きっとアドルフさまに会いたかっただろうと思うと申し訳なくて、挨拶より先にそんなことを言ってしまった。


 「だろうね。アドルフとはさっき会ったよ。君を頼むと言われて…… 」

 「……っ!お兄様に会われたのですね?! 」


 え……? 
 
 嬉しさの余り、顔を上げてびっくりした。
 見上げる程の高い背、しっかりとした身体つき。勝手に中性的なイメージを持っていたけれど、思ったよりも男の人だ。


 「だから、飛んで来たんだよ 」

 けれど、ふわっと微笑まれた花の様な笑顔はやはりクラウス様のもので、私は思わず手を合わせて拝んでしまった。
 神様ありがとう。まさか、こんな日が来るなんて。後はお二人が並んでイチャイチャしてくれる所が見られれば、私の人生に一片の悔いも無い!どこかの世紀末覇者の最期の様なことを思いながら、うっとりとその光景を思い出す。


 「……ディーナ、聞いている? 」

 「はへ……? 」

 
 
 あ、ヤバい。興奮して変な声、出ちゃった。

 ククッと、クラウス様が笑う。
 あぁもぅっ! 笑われてるじゃないの、バカ!私っ!

 コホン……。気を取り直し、優雅にドレスの端を摘《つま》んで腰を落とす。


 「クラウス王子殿下。ディーナ•ペアーレモーネと申します。殿下にはご機嫌麗しく…… 」

 「堅苦しい挨拶はいらないよ。僕はこの日を待っていたんだから 」


 そう言うと私の手を取ると、その手の甲に口唇を寄せた。
 流れるような優雅な所作に、そこに居るもの全てが、ほぅ……と色付いたため息を落とす。
 いや、1人だけ冷静な人間がいた。


 「クラウス。」

 母親である王妃が手に持っている扇を、もう片方の手の平にポンポンと当てている。

 「お行儀が悪いことよ。だからもっと早くいらっしゃいと言ったでしょう? 」

 「母上、僕も政務というものがありましてね。」


 さりげなく引き寄せられ、腰を抱かれる。トン……と密着する身体に、ギャー!と心の中で叫んだ。

 えっ?えっ?! ちょっと待って! 近い、近い、近い、近い、ち、か、いーー!!!


 「毎回、謀《はか》られて、無意味な時間に付き合わされる僕のことを少しでも考えたら、疑って仕方のないことだとお分かりでしょう? 」

 「あら、まるで私《わたくし》が騙したような言い方。親に向かって失礼よ、クラウス。」

 「ご気分を害したならばご容赦を。しかし、僅かでも自覚があるならば、可哀想な僕に彼女を説き落とす時間をくださいませんかね 」

 

 
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