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お父さんとのドライブ

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乱暴な運転だった。
前の車をあおり、急にアクセルを踏んだり、ブレーキを踏んだり。
そして、走っている道はいつしか、僕の見覚えのないものになっていた。

不安に思った僕はお父さんに問いかけた。
「どこへ行くの?」
お父さんは答えた。
「どこでもいいだろう」
「お母さんはどうするの」
「知らねえよ、あんなバカ女」

僕はバックミラー越しにお父さんの顔を見やった。
その表情は、鬼のようだった。

(逃げなきゃ・・・)
そう思い、窓の外を見やると、車は高速道路に入るところだった。

どうしよう。高速道路に入ると、逃げるチャンスを失ってしまう。
まだインターチェンジにいる今のうちに車から飛び出して逃げないと・・・。

車のドアノブに手をかけようとしたところで、
お父さんが無表情に言った。
「逃げんじゃねぇぞ。もし逃げたら、どこまででもお前を追いかけて行って、
ぶち殺してやるからな」

(逃げられない・・・)
僕は、怖くて体が動かなくなった。

車はやがて高速道路に入った。
窓の外を見ると、自家用車からタンクローリーまで、様々な車が行き交っていた。
家族連れの乗る車もあった。

楽しそうだな。
僕ばっかり何でこんな惨めな思いをしなければいけないんだろう。
そう思ったけれど、涙は流れなかった。そんな気力すら、もう残っていなかった。

お父さんが車を走らせる、シャーという無機質な音だけが、僕の耳に飛び込んでくる。

お父さんの運転は相変わらず、前の車をあおったり、急にブレーキを掛けたり、まかり間違えば事故でも起こしかねないような危険運転だった。

その運転を見るだけでわかる。お父さんがいかに暴力的な人間であるか。

何で、僕もお母さんも、こうなる事を予想できなかったんだろう。
何で、もっと早く、誰かに相談できなかったんだろう。

しばらく走ったところで、思わぬチャンスが訪れた。
お父さんの車がパーキングエリアに入ったのだ。

トイレがはずんだらしい。エリアの駐車場に車を止めると、
「ちょっとトイレに行ってくる。帰ってくるまで車の中に居ろ」
そう言って僕を車に残して、トイレの中に入って行ってしまった。

(今のうちに逃げなきゃ)

僕はお父さんがトイレに入ったのを遠目に確認すると、一目散に車から飛び出した。

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