聖ロマニス帝国物語

さくらぎしょう

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75. 親子の再会、そして

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 ジョセフィーヌは涙を流しながら二人に説明する。

「私は……デイリア領で生まれ育ち、デイリア伯のもとでメイドをしていました。その時、デイリア伯に乱暴されて出来た子供がシベリウスです。ただ、彼を産んですぐにデイリア夫人によって無実の罪で黒妖犬島に送られてしまい、彼の成長を見る事も、育てる事も出来ませんでした……グウェインは私のデイリアで暮らしていた時の姓。あの子は、あの女にどれだけ虐げられたのか……」

 ジョセフィーヌの拳は固く握られ、怒りで震えていた。
 
 その時、町の方から大量の馬が近づいてくる足音が聞こえ始めた。
 全員が音のする方向を見れば、マルクスが馬に乗る町民たちを率いてこちらに向かって来ていた。

「サイオン卿!!」
「マルクス!?」

 マルクスがサイオンの前で馬を止めた。

「サイオン卿、戻られたのですね。町民たちが一丸となって戦うと言ってくれました」

 サイオンはマルクスの背後で待機する町民たちを眺めた。年老いた者や、女子供までいる。おそらく皆戦闘経験は無いだろう。ヴェルタ王国で厳しい訓練を受けたサイオンから見れば、彼らは頼りないを通り越して足手まといだった。

「マルクス、彼らの乗って来た馬を、このマーレ族に貸して欲しい。そして町民達は実戦に向かうより、少しでも早く非難して、戦地の兵士達に物資が届くように動いてもらいたい。お願い出来るか?」
「えっと……マーレ族?」
「ああ、戦闘に長けた民族だ。訓練を受けていない町民をむやみに戦地に送るより、戦いに慣れた者達に戦力となる馬を与えた方が勝機も上がれば、死者も減らせる」
「確かにそうですね。わかりました! 皆に説明をしてきます」
「頼んだ」

 マルクスの説明に町民達も納得し、むしろ感謝をしながら馬をマーレ族に渡していった。その様子をサイオンは眺めながら思っていた。

(民の感情を逆なでることなく、納得させ、動かすことが出来る……マルクスは良いものを持っている)



 フロリジア城の謁見の間では、ジュエリアがデイリア伯を中心とした貴族達の槍玉に上げられていた。

「ほら見なさい。あなたが国境の街を商業特区にするとか言い出すから、ヴェルタが攻め込んで来た」
「これだから、小娘がこの国の主となることに反対だったんだ……」
「どうやって責任を取るのですか?」

 ジュエリアは玉座に座ったまま、視線を床に向けて戯言に惑わされぬよう意識を集中していた。

(なぜ……ヴェルタは軍に国境を越えさせたの……?)

 謁見の間にシベリウスが駆け込んで来た。

「フロリジア公! サイオン卿の鷹が手紙を運んできました。すぐに内容のご確認を」
「サイオン卿!? やっと便りが来たのね!」

 ジュエリアはシベリウスから手渡された手紙に目を通すと、手紙を折りたたみ、デイリア伯を睨みつける。予想もしなかったジュエリアから発せられたその凄みに、貴族達は怯んだ。

「デイリア伯、あなたに命じます」
「従う理由がどこに?」
「従わなければお前を投獄するまで」
「何を!?」
「シベリウスッ! その男を捕まえて」

 ジュエリアの声にシベリウスは即座に動き、後ずさったデイリア伯の両腕を拘束した。

「くっ……お前……兄に向かってよくも。我が家の温情で生き延びられた乞食がっ!!」

 恨み節をぶつけるデイリア伯を、シベリウスは徹底的に無視した。

 貴族達はデイリア伯の突然の拘束に驚き、ジュエリアを非難する。

「何の罪があってこんなことを!!」
「この暴君が!!」

 ジュエリアはスッと息を吸い込むと、貴族達を睨みつけて唸った。

「黙りなさいっ!! 誰に向かってそのような発言をするかっ! デイリア伯には国家転覆の疑いがあります。疑いが晴れるまでは、この城の北棟から出る事を許しませんっ。この場で緊急事態を発令し、緊急事態時のフロリジア公の権限をもって、司法の介入なしに進めます」

 部屋の壁際に待機していた兵士達がジュエリアの合図を受けて動き出し、シベリウスからデイリア伯を引き渡されると、デイリア伯は兵士達に北棟へと連れて行かれた。
 
 ジュエリアは怒りを堪えて玉座を立ち、小うるさい貴族達など無視して部屋を出て行く。
 シベリウスはジュエリアの後を追いかけ、彼女の肩を掴んだ。

「ジュエル! どうしたんだ!?」
「こんな事あってはならないっ!!」

 ジュエリアはサイオンの手紙をシベリウスに突きつける。
 シベリウスは戸惑いながら手紙を開き、目を通した。

「セルマ寡妃指示の元、デイリア伯主導でローゼンの地下で爆薬?」
「それだけじゃない。サイオン卿のその後の推察はありえる」
「……爆薬作りに駆り出される使い捨ての人員がいるはずで、それはおそらく金に困り、消えたところで誰も騒がないような者達……つまり、貧困街の……」
「フロリジアにこんな酷い場所があって、それを作っていたのが元公妃と貴族だなんて……彼らは真っ先に弱い者達を守らなければいけない立場なのよ!!」

 ジュエリアはまた足早に廊下を歩き出す。

「ジュエルっ! どこに行くつもりだ?」
「サイオン卿とトマスは国境で戦ってくれている。なら、私が爆薬を何とかする。そこに本当に貧困層の人々がいるなら、揉み消される前に一秒でも早く私が直接見つけるの!」

 
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