72 / 81
72. トマスの脱走計画
しおりを挟む
トマスの部屋には大きなバスタブが置かれ、熱い湯が下男たちによって運び込まれていた。湯がバスタブに注ぎ込まれると、白い湯気がモクモクと部屋の中に立ち昇り、湿度が上がる。
トマスは女性ものの真っ白なシュミーズを着て、ソファに座って湯あみの準備が整うのを待っていた。その姿は麗しい貴婦人そのものである。
メイドがバスタブの中に赤い花びらを撒き終えると、使用人達がトマスに頭を下げてから撤収し始めた。
「朝の湯あみの準備が出来ましたので、私共は下がります。終わりましたらお呼びください」
最後の一人だった、ダークブラウンヘアーのメイドが部屋から出ようとした時、トマスは彼女の背後に立ち、腕を伸ばして扉に手をあてて開けさせなかった。
トマスは彼女の耳元で囁く。
「手伝ってくれないか?」
メイドは顔だけでなく、耳まで真っ赤にして身をすくめながらこくりと頷く。
「は……はい」
このメイドは、トマスの着替えをいつも盗み見ており、鏡越しにトマスと目が合った時に顔を赤くしていた。トマスはその様子から、彼女は自分のことを女性ではなく男性として意識している気がしていた。
メイドがゆっくりとトマスの方へ振り返る。トマスは目が合った瞬間に、着ていたシュミーズをパサリと床に脱ぎ落した。
メイドは両手で口を押さえ、恥じらいながらも好奇心に満ちた目でトマスの裸をまじまじと見ている。
「不思議? 脱いだら男の身体なのは」
トマスはそう言うと、バスタブに向かって歩き出し、湯の中に入った。
「背中を洗って貰える?」
トマスに頼まれ、メイドは慌ててバスタブに駆け寄り、スポンジでトマスの背中を遠慮がちに撫でる。
「ありがとう、とても気持ちが良いよ。腕もお願い出来る?」
「は……はいっ!」
メイドがトマスの腕を磨こうとトマスの隣に移動し、しゃがんでから腕を優しく洗い始め、時折視線を湯船の中に向けている。
なぜかトマスの腕が上に上がりはじめ、メイドが困惑していると、その腕はメイドの背中に回り、肩を抱いた。そしてメイドはバスタブの方へと身体を引き寄せられる。
「ねえ、私に何か望む事はある?」
甘い声で囁くトマスに、メイドは顔を真っ赤にし、言葉がどもる。
「ののののののの、のぞっ、望むことですか!?」
そう言いながらも、メイドはチラチラとトマスの唇を見ていた。
トマスはメイドを覗き込むように顔を寄せる。
「私は男娼だし、そんなに気兼ねしなくていいんだよ」
トマスはそう言ってメイドの唇を見つめた。すると、思わずメイドは目を瞑り、吸い寄せられるように唇を前へと差し出す。
「それが望み?」
「へ?」
メイドは目を開けてトマスを見た。トマスはふっと笑みを見せる。
「いいよ」
トマスは空いていた片手でメイドの顎を掴むと、軽くキスをする。
だが、その一回のキスでメイドはたがを外し、トマスの首に両腕を回して、欲情したキスを自らトマスの唇に降らせ始めた。トマスは彼女からのキスを受けつつ、キスの合間にメイドに話しかける。
「ねえ……大切なメイド服が濡れたら大変じゃない? 君も……脱いだら?」
興奮状態のメイドはキスを止め、トマスを見つめながら服を脱ぎ始める。トマスは微笑んで見せ、湯から出てタオルで身体を拭き、そしてそのままメイドをベッドへと誘い込む。
メイドはトマスに望みを叶えてもらい、その後満足して眠ってしまった。
トマスは静かにベッドを降りて、床に捨てられたメイドの服を拾い、着替え始める。
ベッドのシーツをメイドに掛けてあげると、トマスは小声で囁く。
「君の願いを叶えたから、俺の願いも叶えてね」
シーツはメイドの口元あたりまでかけられ、そのため髪の長さはわからなくなり、ベッドの天蓋で暗がりとなっているので、ダークブラウンの髪色は黒色に見えた。少し離れた位置からなら、トマスが寝ているように見える。
トマスはメイドの帽子を深く被り、濡れたバスタオルや洗濯物を両手で抱えて顔を隠しながら部屋を出て行った。
トマスは女性ものの真っ白なシュミーズを着て、ソファに座って湯あみの準備が整うのを待っていた。その姿は麗しい貴婦人そのものである。
メイドがバスタブの中に赤い花びらを撒き終えると、使用人達がトマスに頭を下げてから撤収し始めた。
「朝の湯あみの準備が出来ましたので、私共は下がります。終わりましたらお呼びください」
最後の一人だった、ダークブラウンヘアーのメイドが部屋から出ようとした時、トマスは彼女の背後に立ち、腕を伸ばして扉に手をあてて開けさせなかった。
トマスは彼女の耳元で囁く。
「手伝ってくれないか?」
メイドは顔だけでなく、耳まで真っ赤にして身をすくめながらこくりと頷く。
「は……はい」
このメイドは、トマスの着替えをいつも盗み見ており、鏡越しにトマスと目が合った時に顔を赤くしていた。トマスはその様子から、彼女は自分のことを女性ではなく男性として意識している気がしていた。
メイドがゆっくりとトマスの方へ振り返る。トマスは目が合った瞬間に、着ていたシュミーズをパサリと床に脱ぎ落した。
メイドは両手で口を押さえ、恥じらいながらも好奇心に満ちた目でトマスの裸をまじまじと見ている。
「不思議? 脱いだら男の身体なのは」
トマスはそう言うと、バスタブに向かって歩き出し、湯の中に入った。
「背中を洗って貰える?」
トマスに頼まれ、メイドは慌ててバスタブに駆け寄り、スポンジでトマスの背中を遠慮がちに撫でる。
「ありがとう、とても気持ちが良いよ。腕もお願い出来る?」
「は……はいっ!」
メイドがトマスの腕を磨こうとトマスの隣に移動し、しゃがんでから腕を優しく洗い始め、時折視線を湯船の中に向けている。
なぜかトマスの腕が上に上がりはじめ、メイドが困惑していると、その腕はメイドの背中に回り、肩を抱いた。そしてメイドはバスタブの方へと身体を引き寄せられる。
「ねえ、私に何か望む事はある?」
甘い声で囁くトマスに、メイドは顔を真っ赤にし、言葉がどもる。
「ののののののの、のぞっ、望むことですか!?」
そう言いながらも、メイドはチラチラとトマスの唇を見ていた。
トマスはメイドを覗き込むように顔を寄せる。
「私は男娼だし、そんなに気兼ねしなくていいんだよ」
トマスはそう言ってメイドの唇を見つめた。すると、思わずメイドは目を瞑り、吸い寄せられるように唇を前へと差し出す。
「それが望み?」
「へ?」
メイドは目を開けてトマスを見た。トマスはふっと笑みを見せる。
「いいよ」
トマスは空いていた片手でメイドの顎を掴むと、軽くキスをする。
だが、その一回のキスでメイドはたがを外し、トマスの首に両腕を回して、欲情したキスを自らトマスの唇に降らせ始めた。トマスは彼女からのキスを受けつつ、キスの合間にメイドに話しかける。
「ねえ……大切なメイド服が濡れたら大変じゃない? 君も……脱いだら?」
興奮状態のメイドはキスを止め、トマスを見つめながら服を脱ぎ始める。トマスは微笑んで見せ、湯から出てタオルで身体を拭き、そしてそのままメイドをベッドへと誘い込む。
メイドはトマスに望みを叶えてもらい、その後満足して眠ってしまった。
トマスは静かにベッドを降りて、床に捨てられたメイドの服を拾い、着替え始める。
ベッドのシーツをメイドに掛けてあげると、トマスは小声で囁く。
「君の願いを叶えたから、俺の願いも叶えてね」
シーツはメイドの口元あたりまでかけられ、そのため髪の長さはわからなくなり、ベッドの天蓋で暗がりとなっているので、ダークブラウンの髪色は黒色に見えた。少し離れた位置からなら、トマスが寝ているように見える。
トマスはメイドの帽子を深く被り、濡れたバスタオルや洗濯物を両手で抱えて顔を隠しながら部屋を出て行った。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

我儘王女は目下逃亡中につき
春賀 天(はるか てん)
恋愛
暴君と恐れられている父王から
愛妾である母と同様に溺愛されている
第四王女は、何でも自分の思い通りに
になるのが当たり前で、
その我儘ぶりから世間からも悪名高い
親子として嫌われていた。
そんなある日、突然の父の訃報により
自分の周囲が一変し国中全てが敵になり、
王女は逃げる、捕まる、また逃げる。
お願いだから、もう放っておいてよ!
果たして王女は捕まるのか?
【別サイト**~なろう(~読もう)さん
でも掲載させて頂いてます**休止中】
婚約者が肉食系女子にロックオンされています
キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19)
彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。
幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。
そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。
最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。
最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。
結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。
一話完結の読み切りです。
従っていつも以上にご都合主義です。
誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる