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68.海の民
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森の中でサイオンの目の前に現れた村は、背の高い木杭で出来た柵が綺麗に規則的に打ち込まれており、柵の中は見えない。だが、空に向かって成長している樹木が柵の上から沢山見えており、まるで柵の中にも森があるのかと思わずにいられないが、樹木の間からは暖色の光が漏れており、決してこの村に暗い印象はない。食事を作る良い香りまで周辺に漂わせており、罪人たちの村にはなかった温かさを感じる。
門の前には門番らしき男二人が立っている。頭には赤いバンダナを巻いており、そこから少しはみ出た髪の色は漆黒の色。彼らの服装は、貴族の着る白シャツの前ボタンをいくつか開けて気崩しており、腰にはスカーフを巻いている。シャツの間から覗く素肌は褐色。
(先住民と聞いていたから、てっきりもっと原始的な生活をしている者達かと思っていたが……森の中の海賊だな)
「まて」
「用件を言え」
サイオンはフードを下ろして彼らに顔を見せた。
(問答無用で襲いかかってくるかと思えば、無法者達よりも話が通じそうな連中だ……)
「この村にジョセフィーヌという女性がいると聞いて来た。彼女に会うことは出来るか?」
門番達は顔を見合わせ困っている。だが、その反応は、確かにここにジョセフィーヌがいると示唆しているとも言えるだろう。サイオンは緊張しながらも、僅かに期待が膨らみだした。
「……ジョセフィーヌ様は、ヤールの妻だ。簡単には会えない」
「ヤール?」
「我々は指導者の事をヤールと言う。海の民マーレ族の指導者はヤール・ブラッドリー・スミス。その妻がジョセフィーヌ様だ」
「森の中なのに海の民? ジョセフィーヌと先住民の指導者との間に生まれたのがトマスなのか……?」
サイオンが門番たちと話していると、森の方から馬の群れがやって来る。騎乗している者達の肌は褐色。
馬が速度を落とし始めると、門番たちは両手を後ろに組んで姿勢を正した。
先頭を走っていた馬が、サイオンの目の前まで来て止まった。貴族のコートを羽織った、褐色肌の中年の男が馬に乗った状態でサイオンを鋭い目つきで見下ろす。馬は走り終えた直後で荒い息を立てながら、前脚を上げたり下げたりしていた。
「白い肌の者が我々に何の用だ」
「ジョセフィーヌという女性に会いたい」
その言葉を聞き、男の眉間に皺が寄る。
「理由は?」
「私の侍従であるトマスという黒髪の者が、彼女の息子の可能性があるから」
男は寄せていた皺を伸ばし、目を大きく見開いた。
「トマス……?」
「その様子だと知っているな」
男はサイオンの問いかけには答えず、後ろに控えていた男達に合図をする。
「そいつを俺の家まで連れて来い」
そう言うと、男は門番に門を開けさせ、一人先に馬で中へと入って行った。
「おい、そこのお前、ヤールの家まで連れて行くから俺の後ろに乗れ」
サイオンはマーレ族のその言葉を聞いて驚く。先ほどまで話していた相手がヤール、つまりジョセフィーヌの夫で、トマスの父親の可能性がある者だったのだ。
サイオンは馬に乗せられて門を通ると、中はかなり広く、門の中にもやはり森が広がっていた。木々や植物が生い茂ってはいるが、人が通る道はきちんと石畳で整備され、樹木と一体化した家がいたるところにあり、木々の枝に下げられたランプの暖色の炎が、薄暗い森の中を明るく照らし、まるで蛍が輝いているような幻想的な空間だった。広場の様な場所では露店も開かれている。罪人達の村とは活気が違う。
「凄い……」
思わず漏れた言葉に、サイオンを乗せて馬を歩かせている男が笑った。
「大陸の奴らが罪人をこの島に送ってくる前、俺らのじーさんばーさんの代の頃は、この島はもっと美しかったんだ」
「そうか……」
「お前も大陸から来たんだろ? どんな罪を犯した?」
「いや、私は人探しをしていてこの島に訪れたんだ」
「愚かなことを。この島に入ったら、マーレ族でない限り簡単には出られない」
「そうなのか?」
「大陸から来た奴らを島の一部に住まわせてやるのは我々の情けだ。この島近海には怪物が住んでる。潮の流れの影響なのか、怪物達は島に流れて来るものは攻撃しないが、この島近海から大陸に向かおうとすると鋭い牙を向けて来る」
「怪物とは?」
サイオンが続きを聞こうとすると、馬が止まってしまった。
「さあ、ここがヤールの家だ。降りろ」
サイオンは目の前の家を見れば、他の木々に建てられた家とは違い、ヤールの家は樹齢が何千年も超えているであろう、一際大きな巨木の上に建てられたツリーハウスだった。そして玄関の前に一人の女性が立っている。雪の様に真っ白なホワイトブロンドの髪を後ろに束ね、少し着古してはいるが、上質なワンピースを着て、凛とした表情で立っている。
サイオンは一目で彼女がジョセフィーヌだとわかった。だが、ざわざわと胸が騒ぎ出す。
(トマスの生母……というより……)
「私の息子、トマスをご存じなのですか?」
ジョセフィーヌの言葉に、やはり彼女が探していたトマスの母だとわかり、サイオンの表情は緩む。
「トマスは私の侍従。だが攫われてしまい、彼を見つけるためにここまでやって来た」
「攫われた? ……とにかく、中へ」
ジョセフィーヌは扉を開け、サイオンを家の中へ招き入れた。
門の前には門番らしき男二人が立っている。頭には赤いバンダナを巻いており、そこから少しはみ出た髪の色は漆黒の色。彼らの服装は、貴族の着る白シャツの前ボタンをいくつか開けて気崩しており、腰にはスカーフを巻いている。シャツの間から覗く素肌は褐色。
(先住民と聞いていたから、てっきりもっと原始的な生活をしている者達かと思っていたが……森の中の海賊だな)
「まて」
「用件を言え」
サイオンはフードを下ろして彼らに顔を見せた。
(問答無用で襲いかかってくるかと思えば、無法者達よりも話が通じそうな連中だ……)
「この村にジョセフィーヌという女性がいると聞いて来た。彼女に会うことは出来るか?」
門番達は顔を見合わせ困っている。だが、その反応は、確かにここにジョセフィーヌがいると示唆しているとも言えるだろう。サイオンは緊張しながらも、僅かに期待が膨らみだした。
「……ジョセフィーヌ様は、ヤールの妻だ。簡単には会えない」
「ヤール?」
「我々は指導者の事をヤールと言う。海の民マーレ族の指導者はヤール・ブラッドリー・スミス。その妻がジョセフィーヌ様だ」
「森の中なのに海の民? ジョセフィーヌと先住民の指導者との間に生まれたのがトマスなのか……?」
サイオンが門番たちと話していると、森の方から馬の群れがやって来る。騎乗している者達の肌は褐色。
馬が速度を落とし始めると、門番たちは両手を後ろに組んで姿勢を正した。
先頭を走っていた馬が、サイオンの目の前まで来て止まった。貴族のコートを羽織った、褐色肌の中年の男が馬に乗った状態でサイオンを鋭い目つきで見下ろす。馬は走り終えた直後で荒い息を立てながら、前脚を上げたり下げたりしていた。
「白い肌の者が我々に何の用だ」
「ジョセフィーヌという女性に会いたい」
その言葉を聞き、男の眉間に皺が寄る。
「理由は?」
「私の侍従であるトマスという黒髪の者が、彼女の息子の可能性があるから」
男は寄せていた皺を伸ばし、目を大きく見開いた。
「トマス……?」
「その様子だと知っているな」
男はサイオンの問いかけには答えず、後ろに控えていた男達に合図をする。
「そいつを俺の家まで連れて来い」
そう言うと、男は門番に門を開けさせ、一人先に馬で中へと入って行った。
「おい、そこのお前、ヤールの家まで連れて行くから俺の後ろに乗れ」
サイオンはマーレ族のその言葉を聞いて驚く。先ほどまで話していた相手がヤール、つまりジョセフィーヌの夫で、トマスの父親の可能性がある者だったのだ。
サイオンは馬に乗せられて門を通ると、中はかなり広く、門の中にもやはり森が広がっていた。木々や植物が生い茂ってはいるが、人が通る道はきちんと石畳で整備され、樹木と一体化した家がいたるところにあり、木々の枝に下げられたランプの暖色の炎が、薄暗い森の中を明るく照らし、まるで蛍が輝いているような幻想的な空間だった。広場の様な場所では露店も開かれている。罪人達の村とは活気が違う。
「凄い……」
思わず漏れた言葉に、サイオンを乗せて馬を歩かせている男が笑った。
「大陸の奴らが罪人をこの島に送ってくる前、俺らのじーさんばーさんの代の頃は、この島はもっと美しかったんだ」
「そうか……」
「お前も大陸から来たんだろ? どんな罪を犯した?」
「いや、私は人探しをしていてこの島に訪れたんだ」
「愚かなことを。この島に入ったら、マーレ族でない限り簡単には出られない」
「そうなのか?」
「大陸から来た奴らを島の一部に住まわせてやるのは我々の情けだ。この島近海には怪物が住んでる。潮の流れの影響なのか、怪物達は島に流れて来るものは攻撃しないが、この島近海から大陸に向かおうとすると鋭い牙を向けて来る」
「怪物とは?」
サイオンが続きを聞こうとすると、馬が止まってしまった。
「さあ、ここがヤールの家だ。降りろ」
サイオンは目の前の家を見れば、他の木々に建てられた家とは違い、ヤールの家は樹齢が何千年も超えているであろう、一際大きな巨木の上に建てられたツリーハウスだった。そして玄関の前に一人の女性が立っている。雪の様に真っ白なホワイトブロンドの髪を後ろに束ね、少し着古してはいるが、上質なワンピースを着て、凛とした表情で立っている。
サイオンは一目で彼女がジョセフィーヌだとわかった。だが、ざわざわと胸が騒ぎ出す。
(トマスの生母……というより……)
「私の息子、トマスをご存じなのですか?」
ジョセフィーヌの言葉に、やはり彼女が探していたトマスの母だとわかり、サイオンの表情は緩む。
「トマスは私の侍従。だが攫われてしまい、彼を見つけるためにここまでやって来た」
「攫われた? ……とにかく、中へ」
ジョセフィーヌは扉を開け、サイオンを家の中へ招き入れた。
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