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66. 姉妹
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シベリウスと別れたジュエリアは、ミアの部屋に寄り、扉をノックしてから入れば、ミアはベッドで横になっていた。
「ミア、気分はどう?」
ジュエリアはミアに優しく声を掛けるが、ミアは起き上がる事が出来ず、横になったまま青白い顔をジュエリアに向けた。
「悪阻が収まってからは眩暈が酷くて……」
ジュエリアはベッドサイドに置かれた椅子に座ると、すぐに彼女の手元に目がいく。
「ミア……あなた、また爪を噛んでたのね」
ミアはそう指摘されると、咄嗟に手を握って指を隠した。
「不安なの?」
ジュエリアの質問にミアは視線を逸らして答えない。
「ミア……あなたを大切に想ってる。私達色々あったけど、ずっと一緒に暮らして来た家族じゃない」
ミアはか細い声で答えた。
「ねえ……私の夢ってなんだったか知ってる?」
「……それは……」
ミアは再三口にしていたので、答えは決まっていた。
「シベリウスと結ばれる事」
ジュエリアはミアの言葉に俯くが、ミアはフッと軽く笑って、やっとジュエリアを見た。
「……でも、そうじゃないの」
ミアは儚げな様子で、今にも壊れてしまいそうだった。
「この城から出たかったの。女公になんてなりたくなかった。そんな器じゃないのよ。正当な後継者だった姉を差し置いて妹の私が女公になるっていうのは、お姉さまよりも私の方が優れていると、常に周囲に示さないといけないのよ。ずっとプレッシャーとの戦いだった。少しでもお姉さまが私よりも優秀な面を見せれば、私は周囲から一斉に非難を浴びる……。なぜ、あの子をわざわざ女公にするんだと」
「ミア……」
「お姉さまは、いずれ城を出られる。人生のほんのわずかな時間を我慢していれば、公爵家に生まれたしがらみから放たれるの。政略結婚だろうと、歳が近い婚約者なら恋愛も出来るかもしれない。それで、お姉さまの元にやってきたのがアルベールやあんなに素敵なシベリウス。私の望むものをどんどん手に入れるお姉さまが、羨ましくて、悔しくて、寂しくて……」
「ミア……ごめんなさい……私……」
「シベリウスもアルベールも私のものにはならなかったけど、でも結局、お姉さまが女公となり、私も結果的には望んでいた人生を手に入れた。今はサイオンが伴侶なのは恵まれているのだと理解している」
ミアはまた無意識に爪を噛み始めていた。ジュエリアがその指を優しく握り締める。ミアの手には力が入ったままだった。
「なのにね……私、今が一番怖いのよ……」
「ミア、今まで本当にごめんなさい。私は自分ばかり不幸だと嘆いて、周りを見ていなかった。孤児や、貧困にあえぐ民、理不尽なこの世のルールで虐げられる善良な者や、大切な家族であるはずのあなた……」
「大切な家族……ね」
「ミア?」
ミアは寂しそうな笑顔でお腹をさすっている。
「私……お母様のような母になってしまったらどうしよう……私はちゃんと子供を愛せるかしら」
ジュエリアはやっとミアが何を恐れているのかわかった。
「ミア、あなたは子供の幸せが何かを分かってるから、そういう風に考えてしまうの。その時点で、あなたはお継母様のような、子供に対して残酷な事はしない」
「お姉さま……でも私はあの人の血を引いてるのよ」
「ミア、お継母様にも良いところがあるのよ。意思が強く、頭は良く、行動力もある。その血を引いたミアが、子供を幸せにすると決意したなら、絶対に幸せに出来るわ」
「母の良いところ……まさかお姉さまの口から聞く日が来るとは思わなかったわ」
「私も意外だけど、でも、この国が今日までこれたのは、お継母様がいたからという事実もある。セルマ寡妃は名君になる素質もあったのよ」
ジュエリアは握りしめていたミアの力んだ手が、少しほぐれた気がした。
「ありがとう……何だか私の存在も認められた気がした」
ミアはほんの少し微笑みを見せてくれた。
「ミア、気分はどう?」
ジュエリアはミアに優しく声を掛けるが、ミアは起き上がる事が出来ず、横になったまま青白い顔をジュエリアに向けた。
「悪阻が収まってからは眩暈が酷くて……」
ジュエリアはベッドサイドに置かれた椅子に座ると、すぐに彼女の手元に目がいく。
「ミア……あなた、また爪を噛んでたのね」
ミアはそう指摘されると、咄嗟に手を握って指を隠した。
「不安なの?」
ジュエリアの質問にミアは視線を逸らして答えない。
「ミア……あなたを大切に想ってる。私達色々あったけど、ずっと一緒に暮らして来た家族じゃない」
ミアはか細い声で答えた。
「ねえ……私の夢ってなんだったか知ってる?」
「……それは……」
ミアは再三口にしていたので、答えは決まっていた。
「シベリウスと結ばれる事」
ジュエリアはミアの言葉に俯くが、ミアはフッと軽く笑って、やっとジュエリアを見た。
「……でも、そうじゃないの」
ミアは儚げな様子で、今にも壊れてしまいそうだった。
「この城から出たかったの。女公になんてなりたくなかった。そんな器じゃないのよ。正当な後継者だった姉を差し置いて妹の私が女公になるっていうのは、お姉さまよりも私の方が優れていると、常に周囲に示さないといけないのよ。ずっとプレッシャーとの戦いだった。少しでもお姉さまが私よりも優秀な面を見せれば、私は周囲から一斉に非難を浴びる……。なぜ、あの子をわざわざ女公にするんだと」
「ミア……」
「お姉さまは、いずれ城を出られる。人生のほんのわずかな時間を我慢していれば、公爵家に生まれたしがらみから放たれるの。政略結婚だろうと、歳が近い婚約者なら恋愛も出来るかもしれない。それで、お姉さまの元にやってきたのがアルベールやあんなに素敵なシベリウス。私の望むものをどんどん手に入れるお姉さまが、羨ましくて、悔しくて、寂しくて……」
「ミア……ごめんなさい……私……」
「シベリウスもアルベールも私のものにはならなかったけど、でも結局、お姉さまが女公となり、私も結果的には望んでいた人生を手に入れた。今はサイオンが伴侶なのは恵まれているのだと理解している」
ミアはまた無意識に爪を噛み始めていた。ジュエリアがその指を優しく握り締める。ミアの手には力が入ったままだった。
「なのにね……私、今が一番怖いのよ……」
「ミア、今まで本当にごめんなさい。私は自分ばかり不幸だと嘆いて、周りを見ていなかった。孤児や、貧困にあえぐ民、理不尽なこの世のルールで虐げられる善良な者や、大切な家族であるはずのあなた……」
「大切な家族……ね」
「ミア?」
ミアは寂しそうな笑顔でお腹をさすっている。
「私……お母様のような母になってしまったらどうしよう……私はちゃんと子供を愛せるかしら」
ジュエリアはやっとミアが何を恐れているのかわかった。
「ミア、あなたは子供の幸せが何かを分かってるから、そういう風に考えてしまうの。その時点で、あなたはお継母様のような、子供に対して残酷な事はしない」
「お姉さま……でも私はあの人の血を引いてるのよ」
「ミア、お継母様にも良いところがあるのよ。意思が強く、頭は良く、行動力もある。その血を引いたミアが、子供を幸せにすると決意したなら、絶対に幸せに出来るわ」
「母の良いところ……まさかお姉さまの口から聞く日が来るとは思わなかったわ」
「私も意外だけど、でも、この国が今日までこれたのは、お継母様がいたからという事実もある。セルマ寡妃は名君になる素質もあったのよ」
ジュエリアは握りしめていたミアの力んだ手が、少しほぐれた気がした。
「ありがとう……何だか私の存在も認められた気がした」
ミアはほんの少し微笑みを見せてくれた。
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