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60.結婚の申し込み
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シベリウスが窓の外のローゼンの景色に意識を集中していれば、いつの間にか部屋にフロリジア公と、もう一人見知らぬ男性が立っていた。その男性はフロリジア公よりも上質な服を着ており、身に着ける装飾品の輝きも際立っていた。
「シベリウス、こちらは我らが聖ロマニス帝国の皇帝陛下だ。ご挨拶を」
さすがにシベリウスは、この国の最高権力者が現れるとは思わず、驚きすぎて目を見開いて固まってしまった。
「おいおいルーベル、こんなに幼いんだ。しかもこの子はずっと虐待されて育ったのだろ? ここは私から彼に挨拶させてくれ」
聖ロマニス帝国皇帝は窓際で立つシベリウスの近くまで寄ると、片膝をつき、シベリウスと目線を合わせて微笑んだ。
「マリウスという。これでも皇帝なんだ。だから、君が勇気を出して教えてくれた事に対して褒美を与えにきたんだよ。何か欲しいものはあるかな?」
「それは……私がデイリア伯の息子である事と、伯爵家とセルマ公妃の企みを信じてくれたという事ですか?」
皇帝は微笑みながら頷く。
「伯爵家はこの滞在中に密約に関する書面をセルマ公妃と交わしていたようで、こっそり伯爵家の荷物を探ったら密約書を見つけたよ。こちらが見つけたことはバレていない。
だが今咎めたところで、ジュエリアは生きているし、密約書もうまく出来ていてジュエリアを殺すとは明確に記載されていなかった。彼らにシラを切られて終わるだけだ。だから今後も知らないフリをして彼らを泳がせる」
「それではジュエリア嬢が死んでしまいますっ!!」
シベリウスの必死な様子を見て、皇帝は気がついた。
「ああ、そうか、君はジュエリアに恋をしているんだね。だからか」
真っ直ぐに自分の瞳を見て心のうちを当てられてしまい、シベリウスは恥ずかしくて目を逸らした。
「ではシベリウス、君に頼みがある」
「頼み?」
「ああ、ジュエリアを救ってくれないか?」
「もちろんですっ!!」
間髪入れずに返事をするシベリウスを見て、皇帝はクククッと笑いを堪える。
「君は……本当にジュエリアが好きなんだね。
ルーベル、娘を幸せにしたいなら、こういう男に嫁がせないと」
「陛下、なにぶん娘二人の婚約に関しては、私は蚊帳の外なので、選びたくても選べないんですよ」
そうゴチるフロリジア公を皇帝は見て笑うだけで、すぐにシベリウスに視線を戻した。
「シベリウス、今君がフロリジア公の計らいによって療養しているのは、すでに城のものは皆知っている。それゆえ、君の家族は君にかなりご立腹の様だ。兄君達は君が私達に告げ口をしていないかハラハラしながら過ごしているよ。だから、伯爵家に戻る場所はもうないんだよ、君は」
シベリウスはそうだろうと腹を括っていたので、そこまで驚くことはなかった。
「それは、今に始まった事ではないです」
「そうか。ならそこでだ、このまま私の城に来て、私の小姓にならないか? 君の働き次第で、私はいくらでも君に褒美をやろう。それこそ私には君に地位も領地も与えることが出来るよ」
「いえ、陛下、私は別に権力が欲しくてお伝えしたわけでは……」
「もちろん、君が欲しいのはジュエリアだろう」
シベリウスの顔は、まるで湯気でも出ているかのような、真っ赤な顔になった。
「陛下!! そんな大それたこと、私は望んでおりません!」
皇帝は楽しそうにシベリウスと会話をしている。
「いや、望むべきだよ。ジュエリアの結婚までにはあと十二年もある。それまでに君が彼女の婚約者に相応しい立場になっていれば、間違いなく私はこの権力を使って君をジュエリアの婚約者に据える。もちろん帝国の利点を考えてだ。だがそれはつまり、君にとっても、ジュエリアの命を君が救えるって事に繋がるんじゃないかな?」
フロリジア公は皇帝の言葉に慌てた。
「たった十二年で、領地を与えるほどの結果を出させるのですか? 周りも認めるような? それはいくらなんでも過酷では……」
だがシベリウスは決意をした張りのある声で、しっかりと答えた。
「皇帝陛下、私は必ずあなたが望む結果を出します。どうか、小姓にしてください」
皇帝はフロリジア公にニヤリと笑って見せてから、シベリウスに頷く。
「ああ、よろしく頼む」
シベリウスは皇帝からの言葉を受けて礼をしてから、フロリジア公の前まで歩み出て片膝をついた。
皇帝ではなく自分の前で膝をつくシベリウスに、フロリジア公はギョッとする。
「おいシベリウス、お前の主は皇帝陛下であって、跪く相手を間違えているぞ」
だがシベリウスはフロリジア公を見上げ、一点の曇りもない瞳を真っ直ぐにフロリジア公に向けた。
「フロリジア公殿下、ジュエリア嬢が十八を迎えるまでに、皇帝陛下のもとで懸命に働き、必ずや地位を得て参ります。ですので、どうぞ、この私にジュエリア嬢と結婚させてください」
フロリジア公は口を開けたまま唖然としてシベリウスを見ていた。
「お前は一体何歳なんだ……中身はもう成人しているのか?」
フロリジア公の呟きを気にも止めず、シベリウスはただ一心に、少年ではなく一人の男として誓う。
「命を賭けてジュエリア嬢を守ります」
フロリジア公は彼の姿を見て自然と頷いてしまった。
そして、シベリウスと同じ目線までしゃがみ、しっかりと強い視線を向けた。
「娘を頼む。だから、早く迎えに来るんだぞ」
「シベリウス、こちらは我らが聖ロマニス帝国の皇帝陛下だ。ご挨拶を」
さすがにシベリウスは、この国の最高権力者が現れるとは思わず、驚きすぎて目を見開いて固まってしまった。
「おいおいルーベル、こんなに幼いんだ。しかもこの子はずっと虐待されて育ったのだろ? ここは私から彼に挨拶させてくれ」
聖ロマニス帝国皇帝は窓際で立つシベリウスの近くまで寄ると、片膝をつき、シベリウスと目線を合わせて微笑んだ。
「マリウスという。これでも皇帝なんだ。だから、君が勇気を出して教えてくれた事に対して褒美を与えにきたんだよ。何か欲しいものはあるかな?」
「それは……私がデイリア伯の息子である事と、伯爵家とセルマ公妃の企みを信じてくれたという事ですか?」
皇帝は微笑みながら頷く。
「伯爵家はこの滞在中に密約に関する書面をセルマ公妃と交わしていたようで、こっそり伯爵家の荷物を探ったら密約書を見つけたよ。こちらが見つけたことはバレていない。
だが今咎めたところで、ジュエリアは生きているし、密約書もうまく出来ていてジュエリアを殺すとは明確に記載されていなかった。彼らにシラを切られて終わるだけだ。だから今後も知らないフリをして彼らを泳がせる」
「それではジュエリア嬢が死んでしまいますっ!!」
シベリウスの必死な様子を見て、皇帝は気がついた。
「ああ、そうか、君はジュエリアに恋をしているんだね。だからか」
真っ直ぐに自分の瞳を見て心のうちを当てられてしまい、シベリウスは恥ずかしくて目を逸らした。
「ではシベリウス、君に頼みがある」
「頼み?」
「ああ、ジュエリアを救ってくれないか?」
「もちろんですっ!!」
間髪入れずに返事をするシベリウスを見て、皇帝はクククッと笑いを堪える。
「君は……本当にジュエリアが好きなんだね。
ルーベル、娘を幸せにしたいなら、こういう男に嫁がせないと」
「陛下、なにぶん娘二人の婚約に関しては、私は蚊帳の外なので、選びたくても選べないんですよ」
そうゴチるフロリジア公を皇帝は見て笑うだけで、すぐにシベリウスに視線を戻した。
「シベリウス、今君がフロリジア公の計らいによって療養しているのは、すでに城のものは皆知っている。それゆえ、君の家族は君にかなりご立腹の様だ。兄君達は君が私達に告げ口をしていないかハラハラしながら過ごしているよ。だから、伯爵家に戻る場所はもうないんだよ、君は」
シベリウスはそうだろうと腹を括っていたので、そこまで驚くことはなかった。
「それは、今に始まった事ではないです」
「そうか。ならそこでだ、このまま私の城に来て、私の小姓にならないか? 君の働き次第で、私はいくらでも君に褒美をやろう。それこそ私には君に地位も領地も与えることが出来るよ」
「いえ、陛下、私は別に権力が欲しくてお伝えしたわけでは……」
「もちろん、君が欲しいのはジュエリアだろう」
シベリウスの顔は、まるで湯気でも出ているかのような、真っ赤な顔になった。
「陛下!! そんな大それたこと、私は望んでおりません!」
皇帝は楽しそうにシベリウスと会話をしている。
「いや、望むべきだよ。ジュエリアの結婚までにはあと十二年もある。それまでに君が彼女の婚約者に相応しい立場になっていれば、間違いなく私はこの権力を使って君をジュエリアの婚約者に据える。もちろん帝国の利点を考えてだ。だがそれはつまり、君にとっても、ジュエリアの命を君が救えるって事に繋がるんじゃないかな?」
フロリジア公は皇帝の言葉に慌てた。
「たった十二年で、領地を与えるほどの結果を出させるのですか? 周りも認めるような? それはいくらなんでも過酷では……」
だがシベリウスは決意をした張りのある声で、しっかりと答えた。
「皇帝陛下、私は必ずあなたが望む結果を出します。どうか、小姓にしてください」
皇帝はフロリジア公にニヤリと笑って見せてから、シベリウスに頷く。
「ああ、よろしく頼む」
シベリウスは皇帝からの言葉を受けて礼をしてから、フロリジア公の前まで歩み出て片膝をついた。
皇帝ではなく自分の前で膝をつくシベリウスに、フロリジア公はギョッとする。
「おいシベリウス、お前の主は皇帝陛下であって、跪く相手を間違えているぞ」
だがシベリウスはフロリジア公を見上げ、一点の曇りもない瞳を真っ直ぐにフロリジア公に向けた。
「フロリジア公殿下、ジュエリア嬢が十八を迎えるまでに、皇帝陛下のもとで懸命に働き、必ずや地位を得て参ります。ですので、どうぞ、この私にジュエリア嬢と結婚させてください」
フロリジア公は口を開けたまま唖然としてシベリウスを見ていた。
「お前は一体何歳なんだ……中身はもう成人しているのか?」
フロリジア公の呟きを気にも止めず、シベリウスはただ一心に、少年ではなく一人の男として誓う。
「命を賭けてジュエリア嬢を守ります」
フロリジア公は彼の姿を見て自然と頷いてしまった。
そして、シベリウスと同じ目線までしゃがみ、しっかりと強い視線を向けた。
「娘を頼む。だから、早く迎えに来るんだぞ」
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