聖ロマニス帝国物語

さくらぎしょう

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 アンヌの告白に、ジュエリアは驚きの声こそ漏れたが、そんな重大な秘密を打ち明けられ、まだ状況を呑み込めなかった。

「マルクスが、陛下のバスタード……」

 ジュエリアは薔薇の日にはずっとバスタードという名の男の子を探していた。マルクスの身分が高いとなれば、フロリジア城に出入りも出来たかもしれない。そう思った瞬間、探していた男の子かと思ったが、記憶の中にある男の子は、この二人に大切にされた様子のない、とても痩せこけていて、背も低い子で、しかも年は自分と同じか、少し上だった気がした。

「違う……マルクスだと年齢が合わないわ……」

 一人ぶつぶつと唱えているジュエリアを三人は不思議そうに見つめている。
 オーガストはそんなジュエリアに声を掛けた。

「マルクスだと年齢が合わないって何がです?」

「実は、私、薔薇の日にバスタードって呼ばれていた男の子を探しているの」

 ジュエリアの発言に、シベリウスとアンヌは急に頬を紅潮させ目を合わせた。オーガストとジュエリアにも二人の高揚感が伝わり、二人の嬉しそうな様子が不思議だった。

「何? 二人は私の探しているバスタードを知っているの?」

 シベリウスは立ち上がり、ジュエリアの横で片膝をついて座る。

「なぜ薔薇の日に探しているんだい?」

「なぜって……薔薇の日に会える気がして……」

「約束をしたからじゃなくて?」

「約束……?」

 何かを期待していたはずのシベリウスの瞳は、ジュエリアが肝心な部分は覚えていないと分かると、みるみるうちに寂し気な表情へと変わっていく。

 シベリウスが立ち上がろうとすると、ジュエリアは彼の腕を掴んだ。その顔はいつになく真剣だった。

「ねえ、もしかして……シベリウスが、私の探しているバスタードなの?」

 シベリウスは答えなかったが、驚いたような表情でジュエリアを見て黙ったので、それで十分伝わった。

「そうなのね」

 ジュエリアはやっと見つけた探し人に感極まり、先ほどまで険しかった表情が一気に破顔した。しかもそれがシベリウスだったとわかれば、運命を感じずにはいられない。
 だが、一方のシベリウスといえば、ジュエリアほど嬉しそうでもなく、諦めたように自分の身の上を話した。

「ああ、私はバスタードだ。だから、兄とは家名が違う。兄は……デイリア伯爵の三男、アルベール・ガートルート。私は、デイリア伯爵が使用人に手を出して生まれた私生児。母の名がジョセフィーヌ・グウェインだったんだよ」

 ジュエリアはアルベールの名を聞いて、和らいだ表情がまたも固くなり、強張った。
 
「ア……アルベール様の弟……?」

 ジュエリアは、頭の中の記憶を整理した。自分が探していたバスタードは、貴族らしい姿ではなかった。フロリジア城内で出会った記憶があるのだから、城に出入りできる身分か、城の使用人の家族か何かだと思っていたが、あんなにガリガリに痩せていて、着ていた服も使用人と変わらないものだったから、てっきり後者の使用人の家族だと思って探していた。
 
 あんなに痩せこけて……。

 ジュエリアは頭を巡らせ必死に浮かべる幼かったバスタードの姿に、ある事を思い出す。そして勢いよく立ち上がると、シベリウスの腕を掴み、彼を引っ張ってベッドのある寝室へと早足で向かう。
 
 その様子を見ていたオーガストとアンヌは慌てて立ち上がり、部屋から出て行こうとした。

「そこにいてっ!!」

 ジュエリアの声に二人はストンッとソファに背筋を伸ばして腰を下ろした。

 ジュエリアは寝室に入るとすぐに鍵をかけ、戸惑うシベリウスをグイグイベッドへ押して行く。

「ジュッ……ジュエル!?」

 ジュエリアの目は真剣で、力の入り方も普通ではない。もちろん元近衛騎兵隊のシベリウスが本気で止めようと思えば簡単に止められる。だが、彼女の真剣な眼差しに、自分でもどうして良いかわからず、彼女の思う方向へ動いている。

 ジュエリアはベッドまでシベリウスを連れてくると、そのまま押し倒し、彼にまたがった。

「へっ!? ジュジュッ、ジュエル!? 扉の向こうにはオーガスト達もいる」
「黙って!」

 ジュエリアはシベリウスのコート、ウエストコートとボタンを外していき、首に巻くクラバットも解いていく。
 シベリウスはこれから何が起きるのか、ジュエリアがこんな昼間から何を考えているのか戸惑いつつも、胸の鼓動はうるさいくらいにどんどん早まっており、このまま衝動に襲われて動いてしまわないよう、必死に自分を落ち着かせようとしていた。

 ジュエリアがシベリウスのシャツの最後のボタンを外すと、両手を彼の胸元に滑り込ませてきた。

「ジュエルッ……」

 ジュエリアはシベリウスのシャツをはだけさせ、まじまじと彼の身体を見ながら、シベリウスの傷痕を丁寧に触っていく。

「バスタード……ここは私が手当てしたわね……ああ、この傷もそう……幼い子供の適当な手当てだった為に、こんなに痕が残ってしまってる……」

「ジュエル……それは消えなくていいんだよ」

 そしてジュエリアはシベリウスの脇腹にある一際大きな傷に触れると、ぽろぽろと涙を流し始めた。

「これは……ジョストでついた傷ね……私のせいで」

 シベリウスはガバッと起き上がり、ジュエリアを膝の上に乗せたまま、彼女の頬を手のひらで包み、流れる涙を親指で拭う。

「違う。いや、ジョストでついた傷だけど、ジュエルのせいじゃない」

「いいえ、私がアルベール様を怒らせてしまったから」

「違うっ! 私が望んだんだ! あの場であいつを殺すつもりだった!!」
 
「え……?」











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