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47. 煩いの種
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サイオンがミアの部屋の扉を開けると、シベリウスの横にはジュエリアもいた。二人は神妙な面持ちでサイオンを見つめる。
「すいません……聞くつもりはなかったのですが……」
「いや、扉の近くで話していた私達が悪い。とりあえず中に入ってくれるか?」
シベリウスとジュエリアはミアの部屋に入り、ソファに座るミアのもとまで行く。
ジュエリアはミアの前で跪き、彼女の両手を優しく握り、涙を流した。
「ミア……お腹の子は誰の子なの? 一人で苦しまないで、私にもあなたを支えさせて」
ジュエリアの言葉を受け、ミアは戸惑いながらサイオンを見る。シベリウスとジュエリアはアルベールの話は聞いていなかったようだ。
サイオンはミアのもとまで来て、労わるように肩を抱いて彼女を立ち上がらせた。
「ジュエリア、ミアは疲れている。話は私がするから、ミアだけ先に寝かせてもいいかな?」
「私は大丈夫です、サイオン卿。お姉さま……私のお腹の子は……アルベール様の子です」
「ア……アルベール様?」
ジュエリアはその名を聞くなり顔色を悪くし、シベリウスは目を見開いてサイオン卿を見た。サイオン卿はシベリウスにだけ視線で返事をした。
「ミアは……彼が好きなの?」
「……もうわからない……彼が何を考えているのかわからないから……。でも、お腹の子は産みたい。だから、サイオン卿の申し出に甘える事にしたの。私は出来る限り早急にサイオン卿と結婚する」
ジュエリアはサイオンを見て深々と頭を下げた。
「何から何まで……サイオン卿にはお世話になりっぱなしです。どうお礼をしたらよいのか……」
「……それでは、私がトマスを探す間、頼みたいことがある」
「ええ、もちろん、私に出来る事があれば何でもおっしゃってください。もし今、国の事がなければ、私自身でトマスを探しに行きたいくらいです」
「トマスを探すのは私の役目。だから、私がトマスを探しに行くためにこの城を離れたら、ミアの事をしばらく頼みたい。そして、トマスが探していたものを、代わりに探してくれないか?」
「トマスが探していた物?」
サイオンはミアに聞いて部屋にあるローゼンの街の地図と、世界地図を貸してもらう。それをテーブルに広げ、ジュエリアとシベリウスに説明をした。
「トマスはローゼンの街で、故郷の黒妖犬島の匂いがすると言っていた。懐かしむと言うよりは、どこか懸念をしており、その匂いの出所を必死に探していたんだ。あの様子から、放置しておいていい問題とは思えなくて」
「では、匂いの出所を探せばいいんですね? でも、ヘルハウンドの匂いなんてわからないし、どうしたら……」
ジュエリアが考え込んでいると、サイオンは突然詩を詠いだす。
「南の孤島 呪われし島 我ら黒妖犬 誘われるように流れ着くは罪と罰 染み付く死臭 生き地獄」
全員がサイオンを見て困惑していた。
「す……凄い詩ですね。それが何か……?」
「トマスが口ずさんでいたんだ。この詩には“染みつく死臭”という文言がある。何も意味はないかもしれないが、何か意味があるかもしれない」
「染みつく死臭……わかりました。何とか探してみます。それと……」
ジュエリアはミアの手を握り、彼女の目をまっすぐに見た。
「ミアは任せてください。サイオン卿不在の間は、私が必ず守ります」
「お姉さま……」
サイオンはジュエリアを見て頷くと、立ち上がった。
「シベリウス、せっかくだからジュエリアとミアに二人の時間を差し上げよう」
シベリウスはサイオンと視線を合わせ、彼の意図を察して立ち上がった。
ジュエリアとミアを部屋に残し、二人はサイオンの部屋へと向かう。
「サイオン卿……アルベールだったのですか?」
「そうだ。確実に企みがある」
「ええ……そうだと思います」
サイオンは立ち止まり、小さな声でシベリウスに聞いた。
「ジュエリアはまだ思い出していないのか?」
「はい」
「もう、言ってしまったらどうだ?」
「……それも考えましたが、ジュエルはアルベールの名を叫んで飛び起きたことがあるんです。その時の様子が、酷い怯え様で……もともと記憶を呼び起こす精神的な負担が心配で慎重に伝えようとしていましたが、あの夜の姿を見て更に心配になりました。なので、突然全てを伝えず、負担のないようにゆっくりと思い出すきっかけを示して、彼女自身の力で思い出すのを待っています」
「なるほどな……」
「アルベールに関しては、私が責任を持って処理しますのでご安心ください」
サイオンは黙ってシベリウスをじっと見つめる。
「シベリウス……私は君も心配なんだ」
シベリウスはにこりと笑う。腹の内を隠したいつもの笑みだ。
「私は大丈夫ですよ、サイオン卿。ジュエルに関わることなら、尚更」
「すいません……聞くつもりはなかったのですが……」
「いや、扉の近くで話していた私達が悪い。とりあえず中に入ってくれるか?」
シベリウスとジュエリアはミアの部屋に入り、ソファに座るミアのもとまで行く。
ジュエリアはミアの前で跪き、彼女の両手を優しく握り、涙を流した。
「ミア……お腹の子は誰の子なの? 一人で苦しまないで、私にもあなたを支えさせて」
ジュエリアの言葉を受け、ミアは戸惑いながらサイオンを見る。シベリウスとジュエリアはアルベールの話は聞いていなかったようだ。
サイオンはミアのもとまで来て、労わるように肩を抱いて彼女を立ち上がらせた。
「ジュエリア、ミアは疲れている。話は私がするから、ミアだけ先に寝かせてもいいかな?」
「私は大丈夫です、サイオン卿。お姉さま……私のお腹の子は……アルベール様の子です」
「ア……アルベール様?」
ジュエリアはその名を聞くなり顔色を悪くし、シベリウスは目を見開いてサイオン卿を見た。サイオン卿はシベリウスにだけ視線で返事をした。
「ミアは……彼が好きなの?」
「……もうわからない……彼が何を考えているのかわからないから……。でも、お腹の子は産みたい。だから、サイオン卿の申し出に甘える事にしたの。私は出来る限り早急にサイオン卿と結婚する」
ジュエリアはサイオンを見て深々と頭を下げた。
「何から何まで……サイオン卿にはお世話になりっぱなしです。どうお礼をしたらよいのか……」
「……それでは、私がトマスを探す間、頼みたいことがある」
「ええ、もちろん、私に出来る事があれば何でもおっしゃってください。もし今、国の事がなければ、私自身でトマスを探しに行きたいくらいです」
「トマスを探すのは私の役目。だから、私がトマスを探しに行くためにこの城を離れたら、ミアの事をしばらく頼みたい。そして、トマスが探していたものを、代わりに探してくれないか?」
「トマスが探していた物?」
サイオンはミアに聞いて部屋にあるローゼンの街の地図と、世界地図を貸してもらう。それをテーブルに広げ、ジュエリアとシベリウスに説明をした。
「トマスはローゼンの街で、故郷の黒妖犬島の匂いがすると言っていた。懐かしむと言うよりは、どこか懸念をしており、その匂いの出所を必死に探していたんだ。あの様子から、放置しておいていい問題とは思えなくて」
「では、匂いの出所を探せばいいんですね? でも、ヘルハウンドの匂いなんてわからないし、どうしたら……」
ジュエリアが考え込んでいると、サイオンは突然詩を詠いだす。
「南の孤島 呪われし島 我ら黒妖犬 誘われるように流れ着くは罪と罰 染み付く死臭 生き地獄」
全員がサイオンを見て困惑していた。
「す……凄い詩ですね。それが何か……?」
「トマスが口ずさんでいたんだ。この詩には“染みつく死臭”という文言がある。何も意味はないかもしれないが、何か意味があるかもしれない」
「染みつく死臭……わかりました。何とか探してみます。それと……」
ジュエリアはミアの手を握り、彼女の目をまっすぐに見た。
「ミアは任せてください。サイオン卿不在の間は、私が必ず守ります」
「お姉さま……」
サイオンはジュエリアを見て頷くと、立ち上がった。
「シベリウス、せっかくだからジュエリアとミアに二人の時間を差し上げよう」
シベリウスはサイオンと視線を合わせ、彼の意図を察して立ち上がった。
ジュエリアとミアを部屋に残し、二人はサイオンの部屋へと向かう。
「サイオン卿……アルベールだったのですか?」
「そうだ。確実に企みがある」
「ええ……そうだと思います」
サイオンは立ち止まり、小さな声でシベリウスに聞いた。
「ジュエリアはまだ思い出していないのか?」
「はい」
「もう、言ってしまったらどうだ?」
「……それも考えましたが、ジュエルはアルベールの名を叫んで飛び起きたことがあるんです。その時の様子が、酷い怯え様で……もともと記憶を呼び起こす精神的な負担が心配で慎重に伝えようとしていましたが、あの夜の姿を見て更に心配になりました。なので、突然全てを伝えず、負担のないようにゆっくりと思い出すきっかけを示して、彼女自身の力で思い出すのを待っています」
「なるほどな……」
「アルベールに関しては、私が責任を持って処理しますのでご安心ください」
サイオンは黙ってシベリウスをじっと見つめる。
「シベリウス……私は君も心配なんだ」
シベリウスはにこりと笑う。腹の内を隠したいつもの笑みだ。
「私は大丈夫ですよ、サイオン卿。ジュエルに関わることなら、尚更」
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