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44. やっと
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リーリエンからジュエリアとサイオンがフロリジア城へ戻ると、セルマ寡妃の荷物をまとめている者達はいるが、セルマ寡妃の姿は既になかった。
ジュエリアがサイオンを見れば、かなりの苛立ちが伝わって来る。
「トマスは、セルマ寡妃に攫われたの?」
「直感だが、恐らくそうだと思う。私はセルマの事も、トマスの事も良く分かっているつもりだから」
「私……サイオン卿がそんなに怒りを露わにするのを初めて見ました」
サイオンは自分を心配そうに見つめているジュエリアの姿に気づき、無理に笑って見せた。
「取り乱していたようですまない。そうだジュエリア、セルマはすでに城を発っている。君はシベリウスの館から戻って来ないと」
「城に戻る……そうね、まずは戻らないといけないわね。今日は館に戻りますが、準備が出来次第近日中に城に戻ります」
「ちなみに私とミアだが、彼女が安定期に入るまでこのままフロリジア城に滞在する許可を貰えるか? 安定期に入ればヴェルタ王国までの道のりも負担なく進めるはずだから」
「もちろん。むしろ城は広いのだから、出産まで滞在してもらってもいいくらい」
「いや、出産は私の屋敷でと思っている。ここにいたらミアに良くない気がするんだ……」
サイオンはミアの部屋がある方角を見て、深刻そうな顔をしていた。
ここではセルマ寡妃の息のかかった者がいつ現れて何をするかわからない。自分のテリトリーであるヴェルタの領地に戻った方が安全だ。
「ミアには申し訳ないが、トマスが消えた今、彼を探すことを優先したい。私がそばに居られない時は、せめて私のよく知った場所で信頼のおける者達に預けたいと思っている」
「そうですね……それなら領地に戻られた方が確かですね」
サイオンは頷き、一呼吸置いてからジュエリアを見た。
「まずは婚姻を早々に済ませないといけないな。私も、君も」
サイオンの言葉にジュエリアは目をぱちぱちと瞬き、みるみるうちに顔を赤くした。
「私も婚姻……ってことは、シベリウスと……ですよね?」
「当たり前じゃないか。君の婚約者はシベリウスだろ?——」
そこからジュエリアは、シベリウスの館に戻るまでの記憶が飛んだ。
頭の中ではずっとシベリウスとの結婚を想像し、顔を赤くしたり、急ににやついたり、両手でサッと顔を隠したりと、不審な動きをしており、いつの間にか館に戻り、自室のソファで妄想を続けており、扉をノックする音とシベリウスの声でやっと我に返った。
「ジュエル? 戻ってる?」
聞きなれた声なのに、彼の声が聞こえただけでこんなにも胸が激しく高鳴り始めている。あの扉一枚を隔てただけでシベリウスがすぐそこに立っているのだ。
結婚を阻むものはもう何もない。彼は間もなく自分の伴侶となり、彼にこの身を捧げる時が近づいている。
ジュエリアは緊張しながら歩き、ゆっくりと扉を開けた。
目に飛び込んで来たシベリウスの姿は今まで以上に眩しく、思わず声も出さずに見惚れてしまう。
「ジュエル? 戻って早々に申し訳ないけど、今後の話があるんだ。部屋に入ってもいい?」
「こっ、今後の話!?」
必要以上に驚くジュエリアの様子に、シベリウスは少しおののきながらも、笑顔を貼り付けて部屋の中に押し入った。
シベリウスが扉をパタンと閉めると、彼はジュエリアを逃がさないかのように、両手を後ろにして扉のノブを隠して立ち、ジュエリアを見つめた。
「ジュエル……」
シベリウスの背後から、カチャリと扉の鍵を閉めた音がした。
ジュエリアは顔を真っ赤にし、先ほどまでしていた妄想を思い出してしまう。
「シ……シヴィ、今後の話って何かしら?」
シベリウスは答えず、ジュエリアを見つめたまま近づくと、手を彼女の腰に回してキスをしてきた。
期待通りの展開にジュエリアの妄想もどんどん膨らんでいき、シベリウスに自分は受け入れる準備が出来ていると意思を示すように、両腕を彼の首に回してキスを返した。
啄む様なキスはやがて互いを貪るような口づけとなっていき、タガが外れたように二人はキスをエスカレートさせ、求め合う激しく濃厚なキスが互いの身をよがらせた。
シベリウスは理性を奮い起こして唇を離すと、長いキスで乱れた呼吸を必死に落ち着かせ、自分のおでこをコツンとジュエリアのおでこにつけ、幸せそうに囁く。
「ジュエル……あぁ……すぐに結婚しよう」
シベリウスはふにゃりと笑って見せた。ジュエリアは想像以上に嬉しくて、にやけ崩れそうな表情を隠そうと咄嗟に俯いてしまい、小さく頷いて返事をした。
「どうしたのジュエル? こっちを見て?」
シベリウスの低く甘い声が耳に掛かり、更に心拍数を上げる。
ゆっくりと顔を上げて視線をシベリウスと合わせると、心臓が跳ねあがる。愛おしそうに頬を少し赤らめてじっと見つめてくるシベリウスの表情がこそばゆく、思わず視線が泳いでしまう。
シベリウスはジュエリアのあごを掴んで、視線を逃がさないようにした。
「ジュエル、目を見て」
ジュエリアは言われた通り、必死にシベリウスに視線を合わせた。
「愛してるよ」
シベリウスはそう言うと、ジュエリアにもう一度キスをした。
ジュエリアがサイオンを見れば、かなりの苛立ちが伝わって来る。
「トマスは、セルマ寡妃に攫われたの?」
「直感だが、恐らくそうだと思う。私はセルマの事も、トマスの事も良く分かっているつもりだから」
「私……サイオン卿がそんなに怒りを露わにするのを初めて見ました」
サイオンは自分を心配そうに見つめているジュエリアの姿に気づき、無理に笑って見せた。
「取り乱していたようですまない。そうだジュエリア、セルマはすでに城を発っている。君はシベリウスの館から戻って来ないと」
「城に戻る……そうね、まずは戻らないといけないわね。今日は館に戻りますが、準備が出来次第近日中に城に戻ります」
「ちなみに私とミアだが、彼女が安定期に入るまでこのままフロリジア城に滞在する許可を貰えるか? 安定期に入ればヴェルタ王国までの道のりも負担なく進めるはずだから」
「もちろん。むしろ城は広いのだから、出産まで滞在してもらってもいいくらい」
「いや、出産は私の屋敷でと思っている。ここにいたらミアに良くない気がするんだ……」
サイオンはミアの部屋がある方角を見て、深刻そうな顔をしていた。
ここではセルマ寡妃の息のかかった者がいつ現れて何をするかわからない。自分のテリトリーであるヴェルタの領地に戻った方が安全だ。
「ミアには申し訳ないが、トマスが消えた今、彼を探すことを優先したい。私がそばに居られない時は、せめて私のよく知った場所で信頼のおける者達に預けたいと思っている」
「そうですね……それなら領地に戻られた方が確かですね」
サイオンは頷き、一呼吸置いてからジュエリアを見た。
「まずは婚姻を早々に済ませないといけないな。私も、君も」
サイオンの言葉にジュエリアは目をぱちぱちと瞬き、みるみるうちに顔を赤くした。
「私も婚姻……ってことは、シベリウスと……ですよね?」
「当たり前じゃないか。君の婚約者はシベリウスだろ?——」
そこからジュエリアは、シベリウスの館に戻るまでの記憶が飛んだ。
頭の中ではずっとシベリウスとの結婚を想像し、顔を赤くしたり、急ににやついたり、両手でサッと顔を隠したりと、不審な動きをしており、いつの間にか館に戻り、自室のソファで妄想を続けており、扉をノックする音とシベリウスの声でやっと我に返った。
「ジュエル? 戻ってる?」
聞きなれた声なのに、彼の声が聞こえただけでこんなにも胸が激しく高鳴り始めている。あの扉一枚を隔てただけでシベリウスがすぐそこに立っているのだ。
結婚を阻むものはもう何もない。彼は間もなく自分の伴侶となり、彼にこの身を捧げる時が近づいている。
ジュエリアは緊張しながら歩き、ゆっくりと扉を開けた。
目に飛び込んで来たシベリウスの姿は今まで以上に眩しく、思わず声も出さずに見惚れてしまう。
「ジュエル? 戻って早々に申し訳ないけど、今後の話があるんだ。部屋に入ってもいい?」
「こっ、今後の話!?」
必要以上に驚くジュエリアの様子に、シベリウスは少しおののきながらも、笑顔を貼り付けて部屋の中に押し入った。
シベリウスが扉をパタンと閉めると、彼はジュエリアを逃がさないかのように、両手を後ろにして扉のノブを隠して立ち、ジュエリアを見つめた。
「ジュエル……」
シベリウスの背後から、カチャリと扉の鍵を閉めた音がした。
ジュエリアは顔を真っ赤にし、先ほどまでしていた妄想を思い出してしまう。
「シ……シヴィ、今後の話って何かしら?」
シベリウスは答えず、ジュエリアを見つめたまま近づくと、手を彼女の腰に回してキスをしてきた。
期待通りの展開にジュエリアの妄想もどんどん膨らんでいき、シベリウスに自分は受け入れる準備が出来ていると意思を示すように、両腕を彼の首に回してキスを返した。
啄む様なキスはやがて互いを貪るような口づけとなっていき、タガが外れたように二人はキスをエスカレートさせ、求め合う激しく濃厚なキスが互いの身をよがらせた。
シベリウスは理性を奮い起こして唇を離すと、長いキスで乱れた呼吸を必死に落ち着かせ、自分のおでこをコツンとジュエリアのおでこにつけ、幸せそうに囁く。
「ジュエル……あぁ……すぐに結婚しよう」
シベリウスはふにゃりと笑って見せた。ジュエリアは想像以上に嬉しくて、にやけ崩れそうな表情を隠そうと咄嗟に俯いてしまい、小さく頷いて返事をした。
「どうしたのジュエル? こっちを見て?」
シベリウスの低く甘い声が耳に掛かり、更に心拍数を上げる。
ゆっくりと顔を上げて視線をシベリウスと合わせると、心臓が跳ねあがる。愛おしそうに頬を少し赤らめてじっと見つめてくるシベリウスの表情がこそばゆく、思わず視線が泳いでしまう。
シベリウスはジュエリアのあごを掴んで、視線を逃がさないようにした。
「ジュエル、目を見て」
ジュエリアは言われた通り、必死にシベリウスに視線を合わせた。
「愛してるよ」
シベリウスはそう言うと、ジュエリアにもう一度キスをした。
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