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23. 古傷
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「あなたはあのソファで寝て」
目を吊り上げたジュエリアは、ナイトローブを着たシベリウスを見ながら部屋のソファを指差した。
「ジュエル、一応私は軍人で、訓練でかなり身体を動かすので、夜はベッドで寝たいです」
「いいわよ。その代わり私に向かいのあなたの服とかを置いている部屋を使わせて」
「仕事で使う物も沢山置いてあるのでダメです」
「じゃあ、私がソファで寝るわ」
ジュエリアがソファに向かって歩き出すと、シベリウスに腕を掴まれる。
「ご冗談を。ちゃんとベッドで寝てください。私がソファで寝ますから」
「……身体は? 疲れてるんでしょ? どちらかが向かいの部屋に行けば済むだけでしょ」
「向かいの部屋は荷物でいっぱいです」
シベリウスはにこりと嘘くさい笑みを見せた。
「もうっ、わかったわよ」
ジュエリアはベッドに入り、シベリウスにプイッと背中を向けて目を瞑る。
(ああ言って、絶対向かいの部屋にも寝れるだけのスペースはあるはずよ。あ、部屋が暗くなったわ。おとなしくシベリウスはソファで寝たわね。まだ婚約者の段階なら……部屋は別々が……あたりまえで……しょ……——)
いつの間にかジュエリアは深い眠りに落ちた。
その夜、ジュエリアは夢を見た。幻想的な夢ではなく、改変された現実世界の夢でもない。
それは、ずいぶん昔の記憶、ジュエリアの心に焼き付けられた古い傷……——。
「やめてアルベール様ッ!!」
ジュエリアは叫びながら飛び起きた。
「ハアッ、ハアッ……はぁ、夢だわ……」
呼吸は浅く、息は上がり、手を額に当てれば僅かに湿る。
「十四年前の話なんてしたから、あの時の夢を見てしまったのね……」
ジュエリアの呼吸は段々戻り、頭も冴えてきた。額に当てていた手をおろすと、人肌に触れた。
「え」
ジュエリアが横を見れば、やはり上半身は何も着ていないシベリウスがすやすやと眠っていた。
「は? いつの間にベッドに潜り込んで来たの!? しかも何でこの男はいつも上に何も身につけないで、私の隣で寝るのよ!!」
シベリウスが寝返りをうち仰向けになると、シーツがはだけて更に上半身が露わになる。
横向きで寝ている時は影があり良く見えていなかったが、今は窓から差し込む月明りによって、固く鍛え上げられた躯幹がはっきりと見える。
その身体を見たジュエリアは、思わず手を伸ばして触れてしまった。
ゆっくりと、確かめるように、シベリウスの身体に指を這わせていく。肩、二の腕、胸、腹、脇……。
——どこもかしこも傷だらけである。
「こんなに傷が……」
ジュエリアがシベリウスの脇腹にある古傷を指でなぞった時だった。
「そんな風に触られたら、襲ってしまいますよ?」
ジュエリアは瞬時に手を引っ込める。
「いつから起きてたの?」
「ジュエルの叫び声あたりかな」
シベリウスはジュエリアの方へ身体を向けて肘枕で寝ころび、悪戯な笑みを浮かべながら彼女を見つめている。
「じゃあ、わざと仰向けに寝がえりを打ったの?」
「さあ……どうでしょう? いっぱい傷があったでしょ?」
「身体を見せつけるなんて、どれだけナルシストなのよ!」
「ははは、でも、ジュエルは私に触れたんだから効果覿面ですね」
「もう知らないっ。おやすみっ」
ジュエリアはドサッとベッドに横たわり、シベリウスに背を向けて目を瞑る。
シベリウスはジュエリアが触った脇腹の古傷を触りながら、憂いを潜めた表情で彼女の背中を見つめ、どこか遠くを見ていた。
目を吊り上げたジュエリアは、ナイトローブを着たシベリウスを見ながら部屋のソファを指差した。
「ジュエル、一応私は軍人で、訓練でかなり身体を動かすので、夜はベッドで寝たいです」
「いいわよ。その代わり私に向かいのあなたの服とかを置いている部屋を使わせて」
「仕事で使う物も沢山置いてあるのでダメです」
「じゃあ、私がソファで寝るわ」
ジュエリアがソファに向かって歩き出すと、シベリウスに腕を掴まれる。
「ご冗談を。ちゃんとベッドで寝てください。私がソファで寝ますから」
「……身体は? 疲れてるんでしょ? どちらかが向かいの部屋に行けば済むだけでしょ」
「向かいの部屋は荷物でいっぱいです」
シベリウスはにこりと嘘くさい笑みを見せた。
「もうっ、わかったわよ」
ジュエリアはベッドに入り、シベリウスにプイッと背中を向けて目を瞑る。
(ああ言って、絶対向かいの部屋にも寝れるだけのスペースはあるはずよ。あ、部屋が暗くなったわ。おとなしくシベリウスはソファで寝たわね。まだ婚約者の段階なら……部屋は別々が……あたりまえで……しょ……——)
いつの間にかジュエリアは深い眠りに落ちた。
その夜、ジュエリアは夢を見た。幻想的な夢ではなく、改変された現実世界の夢でもない。
それは、ずいぶん昔の記憶、ジュエリアの心に焼き付けられた古い傷……——。
「やめてアルベール様ッ!!」
ジュエリアは叫びながら飛び起きた。
「ハアッ、ハアッ……はぁ、夢だわ……」
呼吸は浅く、息は上がり、手を額に当てれば僅かに湿る。
「十四年前の話なんてしたから、あの時の夢を見てしまったのね……」
ジュエリアの呼吸は段々戻り、頭も冴えてきた。額に当てていた手をおろすと、人肌に触れた。
「え」
ジュエリアが横を見れば、やはり上半身は何も着ていないシベリウスがすやすやと眠っていた。
「は? いつの間にベッドに潜り込んで来たの!? しかも何でこの男はいつも上に何も身につけないで、私の隣で寝るのよ!!」
シベリウスが寝返りをうち仰向けになると、シーツがはだけて更に上半身が露わになる。
横向きで寝ている時は影があり良く見えていなかったが、今は窓から差し込む月明りによって、固く鍛え上げられた躯幹がはっきりと見える。
その身体を見たジュエリアは、思わず手を伸ばして触れてしまった。
ゆっくりと、確かめるように、シベリウスの身体に指を這わせていく。肩、二の腕、胸、腹、脇……。
——どこもかしこも傷だらけである。
「こんなに傷が……」
ジュエリアがシベリウスの脇腹にある古傷を指でなぞった時だった。
「そんな風に触られたら、襲ってしまいますよ?」
ジュエリアは瞬時に手を引っ込める。
「いつから起きてたの?」
「ジュエルの叫び声あたりかな」
シベリウスはジュエリアの方へ身体を向けて肘枕で寝ころび、悪戯な笑みを浮かべながら彼女を見つめている。
「じゃあ、わざと仰向けに寝がえりを打ったの?」
「さあ……どうでしょう? いっぱい傷があったでしょ?」
「身体を見せつけるなんて、どれだけナルシストなのよ!」
「ははは、でも、ジュエルは私に触れたんだから効果覿面ですね」
「もう知らないっ。おやすみっ」
ジュエリアはドサッとベッドに横たわり、シベリウスに背を向けて目を瞑る。
シベリウスはジュエリアが触った脇腹の古傷を触りながら、憂いを潜めた表情で彼女の背中を見つめ、どこか遠くを見ていた。
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