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22. 皇帝とフロリジア公の備え
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館に着くと、ジュエリアは馬車を飛び降り真っ直ぐにシベリウスとサイオンのいる部屋へと向かって行った。
「失礼します」
ノックもせずに声をあげて扉を開けると、ジュエリアはズカズカと二人の元まで向かって行く。ジュエリアが部屋の中に入ったあと、少し間を空けてからトマスも部屋に入ってきて、隅で待機した。
「どうしてもサイオン卿にお願いがあり参りました」
シベリウスとサイオンは互いの目を見合わせて瞬き、ジュエリアを再度見る。
「どんなお願いだろう?」
「フロリジア公国の財務状況の資料を明日持ってきてください。そして、明日は私もこの場に出席させてください」
さすがにサイオンはすぐにはうんとは言えず、しばらく考えていた。
「ミアも参加していないのに、ジュエリア公女だけ参加するのは公平ではない」
「サイオン卿……それなら、明日はミアも参加させてください。資料の確認と話し合いの参加をさせて欲しいんです」
サイオン卿は首を横に振った。
「まだ内密にお願いしたいのですが、私はあなたに公爵位を継いでいただくのが妥当だと思っています。だから、ミアにこの話し合いは参加させたくない。ゆえに、あなたも参加をさせていないのです」
「ミアの婚約者のあなたが、なぜそんな事を?」
サイオン卿は手に持っていた書類をジュエリアに差し出した。
一つは、ジュエリアが学んでいた帝王学の科目と成績、そして授業を受けていた事を証明する教師たちのサインが記入されたもの。もう一枚は、日付が十四年も前の書類で、前フロリジア公の直筆のサインと、御璽まで押されている勅書であった。
「これは……」
シベリウスがジュエリアに説明した。
「十四年前、ミアがサイオン卿と婚約をした年、前フロリジア公はこの勅書を秘密裏に皇帝陛下に託しました。自分に万が一何かあった時のためにと」
ジュエリアは勅書に目を通す。
『フロリジア公ルーベル・フロリジア亡きあと、公爵位とフロリジア公国を継ぐ者については、この日付以前に決められたいかなる文書があろうとも、従属する聖ロマニス帝国の皇帝に最終決定をする権限がある』
サイオンが口を開き、過去の話を始めた。
「十四年前にミアとの婚約が決まった時に、私はセルマの狂気をフロリジア公に相談したんだ。それで、フロリジア公は継承権第一位をミアにした事を悔やみ、悩まれたのだと思う」
「セルマ寡妃の狂気?」
サイオンは苦笑いをし、言いにくそうに言った。
「自分で言うのもなんだが、セルマは私に執着しているんだよ」
「執着? 狂気と呼べるほどの執着なのですか?」
「ああ、狂気だろ? 私と結婚が出来ないとなったら、自分の娘と私を婚約させるんだから。それでどうなった? 城に来た私に、その……今は……迫っている。とにかく、セルマは欲しいものを絶対に手に入れたい性分のようだな」
これにはシベリウスも驚き、聞いていないフリをしていたトマスもピクッと僅かに身体が反応していた。
「セルマ寡妃の目的はそんな事なんですか?」
「ああ、そんな事でこの国をヴェルタ国王に売ったんだ」
シベリウスも口を開く。
「十四年前、前フロリジア公は皇帝陛下に、ヴェルタ王国の者との婚約の件をご相談されたそうです。その時は答えをすぐに出せず、取り急ぎこの勅書を作成し、不測の事態に備えました。それから長い年月をかけてセルマ寡妃やヴェルタ王国の動きを注視しながら、お二人は協議を重ね、三年前にジュエリアに継承させる国事詔書を完成させ、私を婚約者にしました」
シベリウスの話の最中から、トマスは時計を気にし始める。その様子にサイオンも気づき、二人に頭を下げた。
「すまない。そろそろ、セルマとの約束の時間だ。すっぽかすと後が面倒だし、私の計画を壊されかねない。今日はここで失礼するよ。財務状況の件は調べてみるが、明日はやはりシベリウスと二人きりでお願いする。では」
そう言ってサイオンはトマスを伴って足早に部屋を出て行ってしまった。
「失礼します」
ノックもせずに声をあげて扉を開けると、ジュエリアはズカズカと二人の元まで向かって行く。ジュエリアが部屋の中に入ったあと、少し間を空けてからトマスも部屋に入ってきて、隅で待機した。
「どうしてもサイオン卿にお願いがあり参りました」
シベリウスとサイオンは互いの目を見合わせて瞬き、ジュエリアを再度見る。
「どんなお願いだろう?」
「フロリジア公国の財務状況の資料を明日持ってきてください。そして、明日は私もこの場に出席させてください」
さすがにサイオンはすぐにはうんとは言えず、しばらく考えていた。
「ミアも参加していないのに、ジュエリア公女だけ参加するのは公平ではない」
「サイオン卿……それなら、明日はミアも参加させてください。資料の確認と話し合いの参加をさせて欲しいんです」
サイオン卿は首を横に振った。
「まだ内密にお願いしたいのですが、私はあなたに公爵位を継いでいただくのが妥当だと思っています。だから、ミアにこの話し合いは参加させたくない。ゆえに、あなたも参加をさせていないのです」
「ミアの婚約者のあなたが、なぜそんな事を?」
サイオン卿は手に持っていた書類をジュエリアに差し出した。
一つは、ジュエリアが学んでいた帝王学の科目と成績、そして授業を受けていた事を証明する教師たちのサインが記入されたもの。もう一枚は、日付が十四年も前の書類で、前フロリジア公の直筆のサインと、御璽まで押されている勅書であった。
「これは……」
シベリウスがジュエリアに説明した。
「十四年前、ミアがサイオン卿と婚約をした年、前フロリジア公はこの勅書を秘密裏に皇帝陛下に託しました。自分に万が一何かあった時のためにと」
ジュエリアは勅書に目を通す。
『フロリジア公ルーベル・フロリジア亡きあと、公爵位とフロリジア公国を継ぐ者については、この日付以前に決められたいかなる文書があろうとも、従属する聖ロマニス帝国の皇帝に最終決定をする権限がある』
サイオンが口を開き、過去の話を始めた。
「十四年前にミアとの婚約が決まった時に、私はセルマの狂気をフロリジア公に相談したんだ。それで、フロリジア公は継承権第一位をミアにした事を悔やみ、悩まれたのだと思う」
「セルマ寡妃の狂気?」
サイオンは苦笑いをし、言いにくそうに言った。
「自分で言うのもなんだが、セルマは私に執着しているんだよ」
「執着? 狂気と呼べるほどの執着なのですか?」
「ああ、狂気だろ? 私と結婚が出来ないとなったら、自分の娘と私を婚約させるんだから。それでどうなった? 城に来た私に、その……今は……迫っている。とにかく、セルマは欲しいものを絶対に手に入れたい性分のようだな」
これにはシベリウスも驚き、聞いていないフリをしていたトマスもピクッと僅かに身体が反応していた。
「セルマ寡妃の目的はそんな事なんですか?」
「ああ、そんな事でこの国をヴェルタ国王に売ったんだ」
シベリウスも口を開く。
「十四年前、前フロリジア公は皇帝陛下に、ヴェルタ王国の者との婚約の件をご相談されたそうです。その時は答えをすぐに出せず、取り急ぎこの勅書を作成し、不測の事態に備えました。それから長い年月をかけてセルマ寡妃やヴェルタ王国の動きを注視しながら、お二人は協議を重ね、三年前にジュエリアに継承させる国事詔書を完成させ、私を婚約者にしました」
シベリウスの話の最中から、トマスは時計を気にし始める。その様子にサイオンも気づき、二人に頭を下げた。
「すまない。そろそろ、セルマとの約束の時間だ。すっぽかすと後が面倒だし、私の計画を壊されかねない。今日はここで失礼するよ。財務状況の件は調べてみるが、明日はやはりシベリウスと二人きりでお願いする。では」
そう言ってサイオンはトマスを伴って足早に部屋を出て行ってしまった。
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