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18. 駆け引き
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夜、ジュエリアはベッドの中で天井を眺めながら、昼間のトマスとのやり取りを考え込んでいた。
『明日、話し合い中に一緒に街へ行かないか? ほんの一時間位だし、シベリウスにはバレないよ』
トマスはそう言っていたが、別に私達は友達になったのだし、こそこそ隠れて会うのもどうかとジュエリアは思っていた。それに、自分が消えていたらシベリウスや館の者達に迷惑をかける事は十分に理解した。
ジュエリアは仰向けから、身体を横向きに変え、窓の外を眺めた。その時、部屋の扉が静かに開く。
背中越しに誰かが部屋に入って来たのがわかった。おそらくシベリウスだろう。
ジュエリアは突然の出来事に声を掛けるタイミングを逸して、そのまま横向きで寝たふりをしてしまった。
シベリウスが着ていたナイトローブを脱いで、イスの上にパサッと置いた音がした。
ベッドが軋み、ジュエリアの背中側が沈んだ。
「起きてますよね?」
シベリウスはジュエリアの背中越しにそう呟いた。
ジュエリアはぎくっと肩を僅かに上げてから、身体の向きをシベリウスの方へ変えた。
「ええ、起きてたわ。ねえ、シベリウス、相談があるの」
「ええ、もちろん何でも聞きます」
シベリウスは嬉しそうに微笑みながら一緒に横になって頬杖をつき、ジュエリアの頬を撫でる。
「明日、トマスと街に出掛けてもいい?」
ジュエリアの言葉に一瞬でシベリウスの表情が真顔に変わった。
「ダメです」
「なんで? サイオン卿がトマスは強いって言っていたから、私の護衛も兼ねられるはずよ」
シベリウスはベッドの上で起き上がり、横になるジュエリアを見下ろした。
「あいつだけは絶対にダメだ」
ジュエリアも起き上がり、シベリウスと目線を合わせた。
「なんでよ? 私と彼は友達なの。それに、街の様子を見ておけば女公になった時にも役立つはずでしょ?」
「そんな目的じゃないですよね? 女公の話を出せば許すとでも思いましたか? 街に行きたいなら、私の部下を護衛につけますし、話し相手ならアンヌを連れて行けばいい」
「アンヌともいつかは行きたいけど、明日はトマスに誘われてるの」
「誘われてる?」
シベリウスのこめかみに青筋が浮かび上がった気がした。実際には浮かんでいないが、そういう表情にジュエリアには見えた。
「トマスの何がダメかちゃんと理由を教えてくれないなら、今後はあなたに言わずに行くわよ」
「嫉妬するからです」
「は?」
シベリウスの理由があまりに単純すぎてジュエリアは言葉を失い、二人は見つめ合ったまましばらく沈黙が流れる。
シベリウスが観念したような溜息をつくと、一息で言葉を言い切った。
「しかも、あんな見た目で嫉妬するし、心配になるし、何より、ジュエルを笑顔にする男は常に私がいい!」
シベリウスはそんな事を口にする自分を恥じ入り、ジュエリアから視線を逸らす。
ジュエリアはシベリウスの手をそっと掴んだ。
「トマスは友達。あなたは私の婚約者よ。私達の婚約は誓約書がちゃんとあり、一方的に解消は出来ない。破棄を言い渡せるのも、相手に重大な過失があった時だけ」
だが、シベリウスはまだ納得していない。
「……そんなもの、ジュエルの心が私になければ無意味だ」
ジュエリアはシベリウスの頬を両手で押さえ、自分に顔を向けさせ、お互いの視線を合わせた。
「じゃあ、ちゃんと私の心を捉えなさいよ」
シベリウスは片手でジュエリアの手首を掴む。
ジュエリアは掴まれた手首からシベリウスの顔に視線を移すと、彼の瞳孔は光り、笑みを浮かべていた。
「そんな事言って、絶対に逃がしませんよ?」
ジュエリアは膝立ちし、シベリウスに顔を寄せてキスをした。
シベリウスは不意を突かれて目を見開き、一瞬動きを止めたが、ジュエリアから注がれる深いキスに酔いしれ、彼女の腰に手を回すと、そこからは自分の方から一気に迫って行く。
「愛してる……僕のジュエル……」
シベリウスは吐息交じりに愛を囁く。
「私はまだ愛してない」
ジュエリアの言葉に、シベリウスのキスがピタリと止んだ。
ジュエリアは冷めた表情でシベリウスを見つめている。
「私にこんなことが出来るのは婚約者のあなただけ。トマスにも他の男にも絶対にさせない」
ジュエリアは、シベリウスの手を掴んで自分の身体から離す。
「だけど、私の心まで掴めるかは、あなた次第。キスや身体だけでいいなら、束縛したらいい。私は誓約を守り、あなたにしか身体は許さない。その代わり、あなたは一生私から愛は得られない」
シベリウスは鋭い視線でジュエリアを正視する。
シベリウスはギシリとベッドを軋ませながら、ゆっくりとジュエリアをベッドに押し倒した。
「キスも、身体も、ジュエルの心も、すべて手に入れます」
シベリウスはジュエリアと視線を絡めながら、甘く、優しく、押し潰すように、丁寧に唇を重ねた。
「そのうちジュエルから私を求めるようになる……」
ジュエリアもまた、誘惑するように、吐息を混ぜてシベリウスの唇を甘噛みする。
「精々頑張ってちょうだい……」
『明日、話し合い中に一緒に街へ行かないか? ほんの一時間位だし、シベリウスにはバレないよ』
トマスはそう言っていたが、別に私達は友達になったのだし、こそこそ隠れて会うのもどうかとジュエリアは思っていた。それに、自分が消えていたらシベリウスや館の者達に迷惑をかける事は十分に理解した。
ジュエリアは仰向けから、身体を横向きに変え、窓の外を眺めた。その時、部屋の扉が静かに開く。
背中越しに誰かが部屋に入って来たのがわかった。おそらくシベリウスだろう。
ジュエリアは突然の出来事に声を掛けるタイミングを逸して、そのまま横向きで寝たふりをしてしまった。
シベリウスが着ていたナイトローブを脱いで、イスの上にパサッと置いた音がした。
ベッドが軋み、ジュエリアの背中側が沈んだ。
「起きてますよね?」
シベリウスはジュエリアの背中越しにそう呟いた。
ジュエリアはぎくっと肩を僅かに上げてから、身体の向きをシベリウスの方へ変えた。
「ええ、起きてたわ。ねえ、シベリウス、相談があるの」
「ええ、もちろん何でも聞きます」
シベリウスは嬉しそうに微笑みながら一緒に横になって頬杖をつき、ジュエリアの頬を撫でる。
「明日、トマスと街に出掛けてもいい?」
ジュエリアの言葉に一瞬でシベリウスの表情が真顔に変わった。
「ダメです」
「なんで? サイオン卿がトマスは強いって言っていたから、私の護衛も兼ねられるはずよ」
シベリウスはベッドの上で起き上がり、横になるジュエリアを見下ろした。
「あいつだけは絶対にダメだ」
ジュエリアも起き上がり、シベリウスと目線を合わせた。
「なんでよ? 私と彼は友達なの。それに、街の様子を見ておけば女公になった時にも役立つはずでしょ?」
「そんな目的じゃないですよね? 女公の話を出せば許すとでも思いましたか? 街に行きたいなら、私の部下を護衛につけますし、話し相手ならアンヌを連れて行けばいい」
「アンヌともいつかは行きたいけど、明日はトマスに誘われてるの」
「誘われてる?」
シベリウスのこめかみに青筋が浮かび上がった気がした。実際には浮かんでいないが、そういう表情にジュエリアには見えた。
「トマスの何がダメかちゃんと理由を教えてくれないなら、今後はあなたに言わずに行くわよ」
「嫉妬するからです」
「は?」
シベリウスの理由があまりに単純すぎてジュエリアは言葉を失い、二人は見つめ合ったまましばらく沈黙が流れる。
シベリウスが観念したような溜息をつくと、一息で言葉を言い切った。
「しかも、あんな見た目で嫉妬するし、心配になるし、何より、ジュエルを笑顔にする男は常に私がいい!」
シベリウスはそんな事を口にする自分を恥じ入り、ジュエリアから視線を逸らす。
ジュエリアはシベリウスの手をそっと掴んだ。
「トマスは友達。あなたは私の婚約者よ。私達の婚約は誓約書がちゃんとあり、一方的に解消は出来ない。破棄を言い渡せるのも、相手に重大な過失があった時だけ」
だが、シベリウスはまだ納得していない。
「……そんなもの、ジュエルの心が私になければ無意味だ」
ジュエリアはシベリウスの頬を両手で押さえ、自分に顔を向けさせ、お互いの視線を合わせた。
「じゃあ、ちゃんと私の心を捉えなさいよ」
シベリウスは片手でジュエリアの手首を掴む。
ジュエリアは掴まれた手首からシベリウスの顔に視線を移すと、彼の瞳孔は光り、笑みを浮かべていた。
「そんな事言って、絶対に逃がしませんよ?」
ジュエリアは膝立ちし、シベリウスに顔を寄せてキスをした。
シベリウスは不意を突かれて目を見開き、一瞬動きを止めたが、ジュエリアから注がれる深いキスに酔いしれ、彼女の腰に手を回すと、そこからは自分の方から一気に迫って行く。
「愛してる……僕のジュエル……」
シベリウスは吐息交じりに愛を囁く。
「私はまだ愛してない」
ジュエリアの言葉に、シベリウスのキスがピタリと止んだ。
ジュエリアは冷めた表情でシベリウスを見つめている。
「私にこんなことが出来るのは婚約者のあなただけ。トマスにも他の男にも絶対にさせない」
ジュエリアは、シベリウスの手を掴んで自分の身体から離す。
「だけど、私の心まで掴めるかは、あなた次第。キスや身体だけでいいなら、束縛したらいい。私は誓約を守り、あなたにしか身体は許さない。その代わり、あなたは一生私から愛は得られない」
シベリウスは鋭い視線でジュエリアを正視する。
シベリウスはギシリとベッドを軋ませながら、ゆっくりとジュエリアをベッドに押し倒した。
「キスも、身体も、ジュエルの心も、すべて手に入れます」
シベリウスはジュエリアと視線を絡めながら、甘く、優しく、押し潰すように、丁寧に唇を重ねた。
「そのうちジュエルから私を求めるようになる……」
ジュエリアもまた、誘惑するように、吐息を混ぜてシベリウスの唇を甘噛みする。
「精々頑張ってちょうだい……」
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