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16. 滝の近くで朝食を
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オーガストは作業用のエプロンを外してマルクスに渡した。
「おい、マルクス、ちょっとシベリウス達と喋ってくるから、火の番しててくれ」
「はい、親方!」
シベリウスはマルクスとルカにサンドイッチを二人分渡した。それからオーガストに連れられ、近くの森の中へ入っていくと、小さな滝があり、その近くに木製のテーブルとイスがあり、そこに三人で座る。
「シベリウスと話す時はいつもここなんだ。人目もつかないし、滝の音で話しが漏れにくく、何より自然が綺麗で居心地が最高の場所だ」
オーガストがジュエリアに話している間に、シベリウスが持って来たバスケットの中から、サンドイッチやナツメや、ワインを取り出して、ジュエリアの前に綺麗に並べ、そのあとオーガストにも渡す。
「おー、うまそーだなー」
「今日はわざわざアンヌが朝から作ってくれた。彼女のサンドイッチは美味いと思う」
オーガストはすでにサンドイッチを頬張っていた。
「ジュエリア様は街とか歩いた事あるんですか?」
「え? もちろんあります。特に月に一度の薔薇の日は欠かさず行ってます」
「あー、薔薇の日か。じゃあ勿論馬上槍試合も観るんですよね?」
「観ないです」
ジュエリアはきっぱりと答えた。
「え? 一番のイベントといってもいいのに、観ないんですか?」
オーガストはサンドイッチをペロリと食べ終わり、シベリウスに投げ渡されたナプキンで手を拭いた。
ジュエリアは何かを思い出しながら、苦々しく笑う。
「幼い時に観た、私の元婚約者の試合がトラウマで……それから観れなくなってしまったんです」
「でも薔薇の日に行くのは問題ないんですか? その、トラウマを思い出さねぇのかなぁって意味で」
オーガストの質問にジュエリアは少し躊躇いながらも口を開く。
「そうですね、矛盾してるかもしれませんが、薔薇の日は行きたいんです。……謝りたい相手がいるんです。見つけられず、薔薇の日でなら会える気がして……」
「なあ……もしかして、その元婚約者はそのジョストで亡くなったとか? それでシベリウスと婚約したとかなのか?」
オーガストの質問に、ジュエリアはちらっとシベリウスを伺う。シベリウスもサンドイッチを食べ終え、ナプキンで手を拭いていた。
「いえ、ジョストで元婚約者は亡くなっていません。それに、婚約解消となったのは、シベリウスとの政治的な婚約が決まったためです」
「うわっ、シベリウスが引き裂いたんだ」
「人聞きの悪い事を……」
シベリウスはジロリとオーガストを睨む。
ジュエリアは話を続けた。
「別に元婚約者とは感情面での繋がりはなかったので、婚約解消はそこまで傷つかなかったですが、結婚が先延ばしになったのは痛手でした」
「元婚約者の試合がトラウマで、でも感情面の繋がりはない? 何があったんだ?」
「おい、オーガスト、初対面の相手に心の傷をペラペラ喋れるわけないだろ」
「おお、そりゃそうだ。悪かった悪かった。ジュエリア様があまりに話しやすいからつい食いついちまった」
「いえ、こちらこそオーガストさんが話しやすくて、自然と答えられました。オーガストさんはジョストがお好きなんですか?」
「そりゃあ、男なら興奮する試合だからなあ。しかも俺は鍛冶屋だから使用される道具にも興味がある。それでさ、俺が最強の鎧と槍を作ってやるから、店の宣伝の為に出てくれってシベリウスに頼んでるんだけど、中々うんって言ってくれないんだよな~」
オーガストはそう言いながらシベリウスをジッと見る。だがシベリウスは涼しい顔をしてワインを飲んでいた。
「出ないの?」
ジュエリアがシベリウスに聞いてみた。
シベリウスは首を横に振り、ジュエリアの口元にナツメを持っていく。
「口を開けて。美味しいですよ。食べて感想をアンヌに聞かせたら喜びますよ」
シベリウスはナツメの入った小箱を手に持ち、ジュエリアが直接自分で取って食べられないようにした。
ジュエリアはうめき声を上げながら、鼻を掠める甘いナツメの香りと、アンヌの喜ぶ顔を頭に浮かべ、誘惑に勝てず観念してシベリウスの指からパクッと食べてしまう。
「美味しい……」
それは感動的な美味しさだった。ただのナツメではなく、中にバターとナッツが詰められていた。
「ジュエルはジョストは観ないんですよね? しかもトラウマって。それが分かったからには、益々出ませんよ。だからオーガスト、諦めろ。私は出ない」
「くっそ~、お前が出たら絶対優勝なのに!」
オーガストは悔しそうにして、シベリウスがテーブルに置いた小箱からナツメを一つ掴み口に投げ入れた。
「うっま」
「おい、マルクス、ちょっとシベリウス達と喋ってくるから、火の番しててくれ」
「はい、親方!」
シベリウスはマルクスとルカにサンドイッチを二人分渡した。それからオーガストに連れられ、近くの森の中へ入っていくと、小さな滝があり、その近くに木製のテーブルとイスがあり、そこに三人で座る。
「シベリウスと話す時はいつもここなんだ。人目もつかないし、滝の音で話しが漏れにくく、何より自然が綺麗で居心地が最高の場所だ」
オーガストがジュエリアに話している間に、シベリウスが持って来たバスケットの中から、サンドイッチやナツメや、ワインを取り出して、ジュエリアの前に綺麗に並べ、そのあとオーガストにも渡す。
「おー、うまそーだなー」
「今日はわざわざアンヌが朝から作ってくれた。彼女のサンドイッチは美味いと思う」
オーガストはすでにサンドイッチを頬張っていた。
「ジュエリア様は街とか歩いた事あるんですか?」
「え? もちろんあります。特に月に一度の薔薇の日は欠かさず行ってます」
「あー、薔薇の日か。じゃあ勿論馬上槍試合も観るんですよね?」
「観ないです」
ジュエリアはきっぱりと答えた。
「え? 一番のイベントといってもいいのに、観ないんですか?」
オーガストはサンドイッチをペロリと食べ終わり、シベリウスに投げ渡されたナプキンで手を拭いた。
ジュエリアは何かを思い出しながら、苦々しく笑う。
「幼い時に観た、私の元婚約者の試合がトラウマで……それから観れなくなってしまったんです」
「でも薔薇の日に行くのは問題ないんですか? その、トラウマを思い出さねぇのかなぁって意味で」
オーガストの質問にジュエリアは少し躊躇いながらも口を開く。
「そうですね、矛盾してるかもしれませんが、薔薇の日は行きたいんです。……謝りたい相手がいるんです。見つけられず、薔薇の日でなら会える気がして……」
「なあ……もしかして、その元婚約者はそのジョストで亡くなったとか? それでシベリウスと婚約したとかなのか?」
オーガストの質問に、ジュエリアはちらっとシベリウスを伺う。シベリウスもサンドイッチを食べ終え、ナプキンで手を拭いていた。
「いえ、ジョストで元婚約者は亡くなっていません。それに、婚約解消となったのは、シベリウスとの政治的な婚約が決まったためです」
「うわっ、シベリウスが引き裂いたんだ」
「人聞きの悪い事を……」
シベリウスはジロリとオーガストを睨む。
ジュエリアは話を続けた。
「別に元婚約者とは感情面での繋がりはなかったので、婚約解消はそこまで傷つかなかったですが、結婚が先延ばしになったのは痛手でした」
「元婚約者の試合がトラウマで、でも感情面の繋がりはない? 何があったんだ?」
「おい、オーガスト、初対面の相手に心の傷をペラペラ喋れるわけないだろ」
「おお、そりゃそうだ。悪かった悪かった。ジュエリア様があまりに話しやすいからつい食いついちまった」
「いえ、こちらこそオーガストさんが話しやすくて、自然と答えられました。オーガストさんはジョストがお好きなんですか?」
「そりゃあ、男なら興奮する試合だからなあ。しかも俺は鍛冶屋だから使用される道具にも興味がある。それでさ、俺が最強の鎧と槍を作ってやるから、店の宣伝の為に出てくれってシベリウスに頼んでるんだけど、中々うんって言ってくれないんだよな~」
オーガストはそう言いながらシベリウスをジッと見る。だがシベリウスは涼しい顔をしてワインを飲んでいた。
「出ないの?」
ジュエリアがシベリウスに聞いてみた。
シベリウスは首を横に振り、ジュエリアの口元にナツメを持っていく。
「口を開けて。美味しいですよ。食べて感想をアンヌに聞かせたら喜びますよ」
シベリウスはナツメの入った小箱を手に持ち、ジュエリアが直接自分で取って食べられないようにした。
ジュエリアはうめき声を上げながら、鼻を掠める甘いナツメの香りと、アンヌの喜ぶ顔を頭に浮かべ、誘惑に勝てず観念してシベリウスの指からパクッと食べてしまう。
「美味しい……」
それは感動的な美味しさだった。ただのナツメではなく、中にバターとナッツが詰められていた。
「ジュエルはジョストは観ないんですよね? しかもトラウマって。それが分かったからには、益々出ませんよ。だからオーガスト、諦めろ。私は出ない」
「くっそ~、お前が出たら絶対優勝なのに!」
オーガストは悔しそうにして、シベリウスがテーブルに置いた小箱からナツメを一つ掴み口に投げ入れた。
「うっま」
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