聖ロマニス帝国物語

さくらぎしょう

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15. 鍛冶屋

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 玄関に行くと、シャツにベストを合わせただけの簡素な服装のシベリウスが待っていた。
 シベリウスは手に持った大きなバスケットを見せながらジュエリアに微笑む。

「さあ、今日は外で朝食を食べよう」

 シベリウスに手を引かれて玄関を出れば、二人乗りの馬車が準備されていた。
 もちろんシベリウスが手綱を取り、馬車は出発する。

「シベリウス、素敵な侍女をつけてくれてありがとう」
「もう気に入りました? それなら良かったです。アンヌは私も信頼している人間ですので、沢山彼女に甘えてください」
「……甘えられるほど仲良くなれたら嬉しいわ」

 ジュエリアは、自分に侍女らしい侍女が出来たことに、湧きあがる感情が抑えきれず顔が緩んでしまう。
 シベリウスはちらっとジュエリアを見て、口をとがらせた。

「いえ、甘えるのは私だけにしてください」
「えー、いやよ。自分で言っておいてダメでしょ」
「……」

 シベリウスは手綱を離すわけにはいかず、ジュエリアに触れる事ができないのが歯がゆくて、馬の速度を上げて目的地へ急いだ。
 
 シベリウスは街の外れまで馬車を走らせると、森と街の境にぽつんと佇む一軒の店が見えてきた。煙突からは煙がモクモクと上がっており、店の前では体格の良い男が何やら作業をしている。
 シベリウスは店先に馬車を停め、その男に声を掛けた。

「おはよう、オーガスト! 朝食を一緒に食べよう!」
「おう、シベリウス! 女を連れて来るなんて珍しいじゃねえか」
「婚約者のジュエルだ」
「婚約者!?」

 シベリウスは馬車から降り、ジュエリアを降ろしてオーガストの元まで連れて行った。

「俺ぁ、シベリウスはどんな美人に言い寄られても靡かないから、てっきり男が好きなんだと思ってたよ」
「美人に言い寄られた事なんてないけど?」
「まぁた~、この間だってマリアに「貴方しか見れないのぉ」とか何とか言われながら泣きつかれてたじゃないか」

 オーガストは巨体をくねくねさせながらマリアらしき人物を再現していた。

「ああ、あのことか。あんなの迷惑でしかない」
「おいおい、マリアはここら辺の若い男のマドンナだろ。あの時もそんな冷たい顔してたけどよぉ」
「私はジュエルしか見えないんだよ」

 シベリウスはそう言ってジュエリアの腰に手を回し、自分に引き寄せた。

「おーおー、随分婚約者に熱上げてたんだな」
「ああ、夢中だ」

 シベリウスはジュエリアを愛おしそうに見つめながら言った。
 オーガストも、シベリウスの隣に立つジュエリアににこりと笑いかける。

「挨拶が遅れたが、俺は鍛冶屋のオーガストっていうんだ。それと、おーいマルクスこっちこい」

 オーガストが店の中に声を掛けると、中から青年と小さな男の子が出て来た。

「あ」

 ジュエリアは小さな男の子の方を見て声を上げた。昨日ガレットを渡した男の子だった。

「ん? ルカを知ってるのか?」
「え……ええ、昨日街で会って、ガレットをあげたの」
「ああ、あんただったのか。それは世話になった。って言っても、俺は別にルカの親でも親方でもないんだが。えーっと、それより、ジュエルでいいんだっけ?」
「いえ、私はジュエリアです。ジュエリア・フロリジアと申します」

 その名を聞いたオーガストはもちろん驚いた。

「え? ジュエリア・フロリジアって……おい、シベリウス、彼女はフロリジア公女か?」
「そうだ。彼女がこの国を治める」
「ちょっと待ってシベリウス、まだ決まって無い事を勝手に国民に宣言しないで」

 ジュエリアの発言など二人は聞いておらず、オーガストは唖然としながらシベリウスに言った。

「シベリウス……お前凄いのと婚約してたんだな。そりゃマリアなんて相手にしてる場合じゃねぇや」
「オーガスト、その言い方は語弊がある。私はジュエルがただの街娘でも愛したよ。むしろ、街娘だったらすぐに結婚出来て良かったのに……」
「ふーん……。お前の笑顔はいつも嘘くせぇからなぁ」

 ジュエリアもそれには頷いた。

「まあいい、ジュエリア様、こいつは俺の弟子のマルクスで、こっちはなんだか居ついちまったルカだ」
 
 青年のマルクスは愛嬌ある笑顔でペコっと頭を下げ、その隣にいる小さなルカは無表情で頭を下げた。


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