聖ロマニス帝国物語

さくらぎしょう

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7. 礼拝堂で

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 サイオンはミアに腕を差し出す。

「ミア、フロリジア公の御前まで案内をしてくれ」

 ミアは初めて会った自分の結婚相手に緊張しながら、サイオンのたくましい腕に軽く手を添え、フロリジア公の遺体が安置されている城内の礼拝堂まで案内した。
 彼はミアの歩幅に合わせるように、ゆっくりと歩いてくれた。サイオンは終始穏やかで、にこにこと微笑みながらミアの話を聞いてくれた。それはミアがずっと憧れていたシベリウスの姿と重なり、彼が姉ジュエリアに対して行っていた態度であった。ミアはサイオンを見て、見た目は全然似ていないのに、彼とシベリウスの姿が重なり、胸がキュッと締め付けられた。

(シベリウスと同じくらい好きになれるかしら——)

「ミア、早くサイオン卿をご案内しなさい」

 セルマ公妃は二人の数歩後ろを歩いてついて来ていた。ミアは母をちらりと見てから、サイオン卿に謝る。

「失礼いたしました。さあ、この扉です」

 ミアが扉を守る兵士に合図を出し、扉が開かれると、部屋の中ではフロリジア公の遺体を前に泣きじゃくるジュエリアと、その肩を抱きしめるシベリウスがいた。
 その光景を見たミアは目を見開いた。肩は震え出し、唇を噛む。一瞬で強い嫉妬心に駆られたのだ。
 そして改めて自覚した。自分はシベリウスでないとダメなのだと。

 すでに感情的になり始めたミアが口を開こうとした瞬間、後ろにいたセルマ公妃がミアとサイオン卿の横を通り抜けてジュエリアとシベリウスの元まで早歩きで向かって行った。

 ジュエリアは近づく足音に気が付き、涙を拭って振り返ると、薄ら笑うセルマ公妃がどんどん近づいて来ていた。その圧で何となく立ち上がってしまった。

「シベリウス様もジュエリアもいて丁度良い。この場で今後の話をしましょう」
「お継母様……」
「埋葬が終わり次第、ミアの女公宣誓と継承、そしてサイオン卿との結婚を速やかに行います。この国はミアとサイオン卿の共同統治となります。そして、ジュエリアは、ミアの結婚式の後すぐにシベリウス様と結婚をし、継承権だけでなく遺産相続権も放棄してシベリウス様の館へ移りなさい。嫁ぐに相応しい持参金と式の費用は出すので安心なさい」

 ジュエリアはセルマ公妃の発言はおおよそ予想出来ていた事なのでそこまで驚きはしなかった。それよりも、シベリウスが異議を唱え出さないかにハラハラしている。ジュエリアはチラッとシベリウスを見ると、彼は無表情でセルマ公妃を見ていた。
 ピリついた空気の中、急にサイオン卿が話に割って入って来た。

「ああ、ごほんっ。その、大事な話の最中悪いが、自己紹介をしても?」
「サイオン卿……?」

 セルマ公妃が戸惑う中、サイオン卿はミアの手を腕からそっと離し、ジュエリアの前まで来て優雅にお辞儀をした。

「フロリジア公のご長女、ジュエリア公女だね。私はミアの婚約者のサイオン・グレイル=ヴェルタだ。これからは親戚関係になる。どうぞよろしく」

 ジュエリアは戸惑いながらも、サイオン卿にカーテシーをして答える。

「ジュエリア・フロリジアと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 サイオンはジュエリアの横に立つシベリウスを一瞥してから、ジュエリアに微笑む。

「よければ、隣の紳士もご紹介いただけないか?」
「ええ、もちろんです。こちらは私の婚約者のブローディア子爵シベリウス・グウェインでございます」
「ブローディア子爵シベリウス卿。その姿に良く似合う優美な名だ」

 サイオンは微笑みを浮かべ、シベリウスをジッと見つめた。シベリウスも、いつもの何を考えているのかわからない笑顔をサイオンに向ける。

「お会い出来て光栄です、閣下。どうぞお気軽にシベリウスとお呼びください」
「ああ、そうしよう、シベリウス」

 サイオンは親しみを込めるような手つきで、シベリウスの肩を優しくポンポンと二回叩いた。ジュエリアとシベリウス、そしてサイオンの間には終始穏やかな空気が流れており、張り詰めたものは一切なかった。
 その様子をミアは目を細めてずっと見ていた。

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