王太子の仮初めの婚約者

さくらぎしょう

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36. タラテの子孫、ウェリントン兄妹

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 アウルム国の自然に変化があり、バラド国王やゼキ、ギュネシュとスアトが驚いていた。

「これは完全に……」

 バラド国王の呟きと共に、四人とも私の方に振り向いた。

「あの、昨晩中庭の巨樹に手をあてたら、多分こうなりまして……」

 スアトが驚きながら言った。

「凄いな。タラテの子孫なだけある」
「巨樹に手を当てていると、マナの力がわかりました。それから、オーバーランドのマーレーン領の樹木たちの声も聴こえて、タラテはアウルムを飛び出した事を深く後悔していました」

 私の言葉にギュネシュが食いついてきた。

「タラテの思念が伝わったのか?」
「あ、どちらかというとタラテの思念が樹木に伝わって、私に届いた感じです」

 私は昨晩の樹木の出来事を説明し、タラテの無念と謝罪を伝えた。バラド国王は溜息をつき、ハンド二人はうなだれている。出発を控えていたアロイスは話を聞いて気が付いたようで、私に確認をとる。

「では、マーレーン領のあの豊富な木材は、グリーンハンドのタラテの肉体が土に眠っていたからだと?」
「ええ。それで、タラテの肉体は完全に土に還っているので、おそらくマーレーン領の自然にも変化が起きているのではないでしょうか?」
「そうだとしたら、もしかしたら減り始めた資源に焦って密輸に手を出していたのか……?」

 アロイスが考え込んでいると、鳥の囀りが聞こえ始めた。アロイスは空を眺めて慌てだす。

「ああ、日があんなに高く昇り始めてしまった。ルイスと私はもう出発する。シルビア、王宮で待ってる」

 私はアロイスの手を握りしめ、頷いた。

「ええ、必ず結果を出して戻ります」

 アロイスとルイスは馬に乗り、オーバーランドへと帰って行った。
 二人の影が見えなくなるまで見送る私の肩に、ゼキが手を乗せた。

「タラテの話を聞かせてくださり、ありがとうございました。彼女が私達の事を想ってくれていたと知り、嬉しかったです。後悔したまま亡くなったことは残念ですが、それもきっと、シルビア嬢が昨晩昇華させてくださったと信じています」

 ゼキは耳元でこっそり教えてくれた。

「ギュネシュとスアトはタラテが好きだったんですよ」

 それを聞いて私は改めてギュネシュとスアトの表情を見た。ギュネシュの怒りも、スアトの悲しみも、どちらもタラテを大切に想っていたから湧きあがる感情なのだと知った。
 タラテの子孫の私達が今この場にいるのは、マナの加護とやらなのだろうか?
 私達が事を成し遂げたら、想定以上に誰かの救いになり、素晴らしい世界が待っているかもしれない。

「お兄様、頑張りましょう。子孫の私達がタラテの祖国でやり遂げれば、きっとタラテだけでなく、皆の気持ちも少しは軽くなるはず」
「そうだな」
「ねえ、お兄様、やはりハンドのお二人には少し手伝って頂きましょう」
「え? でもそれだと……」
「いえ、実験的な部分を手伝っていただくだけで、二人の力から何かヒントを貰えるかもしれないじゃないですか」
「確かにそうだな」

 ♢

 朝食後、アウルム国の王宮の庭でギュネシュとスアトにも協力してもらって蒸気機関の改良を目指した。

「あの、ギュネシュ様の太陽の力をスアト様の水の力に注ぐとか、そう言ったことは出来るのですか?」

 私の言葉に二人が首を傾げ、ギュネシュが答える。

「そう言った事はしたことないから……」
「何かと何かが反応して起こす力を化学反応って言いますが、マナにも起こらないかしら?」
「化学反応ね……やってみるか」

 スアトが中庭の池の水を少し持ち上げて球体状にし、この場まで空中を浮遊させて持ってくる。そこにギュネシュが太陽の光を注ぎ込むと、水の球体の中で渦巻きが発生し始める。

「おお、マナがビリビリくる」

 ギュネシュは手を動かして太陽の光を更に注ぎ込む。お兄様はその様子を見ていて何か思いついた。

「そうだ!! 回転だ!!」
「回転?」
「そう、ピストンを上下じゃなく回転運動にしたらいいんだ。あとは、シリンダーの温度を下げないよう分離すれば……」

 お兄様と話していると、今度はスアトが声を上げた。

「シルビア嬢、これを見てください」
「え?」

 スアトに声をかけられ、視線を彼らに戻すと、水の中に二つの空間が出来ていた。

「何か……反応させるというより、水を分解しちゃった感じかも……」

スアトは苦笑いしていた。でも、お兄様は目を輝かせてその光景を見ている。

「水が……分解できる???」

ギュネシュが感じ取れたマナの力を説明する。

「どちらも何だか違う力を感じるから、違うものだとは思う」

お兄様は私の肩を掴み、頷いた。

「ああ、シルビアありがとう! シルビアの提案で色々湧きあがって来る」

私もお兄様の輝いた瞳が嬉しくて、力強く頷いた。

「何でも指示して。一緒に開発を成功させましょう」



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