16 / 38
16. 繋がる二人
しおりを挟む
ルイス王子は王太子の部屋の寝室にいた。
視線の先には、ベッドの上で並んで眠る王太子とシルビアの姿。二人の繋がれた手には、しっかりと紐が巻き付けられている。
ルイス王子にとって、それはまるで、お前に入る余地など無いと言われているようであった。事実、二人は婚約しており、誰も入る余地はない。
侍従のユルゲンは今は隣の執務室に待機している。
ルイス王太子はベッドに近づき、執務室の方をチラと確認した。そして、視線をベッドに戻すと、指でシルビアの唇にそっと触れる。
ふつふつと欲望が生まれ始め、葛藤が始まった。
視線をシルビアのすぐ隣に移せば、王太子の姿は眠りにおちながらも成長を始めていた。
やはりまがいものの自分とは全く違う……。
美しい金の髪は色が褪せる事など無くそのままの色味で伸び始め、喉ぼとけも出て来て、顔立ちはどんどん端正な大人の男性に変わっている。この瞳が開き動き出せば、誰もが王太子の魅力に吸い込まれるだろう。
目が覚めたらシルビアは確実に兄に恋をする。
それだけではない。おそらく今自分に言い寄ってきている令嬢達も皆兄に乗り換えるだろう。兄が子孫を残せるなら、王室としても自分はたいして必要なくなる。
このままアロイスは目覚めなければいいのに……。
このままシルビアの純潔を奪ってしまおうか……。
——ギシリ、とベッドが軋んだ。
「ルイス」
ルイス王子はシルビアの頭の横に置いた手を離し、曲げていた腰を伸ばして振り返った。
「姉上」
ルイーザ王女は眉を吊り上げてルイスを見ている。
「近づきすぎよ。離れなさい」
「すいません。二人が気になってしまって」
「まさか変な事を考えていたんじゃないわよね?」
「まさか」
ルイス王子の感情のない無機質な声に、ルイーザ王女は大きな溜息をつき、ルイス王子を抱きしめる。
「ルイス。貴方とアロイスはまったく別の人間なのだから、同じ人生にはならない。ルイスとして生きて、あなたにしか描けない人生を歩んで」
「姉上……」
ルイス王子は優しい手つきでルイーザ王女を離す。
「ありがとうございます。そんなに心配しないでください。部屋に戻りますね」
ルイーザ王女はまだ心配そうな表情をしながら手を伸ばしていたが、ルイス王子は見ないようにしてそのまま部屋を後にした。
そして、自室で庶民の服に着替えてから、夜の王都へと馬を走らせた。苛立ちか、焦りか、羞恥心か、手綱に無駄に力が入る。
駆け抜けた先の夜の王都は、オイルランプの街灯があちこちに設置されており、温かな色味で輝いていた。
目的地であるお気に入りの酒場近くで馬を繋いでいれば、人々の盛り上がる声が聞こえた。
吸い込まれるように声のする方に向かえば、ストリートファイトが開かれている。
「おらっ、イケッ!!」
「ふざけんなっ! そこだっ!!」
ドスッと鈍い音が響いた。
「なぁに、女に負けてんだよ!! 金返せ!!」
人々の熱くなった叫び声があちこちで響いていた。
ルイス王子はストリートファイトの中心で威風堂々と立つ女戦士に釘付けだった。
背が高く、筋肉質な上半身の素肌には甲冑の胸当てのみで、冬の夜にへそを出し、下半身はピチピチのタイツにスカート状の甲冑を巻いており、その容姿は気の強そうな、男勝りな顔で、シルバーの長いカールヘアである。
今彼女が倒したであろう大男が、彼女の足元で伸びていた。
「あの女が倒したのか?」
ルイス王子は声を漏らす。その声が聞こえていたようで、女はルイス王子を見て答えた。
「そうだ。お前もやるか?」
「いや、いい」
「だよな。お前みたいなひ弱そうな奴じゃ私は倒せない」
ルイス王子はただでさえ苛立っているのに、見知らぬ女にまで見下されてカチンと頭にきて、思わず前に出てしまった。
「そうこなくっちゃ」
女は嬉しそうに身体をジャンプさせてコンディションを整え始める。
観客は皆この女戦士に金を賭け始めた。
(こんなところでも私は負け犬なのだな……)
ルイス王子はそう思って自嘲した。
女戦士は挑発されたと勘違いしてムッとしている。
「笑ってられるのも今のうちだ」
試合開始の合図とともに女戦士が思い切り足を蹴り上げてきた。ルイス王子は軽く避けて女の背面に移動し、腕をひねって掴み、彼女の動きを封じる。
「どちらか倒れるまで終わんねーぞ!」
野次にルールを教えられ、ルイス王子は面倒くさそうに仕方なく気を失う首のツボを刺激して女戦士を倒した。
「ふざけんなー!!」
「負けてんじゃねーよ!!」
賭けに負けた男達が憤慨していた。この女戦士が野獣の様に強いと言っても、気を失わせたままこんなところに置いて行ったら怒り狂う男どもに何をされるかわからない。
ルイス王子は女を背負うと、その場を後にしようとする。
「おい、にーちゃん、賞金!」
「この女をもらうよ。金は負けた奴らに一杯おごるなり配るなりしてくれ」
先ほどまで響いていた憤怒の声が、たちまち歓声に変わった。
ストリートファイトの元締めの男が背負われた女戦士の肩に、彼女の物であろう狼の頭がフードになった毛皮のコートをかけた。
「女が羽織るには随分と猛々しいコートだな」
人々がルイス王子を背後から見れば、まるで狼を背負っているように見えた。
ルイス王子はとりあえず女を寝かそうと、酒場の二階にある宿屋を目指す。すると酒場の手前で女戦士が目覚める。
「お前、色白でひ弱そうなのに強いんだな」
女が肩越しにルイス王子の顔を覗き込みながら言った。狼と女の顔が急に真横に現れ、ルイス王子は驚いた。
「起きたのならここで降ろす」
「折角だからこのまま酒場まで行って一杯飲もう」
「え゛?」
「いいから来いや」
女戦士はルイス王子の背からヒョイッと降りて、ルイス王子の肩に腕を回してがっちりと捕まえると、そのまま酒場までルイス王子を引きずって入って行った。
♢
「それで、お前の名前は?」
つまみに手を出しながら名前を聞いてくる女戦士に、ルイス王子は答える。
「ルーズ」
「変な名前だな」
「そういう君は?」
「アルタン」
「そっちも変わってるだろ」
ルイス王子はジョッキの酒をグイッと飲んだ。そして、ふと気が付いた。
「もしやその名前、ハイステップの人間か?」
「おお~、よくわかったね~。大草原の誇り高きハイステップの民だ」
アルタンは嬉しそうにジョッキの酒をグイッと飲んだ。
「どーりで……」
ルイス王子の発言にアルタンがムッとした顔をする。
「どーりで……の後は、野蛮とか言うつもりだっただろ?」
「いや」
「いーやっ! お前は絶対言うつもりだった!」
「ていうかさ、何で国交断絶してるハイステップの人間がここにいるわけ?」
「同じ大陸なんだから、馬を走らせてりゃ辿り着くだろ」
「そういう問題じゃないだろ……」
「商談に来てんだよ」
「交流が制限されてる国で商談って……アルタンからは違法の匂いがプンプンするな」
アルタンはルイス王子の発言にプッと吹き出し、手を左右に振る。
「いやいやいやぁ~、この国の貴族様って奴の方が腐ってるぞ~」
「は?」
「言えるのはここまでだ。ルーズ、さあ飲もう! お前が気に入った」
アルタンはルイス王子の肩をバンバン叩きながらジョッキを一気に飲み干した。
視線の先には、ベッドの上で並んで眠る王太子とシルビアの姿。二人の繋がれた手には、しっかりと紐が巻き付けられている。
ルイス王子にとって、それはまるで、お前に入る余地など無いと言われているようであった。事実、二人は婚約しており、誰も入る余地はない。
侍従のユルゲンは今は隣の執務室に待機している。
ルイス王太子はベッドに近づき、執務室の方をチラと確認した。そして、視線をベッドに戻すと、指でシルビアの唇にそっと触れる。
ふつふつと欲望が生まれ始め、葛藤が始まった。
視線をシルビアのすぐ隣に移せば、王太子の姿は眠りにおちながらも成長を始めていた。
やはりまがいものの自分とは全く違う……。
美しい金の髪は色が褪せる事など無くそのままの色味で伸び始め、喉ぼとけも出て来て、顔立ちはどんどん端正な大人の男性に変わっている。この瞳が開き動き出せば、誰もが王太子の魅力に吸い込まれるだろう。
目が覚めたらシルビアは確実に兄に恋をする。
それだけではない。おそらく今自分に言い寄ってきている令嬢達も皆兄に乗り換えるだろう。兄が子孫を残せるなら、王室としても自分はたいして必要なくなる。
このままアロイスは目覚めなければいいのに……。
このままシルビアの純潔を奪ってしまおうか……。
——ギシリ、とベッドが軋んだ。
「ルイス」
ルイス王子はシルビアの頭の横に置いた手を離し、曲げていた腰を伸ばして振り返った。
「姉上」
ルイーザ王女は眉を吊り上げてルイスを見ている。
「近づきすぎよ。離れなさい」
「すいません。二人が気になってしまって」
「まさか変な事を考えていたんじゃないわよね?」
「まさか」
ルイス王子の感情のない無機質な声に、ルイーザ王女は大きな溜息をつき、ルイス王子を抱きしめる。
「ルイス。貴方とアロイスはまったく別の人間なのだから、同じ人生にはならない。ルイスとして生きて、あなたにしか描けない人生を歩んで」
「姉上……」
ルイス王子は優しい手つきでルイーザ王女を離す。
「ありがとうございます。そんなに心配しないでください。部屋に戻りますね」
ルイーザ王女はまだ心配そうな表情をしながら手を伸ばしていたが、ルイス王子は見ないようにしてそのまま部屋を後にした。
そして、自室で庶民の服に着替えてから、夜の王都へと馬を走らせた。苛立ちか、焦りか、羞恥心か、手綱に無駄に力が入る。
駆け抜けた先の夜の王都は、オイルランプの街灯があちこちに設置されており、温かな色味で輝いていた。
目的地であるお気に入りの酒場近くで馬を繋いでいれば、人々の盛り上がる声が聞こえた。
吸い込まれるように声のする方に向かえば、ストリートファイトが開かれている。
「おらっ、イケッ!!」
「ふざけんなっ! そこだっ!!」
ドスッと鈍い音が響いた。
「なぁに、女に負けてんだよ!! 金返せ!!」
人々の熱くなった叫び声があちこちで響いていた。
ルイス王子はストリートファイトの中心で威風堂々と立つ女戦士に釘付けだった。
背が高く、筋肉質な上半身の素肌には甲冑の胸当てのみで、冬の夜にへそを出し、下半身はピチピチのタイツにスカート状の甲冑を巻いており、その容姿は気の強そうな、男勝りな顔で、シルバーの長いカールヘアである。
今彼女が倒したであろう大男が、彼女の足元で伸びていた。
「あの女が倒したのか?」
ルイス王子は声を漏らす。その声が聞こえていたようで、女はルイス王子を見て答えた。
「そうだ。お前もやるか?」
「いや、いい」
「だよな。お前みたいなひ弱そうな奴じゃ私は倒せない」
ルイス王子はただでさえ苛立っているのに、見知らぬ女にまで見下されてカチンと頭にきて、思わず前に出てしまった。
「そうこなくっちゃ」
女は嬉しそうに身体をジャンプさせてコンディションを整え始める。
観客は皆この女戦士に金を賭け始めた。
(こんなところでも私は負け犬なのだな……)
ルイス王子はそう思って自嘲した。
女戦士は挑発されたと勘違いしてムッとしている。
「笑ってられるのも今のうちだ」
試合開始の合図とともに女戦士が思い切り足を蹴り上げてきた。ルイス王子は軽く避けて女の背面に移動し、腕をひねって掴み、彼女の動きを封じる。
「どちらか倒れるまで終わんねーぞ!」
野次にルールを教えられ、ルイス王子は面倒くさそうに仕方なく気を失う首のツボを刺激して女戦士を倒した。
「ふざけんなー!!」
「負けてんじゃねーよ!!」
賭けに負けた男達が憤慨していた。この女戦士が野獣の様に強いと言っても、気を失わせたままこんなところに置いて行ったら怒り狂う男どもに何をされるかわからない。
ルイス王子は女を背負うと、その場を後にしようとする。
「おい、にーちゃん、賞金!」
「この女をもらうよ。金は負けた奴らに一杯おごるなり配るなりしてくれ」
先ほどまで響いていた憤怒の声が、たちまち歓声に変わった。
ストリートファイトの元締めの男が背負われた女戦士の肩に、彼女の物であろう狼の頭がフードになった毛皮のコートをかけた。
「女が羽織るには随分と猛々しいコートだな」
人々がルイス王子を背後から見れば、まるで狼を背負っているように見えた。
ルイス王子はとりあえず女を寝かそうと、酒場の二階にある宿屋を目指す。すると酒場の手前で女戦士が目覚める。
「お前、色白でひ弱そうなのに強いんだな」
女が肩越しにルイス王子の顔を覗き込みながら言った。狼と女の顔が急に真横に現れ、ルイス王子は驚いた。
「起きたのならここで降ろす」
「折角だからこのまま酒場まで行って一杯飲もう」
「え゛?」
「いいから来いや」
女戦士はルイス王子の背からヒョイッと降りて、ルイス王子の肩に腕を回してがっちりと捕まえると、そのまま酒場までルイス王子を引きずって入って行った。
♢
「それで、お前の名前は?」
つまみに手を出しながら名前を聞いてくる女戦士に、ルイス王子は答える。
「ルーズ」
「変な名前だな」
「そういう君は?」
「アルタン」
「そっちも変わってるだろ」
ルイス王子はジョッキの酒をグイッと飲んだ。そして、ふと気が付いた。
「もしやその名前、ハイステップの人間か?」
「おお~、よくわかったね~。大草原の誇り高きハイステップの民だ」
アルタンは嬉しそうにジョッキの酒をグイッと飲んだ。
「どーりで……」
ルイス王子の発言にアルタンがムッとした顔をする。
「どーりで……の後は、野蛮とか言うつもりだっただろ?」
「いや」
「いーやっ! お前は絶対言うつもりだった!」
「ていうかさ、何で国交断絶してるハイステップの人間がここにいるわけ?」
「同じ大陸なんだから、馬を走らせてりゃ辿り着くだろ」
「そういう問題じゃないだろ……」
「商談に来てんだよ」
「交流が制限されてる国で商談って……アルタンからは違法の匂いがプンプンするな」
アルタンはルイス王子の発言にプッと吹き出し、手を左右に振る。
「いやいやいやぁ~、この国の貴族様って奴の方が腐ってるぞ~」
「は?」
「言えるのはここまでだ。ルーズ、さあ飲もう! お前が気に入った」
アルタンはルイス王子の肩をバンバン叩きながらジョッキを一気に飲み干した。
384
お気に入りに追加
1,403
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる