王太子の仮初めの婚約者

さくらぎしょう

文字の大きさ
上 下
16 / 38

16. 繋がる二人

しおりを挟む
 正しい制服の着用方法

 まず制服のサイズだが、くるぶしが隠れる長さの物を選ぼう。
 袖がダブっとしているのは、手元を見られにくくするためです。
 攻撃用ロットは腰のベルトにさしましょう。
 ダブっとした袖は、攻撃用ロットを隠すのにも効果的です。
 足元は歩きやすいピタッとした長いブーツをはきましょう。サンダルは脱げたりして危険だし、足元を狙われると危険だから止めましょう。
 ブーツの色は必ず黒にしましょう。
 全体的に黒なのに足元だけ色が入る‥差し色とか洒落っ気出してる場合ではありません。
 全体が黒だから、どこかに色を入れるとそれだけ目立って攻撃の的になりかねません。絶対に止めましょう。
 行動は夜にするとより効果的です。
 闇に紛れて、全く見えなくなります。
 全く見えなくなるようにするためには、フードを目深にかぶり、ダブっとした袖で手首を隠し(左右それぞれ反対側の袖の中にいれると目立たなくなるでしょう。

 制服に何故かついている、絶対に遊び半分で書いたとしか思えない説明書きを見て絶句する。
 ‥もしかして本気で書いたのか?
 まさかな。そんなわけない。

 おやっさんを振り向くとおやっさんは‥苦笑いしていた。
「これを書いた奴、俺の先輩なんだけど‥そういう奴だった」
 そういう? どういうやつだ? 
 面白半分にこういうやつかくタイプ? それとも‥厨二なやつ??

「暗殺者っぽいっていうの? ‥とにかくダークな奴だった」
 ああ‥暗殺者。
 暗殺者は、こんな丈の長い動きにくい服は着ないよ。
 僕はちょっと絶句して‥もう一度おやっさんを見た。
 おやっさんは‥苦笑いしてるけど‥呆れたっていうより‥どこか懐かしそうな顔。
 許してやってくれ、そういうやつなんだ。‥みたいな顔。

 僕はそれ以上何かを言うのは止めた。


「わあああああ! 地獄からのお迎えが見える!(それも集団で!! ) 俺は死ぬのか?! それとも、もう死んでいるのか?? 」
「助けてくれ! 俺は悪くない! 俺はただこいつらに命令されて‥! 」
「何だと貴様! 裏切るつもりか!? 」
「ああ! 死神様、これからは心を入れ替えますから何卒地獄に送るのだけは‥! 」
「神様‥私が何をしたっていうんですか‥! 」
 僕たちの登場と共に、その場は阿鼻叫喚の地獄絵図となる‥。

 きっとそれが、僕たちを見た人の正しい感想だろう。
 絶対に、「正義の味方が来てくれた! 」とは思わないだろう。
 彼らが浮かべる表情は、ヒーローが来てくれたことに対する歓喜の表情なんかじゃない。絶望だとか畏怖だとかそういった表情だ。
 いや‥考え過ぎか? 
 溺れる者は藁をもつかむ。‥苦しい時現れたなら、きっとどんな奴でも「助かった! 有難い! 」ってなるに違いない‥。
 ‥ちょっと前向きなこと考えてみるか‥
「わあ! 黒いヒーローが集団で来てくれた! 黒いお揃いかっこいい! 渋い! カラフルレンジャーとは違う落ち着きがある! 」
「お顔を隠すのはヒーローの基本だよね! レンジャーもんも絶対顔見せないしね! 間違いなくヒーローだよね!! 」
 ‥すみません。自分で言っておきながら自分で意味が解りません。
 いいさ‥そういう表舞台の願望は持ったことない。‥きっとこれからも持つことはないだろう。
 よい子の皆には「もうキラッキラでまごうことない正義の味方」を夢見て欲しい。
 筋骨隆々、笑顔もさわやかで、発想も健全。‥そんなヒーローに助けを求め、更に言うなら「そういうヒーローになりたい! 」って夢見てもらいたい。

 例えばザッカさんやシークさんみたいなね。

 そっか‥僕はアンバーsideのダーク属性なんだ‥。
 黒装束(もはや制服だとは思えない)に着替える仲間たちを見ながら、そんなことを思い‥なんだか「悲しくないのに」涙が流れた。 

 いいさ。
 正義の味方になんてなれなくても、悪人に(地獄への)引導を渡す役目を担えればいい。
 それは、きっと僕たちにしか出来ないし、裏方としてこれ以上ない重要な役割だ。

 きっと一生、目の前で感謝する人を見ることは出来なくても、だ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...