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マブダチ
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「じゃあ、ケータリング室で食事を受け取ってから、エリカさんの控室に伺いますね」
「あ、控室にお弁当が多めに置かれていたので、よければそれを召し上がってください」
さすがモデル事務所のマネージャーだけあって、押しが強く、あれよあれよという間にエリカの控室まで連れて行かれてしまった。
「エリカ~? 藤木さん見つけたよー!」
結城さんはそう言いながら扉を開けると、部屋の中からは芳しい香水の香りがしてきた。
「しっ……失礼します。東堂商事の藤木と申します」
私が部屋の中に入ろうとすると、結城さんは何故か手を振って去ろうとした。
「じゃ、またあとで」
「え? 結城さんは?」
「エリカが二人きりで話したいそうなんで。よろしくお願いします!」
結城さんは無情にも扉をパタンと閉めて消えてしまった。
背後に圧を感じ、振り返ると、背の高いエリカが壁のように立っていた。
こんなカーストのてっぺんに居そうな女性と、二人きりで何を話したらいいのだろう……。
「わああ!! あなたが瑞貴の最愛の人ね! 初めましてっ」
見た目とは裏腹に、とても親しみやすそうな女性だった。
「は……初めまして……」
「さ、入って入って。一緒にご飯食べながら話そうよ。あ、エリカって呼んでね!」
エリカに腕を引っ張られ、席に座らされると、彼女は私にお弁当やらお茶やらをそそくさと出してくれる。
そして、自身も私の対面に座ると、怒涛のマシンガントークが始まった。他愛もない話から、実は嵯峨が苦手だったという話、そんな話をされたあと、彼女が私としたかった本題であろう話に踏み込んで来た。
「私ね、瑞貴と幼稚園から高校まで一緒だったの。マブダチ!」
「え? あ? マブダチ……ですか」
「そうそう、それでね、瑞貴から今日あなたが来る事聞いて楽しみにしてたんだー」
「え? 瑞貴が???」
「私達ね、付き合ってたの」
彼女は何が言いたいのだろう。
「幼稚園の時っ!!」
「へ? 幼稚園?」
エリカはケラケラと笑い始める。もっとツンケンした女性だと思っていたが、底抜けに明るいお喋りのようだ。
「瑞貴は私の初恋なんだけど、園児の恋とか可愛いでしょ? 当時母親同士が私の気持ちに盛り上がって、恋人同士ね~とか言って囃し立てて、瑞貴は巻き込まれる形で私の彼氏って呼ばれるようになったの。そのままエスカレーターで小学校に上がったから、良くわからないまま、その名称をお互い使い続けてて、いつの間にか自然消滅してた。っていうか、始まってもいなかったかも。あははは」
私は箸からポロリとおかずを落としてしまった。
さっきまでケラケラ笑っていたエリカは、笑い終えたのか、急に大人びた優しい笑顔を見せ始め、どこか遠いところを見つめていた。
「でもね、瑞貴は優しいから、私の初恋の思い出を壊さないよう、彼氏なんかじゃないって言わないでくれてるの。だから、私もありがたく初カレって言ってしまってて、ごめんなさい」
「え? いえ、全然。そんな、昔の付き合いにどうこういう資格無いですし」
「でも、不安だったでしょ?」
「え……はあ……まあ」
「でも、瑞貴の初体験は綾ちゃんだから!」
「は!?」
私はエリカの発言を聞いて顔を真っ赤にしてしまった。
「それは……どどどどど、どういう話から、そんな話に???」
「え? 瑞貴からずっと恋の相談受けてたから。あ、一応伝えるけど、私も瑞貴もお互いを異性として意識した事は一度もないから。初恋ってのも幼稚園児の可愛い思い出話なだけで、別に本当に恋してたわけじゃないし」
「あー……ははは、なるほど。え? 瑞貴が相談?」
「そうよ。だぁかぁらぁ、私達、マブダチって言ったじゃない。元カノよりそっちが本当。瑞貴が綾ちゃんに恋した時からずっと相談を受けていたよ! そうねえ、初めの頃の相談は、年上の女性を喜ばせるにはどうしたらいいかって聞くから、テクニックを磨けって言って、男物のAVなんか参考にしちゃダメよって言ってあげて、おすすめのTL漫画や、女性用AVや、恋愛特集してる女性向け雑誌なんかを沢山渡しておいたの」
エリカはそう言って、てへぺろをしてみせた。
「てぃっ、TL漫画??? 女性用AV???」
「瑞貴ってめっちゃ頭いいし、クソ真面目でしょ? まるで学位でも取るのかなって位の意気込みで恋愛の勉強してたんだよ! 私、いかがわしい物をあんな真剣に見てノート取って研究してる人、初めて見た」
エリカはそう言うと笑いを堪えきれず、机を叩いて大笑いしている。
「しかもね、しかもね、不明点あればしょっちゅう詳細を聞いてくるの。角度は何度が適切だろうとか。あんたそれ私に対するセクハラだからって言ってやった! あー、思い出すだけで死ぬ」
エリカはひーひー言いながら泣き笑いしていた。まさか美女モデルエリカがこんな笑い方をする人だとは想像もつかなかった。
そして、エリカの言っている瑞貴を想像すると、私も思わず吹き出して笑ってしまった。
「あ、控室にお弁当が多めに置かれていたので、よければそれを召し上がってください」
さすがモデル事務所のマネージャーだけあって、押しが強く、あれよあれよという間にエリカの控室まで連れて行かれてしまった。
「エリカ~? 藤木さん見つけたよー!」
結城さんはそう言いながら扉を開けると、部屋の中からは芳しい香水の香りがしてきた。
「しっ……失礼します。東堂商事の藤木と申します」
私が部屋の中に入ろうとすると、結城さんは何故か手を振って去ろうとした。
「じゃ、またあとで」
「え? 結城さんは?」
「エリカが二人きりで話したいそうなんで。よろしくお願いします!」
結城さんは無情にも扉をパタンと閉めて消えてしまった。
背後に圧を感じ、振り返ると、背の高いエリカが壁のように立っていた。
こんなカーストのてっぺんに居そうな女性と、二人きりで何を話したらいいのだろう……。
「わああ!! あなたが瑞貴の最愛の人ね! 初めましてっ」
見た目とは裏腹に、とても親しみやすそうな女性だった。
「は……初めまして……」
「さ、入って入って。一緒にご飯食べながら話そうよ。あ、エリカって呼んでね!」
エリカに腕を引っ張られ、席に座らされると、彼女は私にお弁当やらお茶やらをそそくさと出してくれる。
そして、自身も私の対面に座ると、怒涛のマシンガントークが始まった。他愛もない話から、実は嵯峨が苦手だったという話、そんな話をされたあと、彼女が私としたかった本題であろう話に踏み込んで来た。
「私ね、瑞貴と幼稚園から高校まで一緒だったの。マブダチ!」
「え? あ? マブダチ……ですか」
「そうそう、それでね、瑞貴から今日あなたが来る事聞いて楽しみにしてたんだー」
「え? 瑞貴が???」
「私達ね、付き合ってたの」
彼女は何が言いたいのだろう。
「幼稚園の時っ!!」
「へ? 幼稚園?」
エリカはケラケラと笑い始める。もっとツンケンした女性だと思っていたが、底抜けに明るいお喋りのようだ。
「瑞貴は私の初恋なんだけど、園児の恋とか可愛いでしょ? 当時母親同士が私の気持ちに盛り上がって、恋人同士ね~とか言って囃し立てて、瑞貴は巻き込まれる形で私の彼氏って呼ばれるようになったの。そのままエスカレーターで小学校に上がったから、良くわからないまま、その名称をお互い使い続けてて、いつの間にか自然消滅してた。っていうか、始まってもいなかったかも。あははは」
私は箸からポロリとおかずを落としてしまった。
さっきまでケラケラ笑っていたエリカは、笑い終えたのか、急に大人びた優しい笑顔を見せ始め、どこか遠いところを見つめていた。
「でもね、瑞貴は優しいから、私の初恋の思い出を壊さないよう、彼氏なんかじゃないって言わないでくれてるの。だから、私もありがたく初カレって言ってしまってて、ごめんなさい」
「え? いえ、全然。そんな、昔の付き合いにどうこういう資格無いですし」
「でも、不安だったでしょ?」
「え……はあ……まあ」
「でも、瑞貴の初体験は綾ちゃんだから!」
「は!?」
私はエリカの発言を聞いて顔を真っ赤にしてしまった。
「それは……どどどどど、どういう話から、そんな話に???」
「え? 瑞貴からずっと恋の相談受けてたから。あ、一応伝えるけど、私も瑞貴もお互いを異性として意識した事は一度もないから。初恋ってのも幼稚園児の可愛い思い出話なだけで、別に本当に恋してたわけじゃないし」
「あー……ははは、なるほど。え? 瑞貴が相談?」
「そうよ。だぁかぁらぁ、私達、マブダチって言ったじゃない。元カノよりそっちが本当。瑞貴が綾ちゃんに恋した時からずっと相談を受けていたよ! そうねえ、初めの頃の相談は、年上の女性を喜ばせるにはどうしたらいいかって聞くから、テクニックを磨けって言って、男物のAVなんか参考にしちゃダメよって言ってあげて、おすすめのTL漫画や、女性用AVや、恋愛特集してる女性向け雑誌なんかを沢山渡しておいたの」
エリカはそう言って、てへぺろをしてみせた。
「てぃっ、TL漫画??? 女性用AV???」
「瑞貴ってめっちゃ頭いいし、クソ真面目でしょ? まるで学位でも取るのかなって位の意気込みで恋愛の勉強してたんだよ! 私、いかがわしい物をあんな真剣に見てノート取って研究してる人、初めて見た」
エリカはそう言うと笑いを堪えきれず、机を叩いて大笑いしている。
「しかもね、しかもね、不明点あればしょっちゅう詳細を聞いてくるの。角度は何度が適切だろうとか。あんたそれ私に対するセクハラだからって言ってやった! あー、思い出すだけで死ぬ」
エリカはひーひー言いながら泣き笑いしていた。まさか美女モデルエリカがこんな笑い方をする人だとは想像もつかなかった。
そして、エリカの言っている瑞貴を想像すると、私も思わず吹き出して笑ってしまった。
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