24 / 30
あなたは王子様
しおりを挟む
瞼の奥に光が差し込み、まどろみながら目を開ければ、視界に瑞貴の綺麗な顔が飛び込んで来た。朝日を浴びた瑞貴の顔はキラキラと輝いていて、おとぎ話に出てくる王子様そのものだった。
私は瑞貴の目元に掛かった前髪をそっと指でよけた。
「こんなに綺麗な姿だったのに……どんな魔法でカエルにされていたの?」
私の声に反応するように瑞貴の瞼がゆっくりと開き、宝石のような瞳が私の目を真っ直ぐに捉えた。
「……綾ちゃん、魔法、解いて」
「え?」
瑞貴は起きたてのふにゃふにゃした笑顔を見せながら、「ここだよ」と自分の唇を指差していた。
私は白けたフリをして答えてみる。
「もう魔法は解かれてます」
「ケロ」
カエルの王子様は腕を伸ばして私の身体を抱き寄せ、結局自分からキスをしてきた。
「綾ちゃん、大好き」
ベッドの中で裸の瑞貴に抱きしめられながら、自分が男性経験が少ないからそう思うのかもしれないが、やはり瑞貴はかつてはかなりのプレイボーイだったのではないかと思うほど、いまだに愛し合った日の翌朝は嬉しさ半分、モヤモヤも半分してしまう。
瑞貴の過去を想像し、その妄想に勝手に嫉妬し、くだらない質問をしてしまいそうになった時、ちょうど目覚まし時計が鳴った。
「さあ、起きて準備しないと」
瑞貴はそう言って下着を履き、ベッドから降りると棚の上のスマホを持ってリビングに出て行った。
そしてすぐにリビングの方から話し声が聞こえ始める。
「お父さん、間宮さんの件で、広報課の嵯峨さんが共犯の可能性が出て来たんだ。詳しくは探偵から渡された報告書を見せながら話したいんだけど、今日話せる時間ある?」
私は着替え終えてから部屋を出ると、瑞貴も丁度電話を切った。
「朝一で社長室で話す事になった。その後、人事課長と広報課長も呼んで、彼らの処遇を決めることになりそう。警察へ証拠としてこの報告書提出はそれからになるけど、大丈夫?」
「それは大丈夫だけど……ちなみに瑞貴は二人をどうしたい?」
「もちろん、彼らが刑事処分され次第、二人は懲戒解雇と言いたいけど、本人達がやったことを頑なに認めなかったり、法的に悪質性が低いと判断されれば出来ないんだ」
「……あのね、阿川さんから渡されたものがあるの」
私はそういって玄関に置いていたカバンを取りに行き、中からメモを取り出して瑞貴に渡した。
「嵯峨の盾でもあるけど、弱点でもあるって。それと、これは阿川さんから渡されたって言うようにとも。問題にならないよう、阿川さんが先手を打ってくれてる」
瑞貴はそのメモを眺めながら考え込んでいた。
「嵯峨の盾で弱点……確かに」
「阿川さんから聞いたんだけど、嵯峨に執着された子は泣き寝入りで行方をくらませるしか出来なかったんだって。だから、私、この弱点をどう使うか阿川さんと考えたんだけど——」
私は昨晩の阿川さんから聞いた話と、作戦会議の内容を瑞貴に伝えた。
「でも、綾ちゃんはそれでいいの?」
「一番の希望は、嵯峨のストーカー行為をやめさせることだから」
瑞貴より先に出勤し、秘書課のあるフロアへ足を運べば、昨日よりも針の筵となっていた。
「おはようございます」と、声を掛けるも、誰からも返事はなく、こちらを見ようともしない……。
なのに、私が横を通り過ぎれば、今度は冷たい視線を背中越しに感じ、ひそひそと不穏な声も聴こえてくる。
席に着けば、咲良ちゃんが書類を持ってやって来た。
「社長に確認をお願いします」
手に持っていた書類をバサッと机に落とし、足早に去ろうとする咲良ちゃんに声を掛ける。
「あ、ねえ、咲良ちゃん、さっき駅で美味しそうなチョコが新発売されてて買ってきたの。業務の合間に良かったらどうぞ」
「いらないです」
瞬殺で断られた。
これは……結構しんどいな。
肩を落としてパソコンを開くと、阿川さんが出勤してきて、肩を軽く叩いて声を掛けてくれた。
「おはようっ」
たった一言だが、彼女の言葉は世界が鮮やかに色付くほど嬉しかった。
その後瑞貴も出社してきて、私の隣に座る。
「おはようございます。綾子さん」
私には味方がいる。何も悪い事なんてしていないんだし、堂々としていよう。
私は瑞貴の目元に掛かった前髪をそっと指でよけた。
「こんなに綺麗な姿だったのに……どんな魔法でカエルにされていたの?」
私の声に反応するように瑞貴の瞼がゆっくりと開き、宝石のような瞳が私の目を真っ直ぐに捉えた。
「……綾ちゃん、魔法、解いて」
「え?」
瑞貴は起きたてのふにゃふにゃした笑顔を見せながら、「ここだよ」と自分の唇を指差していた。
私は白けたフリをして答えてみる。
「もう魔法は解かれてます」
「ケロ」
カエルの王子様は腕を伸ばして私の身体を抱き寄せ、結局自分からキスをしてきた。
「綾ちゃん、大好き」
ベッドの中で裸の瑞貴に抱きしめられながら、自分が男性経験が少ないからそう思うのかもしれないが、やはり瑞貴はかつてはかなりのプレイボーイだったのではないかと思うほど、いまだに愛し合った日の翌朝は嬉しさ半分、モヤモヤも半分してしまう。
瑞貴の過去を想像し、その妄想に勝手に嫉妬し、くだらない質問をしてしまいそうになった時、ちょうど目覚まし時計が鳴った。
「さあ、起きて準備しないと」
瑞貴はそう言って下着を履き、ベッドから降りると棚の上のスマホを持ってリビングに出て行った。
そしてすぐにリビングの方から話し声が聞こえ始める。
「お父さん、間宮さんの件で、広報課の嵯峨さんが共犯の可能性が出て来たんだ。詳しくは探偵から渡された報告書を見せながら話したいんだけど、今日話せる時間ある?」
私は着替え終えてから部屋を出ると、瑞貴も丁度電話を切った。
「朝一で社長室で話す事になった。その後、人事課長と広報課長も呼んで、彼らの処遇を決めることになりそう。警察へ証拠としてこの報告書提出はそれからになるけど、大丈夫?」
「それは大丈夫だけど……ちなみに瑞貴は二人をどうしたい?」
「もちろん、彼らが刑事処分され次第、二人は懲戒解雇と言いたいけど、本人達がやったことを頑なに認めなかったり、法的に悪質性が低いと判断されれば出来ないんだ」
「……あのね、阿川さんから渡されたものがあるの」
私はそういって玄関に置いていたカバンを取りに行き、中からメモを取り出して瑞貴に渡した。
「嵯峨の盾でもあるけど、弱点でもあるって。それと、これは阿川さんから渡されたって言うようにとも。問題にならないよう、阿川さんが先手を打ってくれてる」
瑞貴はそのメモを眺めながら考え込んでいた。
「嵯峨の盾で弱点……確かに」
「阿川さんから聞いたんだけど、嵯峨に執着された子は泣き寝入りで行方をくらませるしか出来なかったんだって。だから、私、この弱点をどう使うか阿川さんと考えたんだけど——」
私は昨晩の阿川さんから聞いた話と、作戦会議の内容を瑞貴に伝えた。
「でも、綾ちゃんはそれでいいの?」
「一番の希望は、嵯峨のストーカー行為をやめさせることだから」
瑞貴より先に出勤し、秘書課のあるフロアへ足を運べば、昨日よりも針の筵となっていた。
「おはようございます」と、声を掛けるも、誰からも返事はなく、こちらを見ようともしない……。
なのに、私が横を通り過ぎれば、今度は冷たい視線を背中越しに感じ、ひそひそと不穏な声も聴こえてくる。
席に着けば、咲良ちゃんが書類を持ってやって来た。
「社長に確認をお願いします」
手に持っていた書類をバサッと机に落とし、足早に去ろうとする咲良ちゃんに声を掛ける。
「あ、ねえ、咲良ちゃん、さっき駅で美味しそうなチョコが新発売されてて買ってきたの。業務の合間に良かったらどうぞ」
「いらないです」
瞬殺で断られた。
これは……結構しんどいな。
肩を落としてパソコンを開くと、阿川さんが出勤してきて、肩を軽く叩いて声を掛けてくれた。
「おはようっ」
たった一言だが、彼女の言葉は世界が鮮やかに色付くほど嬉しかった。
その後瑞貴も出社してきて、私の隣に座る。
「おはようございます。綾子さん」
私には味方がいる。何も悪い事なんてしていないんだし、堂々としていよう。
5
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
二人の恋愛ストラテジー
香夜みなと
恋愛
ライバルで仲間で戦友――。
IT企業アルカトラズに同日入社した今野亜美と宮川滉。
二人は仕事で言い合いをしながらも同期として良い関係を築いていた。
30歳を目前にして周りは結婚ラッシュになり、亜美も焦り始める。
それを聞いた滉から「それなら試してみる?」と誘われて……。
*イベントで発行した本の再録となります
*全9話になります(*がついてる話数は性描写含みます)
*毎日18時更新となります
*ムーンライトノベルズにも投稿しております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる