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あなたは王子様

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 瞼の奥に光が差し込み、まどろみながら目を開ければ、視界に瑞貴の綺麗な顔が飛び込んで来た。朝日を浴びた瑞貴の顔はキラキラと輝いていて、おとぎ話に出てくる王子様そのものだった。
 私は瑞貴の目元に掛かった前髪をそっと指でよけた。

「こんなに綺麗な姿だったのに……どんな魔法でカエルにされていたの?」

 私の声に反応するように瑞貴の瞼がゆっくりと開き、宝石のような瞳が私の目を真っ直ぐに捉えた。

「……綾ちゃん、魔法、解いて」
「え?」

 瑞貴は起きたてのふにゃふにゃした笑顔を見せながら、「ここだよ」と自分の唇を指差していた。
 私は白けたフリをして答えてみる。

「もう魔法は解かれてます」
「ケロ」

 カエルの王子様は腕を伸ばして私の身体を抱き寄せ、結局自分からキスをしてきた。

「綾ちゃん、大好き」

 ベッドの中で裸の瑞貴に抱きしめられながら、自分が男性経験が少ないからそう思うのかもしれないが、やはり瑞貴はかつてはかなりのプレイボーイだったのではないかと思うほど、いまだに愛し合った日の翌朝は嬉しさ半分、モヤモヤも半分してしまう。

 瑞貴の過去を想像し、その妄想に勝手に嫉妬し、くだらない質問をしてしまいそうになった時、ちょうど目覚まし時計が鳴った。

「さあ、起きて準備しないと」

 瑞貴はそう言って下着を履き、ベッドから降りると棚の上のスマホを持ってリビングに出て行った。
 そしてすぐにリビングの方から話し声が聞こえ始める。

「お父さん、間宮さんの件で、広報課の嵯峨さんが共犯の可能性が出て来たんだ。詳しくは探偵から渡された報告書を見せながら話したいんだけど、今日話せる時間ある?」
 
 私は着替え終えてから部屋を出ると、瑞貴も丁度電話を切った。

「朝一で社長室で話す事になった。その後、人事課長と広報課長も呼んで、彼らの処遇を決めることになりそう。警察へ証拠としてこの報告書提出はそれからになるけど、大丈夫?」
「それは大丈夫だけど……ちなみに瑞貴は二人をどうしたい?」
「もちろん、彼らが刑事処分され次第、二人は懲戒解雇と言いたいけど、本人達がやったことを頑なに認めなかったり、法的に悪質性が低いと判断されれば出来ないんだ」
「……あのね、阿川さんから渡されたものがあるの」

 私はそういって玄関に置いていたカバンを取りに行き、中からメモを取り出して瑞貴に渡した。

「嵯峨の盾でもあるけど、弱点でもあるって。それと、これは阿川さんから渡されたって言うようにとも。問題にならないよう、阿川さんが先手を打ってくれてる」

 瑞貴はそのメモを眺めながら考え込んでいた。

「嵯峨の盾で弱点……確かに」
「阿川さんから聞いたんだけど、嵯峨に執着された子は泣き寝入りで行方をくらませるしか出来なかったんだって。だから、私、この弱点をどう使うか阿川さんと考えたんだけど——」

 私は昨晩の阿川さんから聞いた話と、作戦会議の内容を瑞貴に伝えた。
 
「でも、綾ちゃんはそれでいいの?」
「一番の希望は、嵯峨のストーカー行為をやめさせることだから」

 瑞貴より先に出勤し、秘書課のあるフロアへ足を運べば、昨日よりも針の筵となっていた。

「おはようございます」と、声を掛けるも、誰からも返事はなく、こちらを見ようともしない……。
 なのに、私が横を通り過ぎれば、今度は冷たい視線を背中越しに感じ、ひそひそと不穏な声も聴こえてくる。

 席に着けば、咲良ちゃんが書類を持ってやって来た。

「社長に確認をお願いします」

 手に持っていた書類をバサッと机に落とし、足早に去ろうとする咲良ちゃんに声を掛ける。
 
「あ、ねえ、咲良ちゃん、さっき駅で美味しそうなチョコが新発売されてて買ってきたの。業務の合間に良かったらどうぞ」
「いらないです」

 瞬殺で断られた。

 これは……結構しんどいな。

 肩を落としてパソコンを開くと、阿川さんが出勤してきて、肩を軽く叩いて声を掛けてくれた。

「おはようっ」

 たった一言だが、彼女の言葉は世界が鮮やかに色付くほど嬉しかった。

 その後瑞貴も出社してきて、私の隣に座る。

「おはようございます。綾子さん」

 私には味方がいる。何も悪い事なんてしていないんだし、堂々としていよう。
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