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カメラの捉えたもの
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あの日から早二週間。アパートは解約せず、そして部屋には文人おすすめの小型隠しカメラをいくつか設置した。
映像の確認にはアパートに行かないといけない。退勤後や、休みの日にアパートにカメラを回収しに行った場合、犯人——予想は同じ会社の嵯峨——と鉢合わせや、こちらの動きをどこかで見られて逃げられる可能性もある。
なので、平日休みの弟に頼んでカメラを取りに行ってもらった。
『回収できたから、今夜お義兄さんちに持って行くね』
そして、夜、瑞貴のパソコンに取り込んだカメラ映像を確認した。
玄関アングルのカメラに映る玄関扉のノブが回り出し、扉が少しだけ開いて誰かが中を確認している。
「犯人は……うちの合鍵を持ってるの?」
私は心の声が思わず出てしまった。誰にも渡した事のない、むしろ作った事のない合鍵が存在することに恐怖を感じていれば、予想外の人物が画面にはっきりと映し出され、絶句した。
「ねえちゃん、知り合い?」
「ええ、今年の春まで秘書課にいた子。瑞貴と入れ替わりで人事課に異動した」
「人事課なら、綾ちゃんの家の住所は調べようと思えば調べられるね。明日この子のパソコンからアクセスがあったか、父に頼んでシステム課に確認させる。この子の名前は?」
「間宮……萌ちゃん。でも、なんで……」
カメラに映る萌ちゃんは、カラーボックスの上にあえて置いた盗聴器のコンセントタップを見つけると、軽く回して確認し、そして、それを元の位置に戻すと、カバンから新たなコンセントタップを取り出し、別のコンセントに差して、帰って行った。
「綾ちゃん、この子と仲悪かったの? 鍵を取られるような経験はあった?」
「萌ちゃんとは、良い先輩後輩だったと私は思ってたし、鍵は常にカバンに入れてて、萌ちゃんと会社の外で会う事もなかったから心当たりが……」
だが、私は急にある事を思い出し、動きを止めた。
異動の日、萌ちゃんは朝早くから秘書課に来ていて一人だった。私は萌ちゃんから嵯峨の伝言を聞き、新聞を社長の出勤に間に合わせなくてはならず、急ぐあまりに鞄を机に置いて総務部に一瞬消えた事があった。
その日の午後、入社した瑞貴の提出書類の件で人事課に呼ばれて瑞貴と二人で席を外し、戻った時に何故か家の鍵が私の椅子の上にあって、あの時は自分で落としたのだと思っていたが、おそらくあの朝鍵を取られ、昼休憩などに合鍵を作りに行かれ、椅子の上に戻されていたのかもしれない。
「でも何で間宮萌さんが綾ちゃんの家に侵入して盗聴をするんだろう……。窓ガラスもこの子なのかな? 結構大きな石だったけど、こんな華奢な女性が二階の窓まで投げられるとは思えないけど……」
「瑞貴……窓ガラスは私もまだ疑問だけど、萌ちゃんに合鍵を作られた可能性のある日に心当たりがあった。それとね、萌ちゃんって嵯峨のセフレなのよ」
瑞貴は目を丸めて驚いていた。
「それは……点と点が繋がる気配が出て来たね……」
私は瑞貴と文人に異動の日の話をした。
「その嵯峨って人に頼まれたとかかな……?」
文人は私達も考えていた事を口にした。瑞貴は思考を巡らせながら、唸っている。
「うーん……とにかく、嵯峨に関しては何の証拠もないから、今は間宮さんに絞って、明日システム課に間宮さんのパソコンのアクセスを確認してもらって、黒だったらこの映像と共に間宮さん本人に確認しよう。どっちみち、警察案件にはなる」
♢
映像確認から数日後、社長、人事課長、瑞貴、私が座って待つ会議室に、間宮萌が現れた。
萌ちゃんは会議室にいるメンバーを見て驚いていた。
「え? こんなに沢山? 課長と一対一のお話だとてっきり思っていました……」
「間宮君、そこに座りなさい」
課長の指示で、萌ちゃんは私達と対面に座らされた。
「間宮君、君のパソコンから不必要に秘書課の藤木綾子さんの個人情報に何度もアクセスされていた。理由を聞けるかな?」
萌ちゃんは困り顔で、人差し指を尖らせた口元にあて、首を傾げる。
「そういわれましてもぉー……一日に大量の人事案件を処理するので、誰の情報をいつ何のために開いたかなんていちいち覚えていません。業務に必要だったからだと思います」
「君が異動してきてから頼んだ案件に、社員の個人情報にアクセスするようなものはなかったはずだが」
「課の皆さんのお手伝いもしたりするんで、その時じゃないですか? あとは、誰かが私のパソコン使ったとか。アクセスは私のパソコンからであって、私がアクセスしたかは証拠はないですよね?」
萌ちゃんは、私の知っている萌ちゃんではなかった。私が彼女の本性を知ることも無いような、浅い付き合いだったからだろう。
瑞貴がパソコンで映像を再生して見せる。
「間宮さん、これはあなたですよね?」
それは、私の家に侵入している映像だ。もう逃げられない。
「違います」
まさかの否定に全員が唖然とした。
「こんなボロアパートに私がいるわけないじゃないですか」
「萌ちゃん、それは往生際が悪いんじゃない?」
「もしかして、先輩の差し金? そうやって人を陥れて楽しいんですか?」
萌ちゃんはこれまで一度も見せた事のなかった、人を見下すような邪悪な顔を見せた。
「最っ低ですね」
映像の確認にはアパートに行かないといけない。退勤後や、休みの日にアパートにカメラを回収しに行った場合、犯人——予想は同じ会社の嵯峨——と鉢合わせや、こちらの動きをどこかで見られて逃げられる可能性もある。
なので、平日休みの弟に頼んでカメラを取りに行ってもらった。
『回収できたから、今夜お義兄さんちに持って行くね』
そして、夜、瑞貴のパソコンに取り込んだカメラ映像を確認した。
玄関アングルのカメラに映る玄関扉のノブが回り出し、扉が少しだけ開いて誰かが中を確認している。
「犯人は……うちの合鍵を持ってるの?」
私は心の声が思わず出てしまった。誰にも渡した事のない、むしろ作った事のない合鍵が存在することに恐怖を感じていれば、予想外の人物が画面にはっきりと映し出され、絶句した。
「ねえちゃん、知り合い?」
「ええ、今年の春まで秘書課にいた子。瑞貴と入れ替わりで人事課に異動した」
「人事課なら、綾ちゃんの家の住所は調べようと思えば調べられるね。明日この子のパソコンからアクセスがあったか、父に頼んでシステム課に確認させる。この子の名前は?」
「間宮……萌ちゃん。でも、なんで……」
カメラに映る萌ちゃんは、カラーボックスの上にあえて置いた盗聴器のコンセントタップを見つけると、軽く回して確認し、そして、それを元の位置に戻すと、カバンから新たなコンセントタップを取り出し、別のコンセントに差して、帰って行った。
「綾ちゃん、この子と仲悪かったの? 鍵を取られるような経験はあった?」
「萌ちゃんとは、良い先輩後輩だったと私は思ってたし、鍵は常にカバンに入れてて、萌ちゃんと会社の外で会う事もなかったから心当たりが……」
だが、私は急にある事を思い出し、動きを止めた。
異動の日、萌ちゃんは朝早くから秘書課に来ていて一人だった。私は萌ちゃんから嵯峨の伝言を聞き、新聞を社長の出勤に間に合わせなくてはならず、急ぐあまりに鞄を机に置いて総務部に一瞬消えた事があった。
その日の午後、入社した瑞貴の提出書類の件で人事課に呼ばれて瑞貴と二人で席を外し、戻った時に何故か家の鍵が私の椅子の上にあって、あの時は自分で落としたのだと思っていたが、おそらくあの朝鍵を取られ、昼休憩などに合鍵を作りに行かれ、椅子の上に戻されていたのかもしれない。
「でも何で間宮萌さんが綾ちゃんの家に侵入して盗聴をするんだろう……。窓ガラスもこの子なのかな? 結構大きな石だったけど、こんな華奢な女性が二階の窓まで投げられるとは思えないけど……」
「瑞貴……窓ガラスは私もまだ疑問だけど、萌ちゃんに合鍵を作られた可能性のある日に心当たりがあった。それとね、萌ちゃんって嵯峨のセフレなのよ」
瑞貴は目を丸めて驚いていた。
「それは……点と点が繋がる気配が出て来たね……」
私は瑞貴と文人に異動の日の話をした。
「その嵯峨って人に頼まれたとかかな……?」
文人は私達も考えていた事を口にした。瑞貴は思考を巡らせながら、唸っている。
「うーん……とにかく、嵯峨に関しては何の証拠もないから、今は間宮さんに絞って、明日システム課に間宮さんのパソコンのアクセスを確認してもらって、黒だったらこの映像と共に間宮さん本人に確認しよう。どっちみち、警察案件にはなる」
♢
映像確認から数日後、社長、人事課長、瑞貴、私が座って待つ会議室に、間宮萌が現れた。
萌ちゃんは会議室にいるメンバーを見て驚いていた。
「え? こんなに沢山? 課長と一対一のお話だとてっきり思っていました……」
「間宮君、そこに座りなさい」
課長の指示で、萌ちゃんは私達と対面に座らされた。
「間宮君、君のパソコンから不必要に秘書課の藤木綾子さんの個人情報に何度もアクセスされていた。理由を聞けるかな?」
萌ちゃんは困り顔で、人差し指を尖らせた口元にあて、首を傾げる。
「そういわれましてもぉー……一日に大量の人事案件を処理するので、誰の情報をいつ何のために開いたかなんていちいち覚えていません。業務に必要だったからだと思います」
「君が異動してきてから頼んだ案件に、社員の個人情報にアクセスするようなものはなかったはずだが」
「課の皆さんのお手伝いもしたりするんで、その時じゃないですか? あとは、誰かが私のパソコン使ったとか。アクセスは私のパソコンからであって、私がアクセスしたかは証拠はないですよね?」
萌ちゃんは、私の知っている萌ちゃんではなかった。私が彼女の本性を知ることも無いような、浅い付き合いだったからだろう。
瑞貴がパソコンで映像を再生して見せる。
「間宮さん、これはあなたですよね?」
それは、私の家に侵入している映像だ。もう逃げられない。
「違います」
まさかの否定に全員が唖然とした。
「こんなボロアパートに私がいるわけないじゃないですか」
「萌ちゃん、それは往生際が悪いんじゃない?」
「もしかして、先輩の差し金? そうやって人を陥れて楽しいんですか?」
萌ちゃんはこれまで一度も見せた事のなかった、人を見下すような邪悪な顔を見せた。
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