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「見応えあったなぁ、すごい映画だなぁ」
上映が終わり、シアター内の電気が点灯し一息ついた東堂さんは、退出の用意をしながらそう言った。
途中、気まずいシーンはあったとはいえ確かに面白かったし、結末が明らかとなっている歴史を追うこの映画は、登場人物の『今』を丁寧に描いていて、たいへん興味深かった。
「おもしろかったです。テンポも良くて」
「そうだなぁ。でも、途中の信長と蘭丸のシーンは凄かったね」
周りにいた女が聞き耳を立てる音がした。
「ビックリです、あそこまで描写されると思わなかったので」
「ははっ、確かに。でも、そういうシーンも必要なのかね。蘭丸の最期と光秀の裏切りを印象的にするためにさ」
「……嫌じゃなかったですか? なんか、そういうシーン観るの」
立ち上がって通路に出た東堂さんにそう声をかけると、東堂さんは階段の途中で横入りを許すべく立ち止まった時、こちらを振り返って答えた。
「1人だったら観なかったかもなぁ」
「すみません、付き合わせちゃって……」
「違う違う。楽しかったよ、ありがとね」
そう笑って、東堂さんは入場時にまとめて受け取っていた入場者特典をオレに1枚渡してきた。入場者特典は時代背景の解説書。オレはそれを両手で受け取り、静かに笑い返した。
映画館から出て、昼ごはんを食べるにちょうどいい時間になっていたので、オレらはとりあえずフードコートに向かった。混雑を見越して先に席をとり、まずはオレからご飯を買いに席を立つ。
オレはお気に入りのラーメン屋に行って、醤油ラーメンを注文。出来上がったらお呼びしますと言われて渡されたベルを片手に、東堂さんがいるテーブルに帰っていく。少し離れた位置に姿を捉えた東堂さんは、入場者特典の冊子を読んでいた。が、次の瞬間東堂さんは座ったまま正面斜め上を見上げた。なんだろうと疑問に思い、東堂さんの視線の先を辿ると、2人の女の人が東堂さんに声をかけたらしい。口角を上げて髪をいじり、くねくねしながら女が話している。
一方、東堂さんは読んでいた冊子をテーブルの上に置き、腕を組みながら対応に困ったように女の人達を見上げていた。時々東堂さんが口を動かすと、女の人達はより勢いづいたように身を乗り出す。
オレはまっすぐ東堂さんに向かって歩いた。2人の女の片割れがオレに気付いて、「お友達?」と東堂さんに聞いた。東堂さんがこちらを向いたタイミングで、オレはテーブルにたどり着く。そして、女たちが声を掛けてくるのを全て無視して、東堂さんの腕を引っ張りあげて無理やり立ち上がらせた。
「向こうの方が空いてました。席、移動しましょう」
女たちにオレができる最大の睨みを効かせる。絶対に着いてくんなよ、と圧をかけるように。
「ごめんな、気ィ使わせて」
東堂さんがそう声をかけてきたので、オレは掴んでいた東堂さんの腕を離して、たまたま空いていた近くの席に座った。
「……いえ。本当に、こっちの席の方が良かったんで」
「ありがとね。んじゃ、俺も買ってくるよ」
去り際、東堂さんはオレの頭にポンと手を置いた。
東堂さんは自分の世界を大切にしていて言動に芯があるけれど、その分、グイグイ来る相手には弱いらしい。前に東堂さん自身が話していた気がする。「お互いの生活を侵食しない距離感が好き」って。
「あ、あの」
その時、さっき声をかけてきた女2人がオレの近くに立った。手には東堂さんが読んでいた入場者特典の冊子。
「これ、お忘れでした……」
そう言って冊子をテーブルに置くなり、2人は逃げるようにフードコートを去っていった。感謝の言葉ぐらい返したかったのだけれど、仕方がない。
上映が終わり、シアター内の電気が点灯し一息ついた東堂さんは、退出の用意をしながらそう言った。
途中、気まずいシーンはあったとはいえ確かに面白かったし、結末が明らかとなっている歴史を追うこの映画は、登場人物の『今』を丁寧に描いていて、たいへん興味深かった。
「おもしろかったです。テンポも良くて」
「そうだなぁ。でも、途中の信長と蘭丸のシーンは凄かったね」
周りにいた女が聞き耳を立てる音がした。
「ビックリです、あそこまで描写されると思わなかったので」
「ははっ、確かに。でも、そういうシーンも必要なのかね。蘭丸の最期と光秀の裏切りを印象的にするためにさ」
「……嫌じゃなかったですか? なんか、そういうシーン観るの」
立ち上がって通路に出た東堂さんにそう声をかけると、東堂さんは階段の途中で横入りを許すべく立ち止まった時、こちらを振り返って答えた。
「1人だったら観なかったかもなぁ」
「すみません、付き合わせちゃって……」
「違う違う。楽しかったよ、ありがとね」
そう笑って、東堂さんは入場時にまとめて受け取っていた入場者特典をオレに1枚渡してきた。入場者特典は時代背景の解説書。オレはそれを両手で受け取り、静かに笑い返した。
映画館から出て、昼ごはんを食べるにちょうどいい時間になっていたので、オレらはとりあえずフードコートに向かった。混雑を見越して先に席をとり、まずはオレからご飯を買いに席を立つ。
オレはお気に入りのラーメン屋に行って、醤油ラーメンを注文。出来上がったらお呼びしますと言われて渡されたベルを片手に、東堂さんがいるテーブルに帰っていく。少し離れた位置に姿を捉えた東堂さんは、入場者特典の冊子を読んでいた。が、次の瞬間東堂さんは座ったまま正面斜め上を見上げた。なんだろうと疑問に思い、東堂さんの視線の先を辿ると、2人の女の人が東堂さんに声をかけたらしい。口角を上げて髪をいじり、くねくねしながら女が話している。
一方、東堂さんは読んでいた冊子をテーブルの上に置き、腕を組みながら対応に困ったように女の人達を見上げていた。時々東堂さんが口を動かすと、女の人達はより勢いづいたように身を乗り出す。
オレはまっすぐ東堂さんに向かって歩いた。2人の女の片割れがオレに気付いて、「お友達?」と東堂さんに聞いた。東堂さんがこちらを向いたタイミングで、オレはテーブルにたどり着く。そして、女たちが声を掛けてくるのを全て無視して、東堂さんの腕を引っ張りあげて無理やり立ち上がらせた。
「向こうの方が空いてました。席、移動しましょう」
女たちにオレができる最大の睨みを効かせる。絶対に着いてくんなよ、と圧をかけるように。
「ごめんな、気ィ使わせて」
東堂さんがそう声をかけてきたので、オレは掴んでいた東堂さんの腕を離して、たまたま空いていた近くの席に座った。
「……いえ。本当に、こっちの席の方が良かったんで」
「ありがとね。んじゃ、俺も買ってくるよ」
去り際、東堂さんはオレの頭にポンと手を置いた。
東堂さんは自分の世界を大切にしていて言動に芯があるけれど、その分、グイグイ来る相手には弱いらしい。前に東堂さん自身が話していた気がする。「お互いの生活を侵食しない距離感が好き」って。
「あ、あの」
その時、さっき声をかけてきた女2人がオレの近くに立った。手には東堂さんが読んでいた入場者特典の冊子。
「これ、お忘れでした……」
そう言って冊子をテーブルに置くなり、2人は逃げるようにフードコートを去っていった。感謝の言葉ぐらい返したかったのだけれど、仕方がない。
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