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1)幽霊屋敷の団らん
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☆
「それはまた、大変だったねぇ」
雪弥にことの顛末を聞いた肇が、眉を下げて労った。
あの後、虎太郎は地区会の大人の人に報告しに行くからとあの場で別れ、雪弥と遥斗はまだ心ココに在らずといった広樹を夕暮れ地区にある自宅まで送っていった。
その後雪弥は、今日も母が夜勤のため、天崎家へとお泊まりに来た次第である。
「月夜地区のオトナの人が、中に入れないように今度色々してくれるってさ」
「そっか、それなら安心だね」
天崎家で夕飯を食べてお風呂に入っている間に、虎太郎からスマートフォンに報告のメッセージが来ていた。半ベソをかいたままの虎太郎が、そのまま報告に行くと言っていたので、地区会の大人もきっと彼の様子にただならぬものを感じたことだろう。
「……アイツ、あそこで何してたんだろう」
昼休みに話を聞いた時、一度行っただけだ、と言った広樹は嘘をついているようには見えなかった。けれど、廃屋でのあの様子は、普段からよく出入りしているとしか思えない。
肇に髪を乾かしてもらい、ベッドに横たわっていると、不意に雪弥のスマートフォンが振動する。
なんだろうと見てみると、虎太郎からのメッセージだった。
《まずい! ヒロキがアサハラさんの家に向かってるかもしれない!》
「はぁ!?」
普段から虎太郎とよくメッセージのやりとりをしているという子が、塾からの帰り道で一人ふらふらと月夜地区のほうへ向かう広樹を見たらしい。
顔見知りなので話しかけてみたが、上の空で変だったので、虎太郎に教えてくれたのだそうだ。
時計を見れば、小学生が一人で出歩いていい時間ではない。
「肇兄、一緒にきて!」
「え~~~~!」
「……肇兄はオレが補導されてもいーのかよ」
「それはダメェェェ!」
肇は雪弥に半ば脅されるかたちで、しぶしぶ一緒に月夜地区へと向かった。
☆
夜の廃屋は、この周辺だけ街灯がついておらず、放課後に見た時よりもいっそう暗くて雰囲気があった。
外から見る限り、人の気配はない。
しかし、一人でふらふらと呼びかけにも応じず歩いていたというなら、放課後の様子も考えるに、広樹はここにいる可能性が高い。
「よし、いこう」
懐中電灯をもった小さな雪弥に、大きな肇がへっぴり腰で後ろにくっつき、朽ち果てた玄関の中へと入っていった。
辺りを強い光で照らし、朽ち果てた床の穴に気を付けながら、奥へと進む。
放課後、広樹が寛いでいた居間らしき場所を最初に見てみたが、誰もいなかった。居間のさらに奥のほうを懐中電灯で照らすと、そこは台所になっているようで、曇り切ったステンレスの流し台が、柔らかく光をはね返してくるだけである。
雪弥と肇は顔を見合わせてから、口に手を添えて声を上げた。
「おーい、広樹ぃ」
「ひ、広樹くーん」
呼びかけても、暗い屋内に声が響くだけで、特に反応はない。
二人は何度か呼びかけながら、居間の奥の台所、寝室、風呂場など、一階部分を隈なく見て回る。しかし、広樹は見つからなかった。
広樹が向かった場所は、ここではないのだろうか?
夜も深い時間になり始めている。
「ゆゆゆ、雪弥くーん。広樹くんもいないみたいだし、帰ろうよう」
相変わらず雪弥の後ろにくっついて離れない肇が、ついに情けない声を上げた。
「うっさいなぁ、どこかに隠れてるかもしれないだろ! 肇兄も探してよ!」
「ででで、でもぉ」
人の死んだ場所に、こんな時間にいるという恐怖が、肇にはそろそろ限界らしい。
その時だった。
不意に奥のほうで、ガターンと何かの倒れる音。
「ヒィ……!」
「ほら、行くぞ!」
怯える肇を引っ張りながら、音のした方へと急ぐ。
腐り切った畳の敷かれた寝室のような部屋の奥に、きっちりと閉じられたボロボロ襖。
まだ見ていなかったそこを、雪弥は勢いよく開けた。
「あっ!」
部屋の奥には褪せた金塗りの仏壇。
そしてその前で、探していた広樹が小さく呻きながら倒れていた。
「広樹!」
急いで駆け寄ると、広樹の首にはロープのようなものが巻き付いていて、それが途中でぶっつり切れていた。すぐ近くには小さな椅子も倒れている。
まるで首を吊ろうとしたが、ロープが切れて失敗したかのようだ。
雪弥が抱き起こしながらロープを外すと、広樹がゲホゲホと咳き込み始める。ひとまず大丈夫そうだ。
「よかったぁ」
「あ、きゅ、救急車! 救急車呼ばなきゃ!」
安堵したのも束の間、ハッとした肇が、慌ててスマートフォンを取り出し、救急車を呼ぶ。
その夜、月夜地区の一画は赤い光とサイレンで、騒然となった。
☆ ☆
「昨日は大変だったらしいな、雪弥」
「本当、参ったよ」
翌日の中休み、別のクラスの虎太郎と遥斗が教室に遊びにきたので、昨日の夜の顛末を二人にも報告した。
「僕も行きたかったんだけど、親に止められちゃって……」
「気にすんなよ、遅い時間だったし」
虎太郎も月夜地区での出来事というのもあり、雪弥に広樹のことを教えた後、家を抜け出そうとしたが、母親に見つかってしまったらしい。
「雪弥は親といったのか?」
「ううん。肇兄の家にいたから、肇兄と一緒に行った」
「それって、めっちゃ怖がりな大学生のお兄さんだよな?」
「よく一緒に行ってくれたね?」
遥斗も虎太郎も、雪弥が両親の都合でよく天崎家に泊まっていることを知っているし、肇のこともよく知っていた。だからこそ、心霊スポットにもなっている場所によくあの怖がり大学生を連れて行けたものだ、と不思議に思っていたのだろう。
「オレが補導されるのと、どっちがいいか? って聞いたら一発よ!」
「……肇お兄さん、可哀想」
にこやかに言う雪弥に、虎太郎が同情のため息をついた。
「あ、そうそう。広樹と一緒にあの家を見に行った他の四年生に、もっと突っ込んで話を聞けたんだけどさ」
遥斗は今朝学校に来る途中、通学路で四年生たちと一緒になったので『アサハラさんの家』を見に行った時のことを詳細に聞けたらしい。
四年生たちの話によると、彼らは見に行った際に、廃屋の中を細かく探索したのだそうだ。半数は怖くてすぐに帰りたがっていたそうだが、残りの半数は全く怖くないと言って、廃屋の中で終始ふざけていたという。
「その時に広樹は、居間にあったちゃぶ台の前に座って、手を合わせてご飯食べるフリとか、おままごとみたいなことしてたんだって」
「……そっか」
もしかしたら、広樹はそのせいであの家の『家族』にされていたのかもしれない。
居間でくつろぎ、台所に向かって話をする様子は、帰宅した子どもが親に今日あったことを話すそれにソックリだった。
「月夜地区の会長さんがこっそり教えてくれたんだけど、あの一家は、みんな首を吊って死んじゃってるんだって」
それも、奥にあった仏壇のある部屋で、家族四人が並んで死んでいたらしい。もしかしたら、一家心中した家族が広樹を仲間に、『本当の家族』にしようとしていたのかもしれない。
広樹の両親も共働きで、ここ最近は帰宅も遅く、自分の息子が毎夜家を抜け出していたことに、気付いていなかったようだ。
当の広樹は、大きな怪我はなかったものの、念の為しばらく検査入院するらしい。入院先は、広樹の母と雪弥の母が共に働いている病院である。
「あ、結局あの廃屋はどうなるんだ?」
「さすがにケガ人が出ちゃったからね。会長さんが早々に取り壊すための手続き始めるって」
「なら、大丈夫そうだな」
今後また同じようなことが起きてはいけないと、大人もようやく重い腰を上げたらしい。取り壊して更地にした後は、駐車場にする予定なのだそうだ。
「……あ、勇太にも報告しなきゃな」
雪弥は広樹の異変を教えてくれた、一年生の男の子を思い出していた。また遊びたいと言っていたのに、入院することになったから、もうしばらくは遊べないことも伝えなければ。
昼休み、雪弥は遥斗たちと一緒に一年生の教室がある階へ行き、今回の発端でもある『三島勇太』を探した。
しかし、誰に聞いても「そんな子、知らない」と言われてしまい、まったくもって見つからない。
これは妙だと思い、虎太郎の提案で先生に聞いたらどうかと職員室へ向かった。
しかし。
「一年生の三島勇太? うちの学校にそんな子いないぞ?」
「えっ!?」
一年生を受け持つ先生達に言われてしまい、雪弥は遥斗や虎太郎と頭を突き合わせた。
「……どういうことだ?」
「もしかして、違う小学校の子だった、とか?」
言われてみれば、確かに最初声を掛けられたのは、学校の外。銀星小学校の前で話しかけられたのだから、てっきり同じ学校だと思ったのだが、違う学校の可能性がないことはない。
「うーん、でも違う学区の一年生が、わざわざ来るとは思えないし」
「違う学区なら、オレが地区リーダーなのも知らなくない?」
「だよなぁ……」
なにせ三島勇太は、夕暮れ地区の広樹のことを、地区リーダーの雪弥に『困り事』として相談してきたのだ。同じ学校の児童でなければ、同じ地区に住んでいる者でなければ、その発想にまずはならない。
雪弥と遥斗がうーんと頭を捻って悩んでいると、虎太郎がものすごく言いづらそうに、口を開いた。
「……あ、あのさ。実は、アサハラさんの家って再婚同士の夫婦、だったんだって」
それぞれに連れ子がいて、再婚をした夫婦。
亡くなった一家には、小さい男の子がいたが、その子は確か、小学校に上がったばかりで──。
そこまで考えて、雪弥は頭を掻きながら、深い息を吐く。
「……調べるのは、やめよう」
雪弥の言葉に、遥斗と虎太郎も頷いた。
男の子の名前は、果たしてなんという名前だったのか。
答え合わせはしないことにした。
「それはまた、大変だったねぇ」
雪弥にことの顛末を聞いた肇が、眉を下げて労った。
あの後、虎太郎は地区会の大人の人に報告しに行くからとあの場で別れ、雪弥と遥斗はまだ心ココに在らずといった広樹を夕暮れ地区にある自宅まで送っていった。
その後雪弥は、今日も母が夜勤のため、天崎家へとお泊まりに来た次第である。
「月夜地区のオトナの人が、中に入れないように今度色々してくれるってさ」
「そっか、それなら安心だね」
天崎家で夕飯を食べてお風呂に入っている間に、虎太郎からスマートフォンに報告のメッセージが来ていた。半ベソをかいたままの虎太郎が、そのまま報告に行くと言っていたので、地区会の大人もきっと彼の様子にただならぬものを感じたことだろう。
「……アイツ、あそこで何してたんだろう」
昼休みに話を聞いた時、一度行っただけだ、と言った広樹は嘘をついているようには見えなかった。けれど、廃屋でのあの様子は、普段からよく出入りしているとしか思えない。
肇に髪を乾かしてもらい、ベッドに横たわっていると、不意に雪弥のスマートフォンが振動する。
なんだろうと見てみると、虎太郎からのメッセージだった。
《まずい! ヒロキがアサハラさんの家に向かってるかもしれない!》
「はぁ!?」
普段から虎太郎とよくメッセージのやりとりをしているという子が、塾からの帰り道で一人ふらふらと月夜地区のほうへ向かう広樹を見たらしい。
顔見知りなので話しかけてみたが、上の空で変だったので、虎太郎に教えてくれたのだそうだ。
時計を見れば、小学生が一人で出歩いていい時間ではない。
「肇兄、一緒にきて!」
「え~~~~!」
「……肇兄はオレが補導されてもいーのかよ」
「それはダメェェェ!」
肇は雪弥に半ば脅されるかたちで、しぶしぶ一緒に月夜地区へと向かった。
☆
夜の廃屋は、この周辺だけ街灯がついておらず、放課後に見た時よりもいっそう暗くて雰囲気があった。
外から見る限り、人の気配はない。
しかし、一人でふらふらと呼びかけにも応じず歩いていたというなら、放課後の様子も考えるに、広樹はここにいる可能性が高い。
「よし、いこう」
懐中電灯をもった小さな雪弥に、大きな肇がへっぴり腰で後ろにくっつき、朽ち果てた玄関の中へと入っていった。
辺りを強い光で照らし、朽ち果てた床の穴に気を付けながら、奥へと進む。
放課後、広樹が寛いでいた居間らしき場所を最初に見てみたが、誰もいなかった。居間のさらに奥のほうを懐中電灯で照らすと、そこは台所になっているようで、曇り切ったステンレスの流し台が、柔らかく光をはね返してくるだけである。
雪弥と肇は顔を見合わせてから、口に手を添えて声を上げた。
「おーい、広樹ぃ」
「ひ、広樹くーん」
呼びかけても、暗い屋内に声が響くだけで、特に反応はない。
二人は何度か呼びかけながら、居間の奥の台所、寝室、風呂場など、一階部分を隈なく見て回る。しかし、広樹は見つからなかった。
広樹が向かった場所は、ここではないのだろうか?
夜も深い時間になり始めている。
「ゆゆゆ、雪弥くーん。広樹くんもいないみたいだし、帰ろうよう」
相変わらず雪弥の後ろにくっついて離れない肇が、ついに情けない声を上げた。
「うっさいなぁ、どこかに隠れてるかもしれないだろ! 肇兄も探してよ!」
「ででで、でもぉ」
人の死んだ場所に、こんな時間にいるという恐怖が、肇にはそろそろ限界らしい。
その時だった。
不意に奥のほうで、ガターンと何かの倒れる音。
「ヒィ……!」
「ほら、行くぞ!」
怯える肇を引っ張りながら、音のした方へと急ぐ。
腐り切った畳の敷かれた寝室のような部屋の奥に、きっちりと閉じられたボロボロ襖。
まだ見ていなかったそこを、雪弥は勢いよく開けた。
「あっ!」
部屋の奥には褪せた金塗りの仏壇。
そしてその前で、探していた広樹が小さく呻きながら倒れていた。
「広樹!」
急いで駆け寄ると、広樹の首にはロープのようなものが巻き付いていて、それが途中でぶっつり切れていた。すぐ近くには小さな椅子も倒れている。
まるで首を吊ろうとしたが、ロープが切れて失敗したかのようだ。
雪弥が抱き起こしながらロープを外すと、広樹がゲホゲホと咳き込み始める。ひとまず大丈夫そうだ。
「よかったぁ」
「あ、きゅ、救急車! 救急車呼ばなきゃ!」
安堵したのも束の間、ハッとした肇が、慌ててスマートフォンを取り出し、救急車を呼ぶ。
その夜、月夜地区の一画は赤い光とサイレンで、騒然となった。
☆ ☆
「昨日は大変だったらしいな、雪弥」
「本当、参ったよ」
翌日の中休み、別のクラスの虎太郎と遥斗が教室に遊びにきたので、昨日の夜の顛末を二人にも報告した。
「僕も行きたかったんだけど、親に止められちゃって……」
「気にすんなよ、遅い時間だったし」
虎太郎も月夜地区での出来事というのもあり、雪弥に広樹のことを教えた後、家を抜け出そうとしたが、母親に見つかってしまったらしい。
「雪弥は親といったのか?」
「ううん。肇兄の家にいたから、肇兄と一緒に行った」
「それって、めっちゃ怖がりな大学生のお兄さんだよな?」
「よく一緒に行ってくれたね?」
遥斗も虎太郎も、雪弥が両親の都合でよく天崎家に泊まっていることを知っているし、肇のこともよく知っていた。だからこそ、心霊スポットにもなっている場所によくあの怖がり大学生を連れて行けたものだ、と不思議に思っていたのだろう。
「オレが補導されるのと、どっちがいいか? って聞いたら一発よ!」
「……肇お兄さん、可哀想」
にこやかに言う雪弥に、虎太郎が同情のため息をついた。
「あ、そうそう。広樹と一緒にあの家を見に行った他の四年生に、もっと突っ込んで話を聞けたんだけどさ」
遥斗は今朝学校に来る途中、通学路で四年生たちと一緒になったので『アサハラさんの家』を見に行った時のことを詳細に聞けたらしい。
四年生たちの話によると、彼らは見に行った際に、廃屋の中を細かく探索したのだそうだ。半数は怖くてすぐに帰りたがっていたそうだが、残りの半数は全く怖くないと言って、廃屋の中で終始ふざけていたという。
「その時に広樹は、居間にあったちゃぶ台の前に座って、手を合わせてご飯食べるフリとか、おままごとみたいなことしてたんだって」
「……そっか」
もしかしたら、広樹はそのせいであの家の『家族』にされていたのかもしれない。
居間でくつろぎ、台所に向かって話をする様子は、帰宅した子どもが親に今日あったことを話すそれにソックリだった。
「月夜地区の会長さんがこっそり教えてくれたんだけど、あの一家は、みんな首を吊って死んじゃってるんだって」
それも、奥にあった仏壇のある部屋で、家族四人が並んで死んでいたらしい。もしかしたら、一家心中した家族が広樹を仲間に、『本当の家族』にしようとしていたのかもしれない。
広樹の両親も共働きで、ここ最近は帰宅も遅く、自分の息子が毎夜家を抜け出していたことに、気付いていなかったようだ。
当の広樹は、大きな怪我はなかったものの、念の為しばらく検査入院するらしい。入院先は、広樹の母と雪弥の母が共に働いている病院である。
「あ、結局あの廃屋はどうなるんだ?」
「さすがにケガ人が出ちゃったからね。会長さんが早々に取り壊すための手続き始めるって」
「なら、大丈夫そうだな」
今後また同じようなことが起きてはいけないと、大人もようやく重い腰を上げたらしい。取り壊して更地にした後は、駐車場にする予定なのだそうだ。
「……あ、勇太にも報告しなきゃな」
雪弥は広樹の異変を教えてくれた、一年生の男の子を思い出していた。また遊びたいと言っていたのに、入院することになったから、もうしばらくは遊べないことも伝えなければ。
昼休み、雪弥は遥斗たちと一緒に一年生の教室がある階へ行き、今回の発端でもある『三島勇太』を探した。
しかし、誰に聞いても「そんな子、知らない」と言われてしまい、まったくもって見つからない。
これは妙だと思い、虎太郎の提案で先生に聞いたらどうかと職員室へ向かった。
しかし。
「一年生の三島勇太? うちの学校にそんな子いないぞ?」
「えっ!?」
一年生を受け持つ先生達に言われてしまい、雪弥は遥斗や虎太郎と頭を突き合わせた。
「……どういうことだ?」
「もしかして、違う小学校の子だった、とか?」
言われてみれば、確かに最初声を掛けられたのは、学校の外。銀星小学校の前で話しかけられたのだから、てっきり同じ学校だと思ったのだが、違う学校の可能性がないことはない。
「うーん、でも違う学区の一年生が、わざわざ来るとは思えないし」
「違う学区なら、オレが地区リーダーなのも知らなくない?」
「だよなぁ……」
なにせ三島勇太は、夕暮れ地区の広樹のことを、地区リーダーの雪弥に『困り事』として相談してきたのだ。同じ学校の児童でなければ、同じ地区に住んでいる者でなければ、その発想にまずはならない。
雪弥と遥斗がうーんと頭を捻って悩んでいると、虎太郎がものすごく言いづらそうに、口を開いた。
「……あ、あのさ。実は、アサハラさんの家って再婚同士の夫婦、だったんだって」
それぞれに連れ子がいて、再婚をした夫婦。
亡くなった一家には、小さい男の子がいたが、その子は確か、小学校に上がったばかりで──。
そこまで考えて、雪弥は頭を掻きながら、深い息を吐く。
「……調べるのは、やめよう」
雪弥の言葉に、遥斗と虎太郎も頷いた。
男の子の名前は、果たしてなんという名前だったのか。
答え合わせはしないことにした。
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