大和撫子みそラーメン

にゃんこう

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大和撫子みそラーメン

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『大和撫子』という言葉をご存知だろうか。

 大和撫子とは古くから伝わる日本人女性を表す言葉。純粋で、謙虚で、上品で、美しい。カワナナデシコと名称のある薄い紫色をした花が由来となり、遠目で見ると線香花火の火花をぱちぱちと弾けさせているような花をしている。

 大和撫子は幼い頃の私が夢見ていた、大人になった自分の理想像でもある。

 では、『みそラーメン』はご存知だろうか。

 みそラーメンとは味噌をスープに馴染ませて作るラーメンだ。ラーメンで代表的なのは醤油、塩、豚骨、それから味噌。最近煮干しやら、明太子やら変化球系ラーメンが流行っているが、やはりラーメン界の四天王SSTMといえば彼らである。

 それではみなさん『大和撫子みそラーメン』をご存知だろうか。

 この大和撫子みそラーメンなるものは、ご当地アイドルの活動名でもなければ、スパイ映画で使われるコードネームでもない。

 ただのラーメン、味噌ラーメンだ。

 しかも『大和撫子みそラーメン』は世間に出回ってないというのはもちろん、ラーメン通やラーメン界の神様と謳われた石○さんですら知らないであろう、知る人ぞ知るラーメン。私が大和撫子みそラーメンの存在を知ったのは、ある居酒屋の店主に教えてもらったからだ。

 その店主から手書きの地図をもらい、私は夜分にネットを駆使して『大和撫子みそラーメン』について調べ尽くした。案の定、食べログやラーメンマップにもその店は載っていなかった――が、とある2chの掲示板に『大和撫子みそラーメン』をタイトルに作られた掲示板が一つだけ存在していた。

 謎に包まれた大和撫子みそラーメンの、やっと手に入れることができた有力な情報。それは私の興味を余計にそそらせる内容だった。


 21名前:撫子 :2020/03/29(日) 21:21:10 ID:ramenchukichki
 大和撫子みそラーメンを喰ったやつは、みんな気持ち良さそうな顔をするんだ。
 まるで自慰行為した後のようにな。他にも涙を流すやつだっていた。それに大和撫子みそラーメンを喰ったやつはみんな変わっちまう。

 54 名前:名無し :2020/03/29(日) 22:22:45.ID:eroerosenntai
 わたしは大和撫子みそラーメンのお陰で生まれ変わりました。毎週通っています。

 87 名前:ポータン塩:2020/03/30(月) 6:22:11.ID:yapparigyuu
 気持ち良すぎてたまらない


 など、大和撫子みそラーメンを讃える言葉の数々。

「やっぱり大和撫子みそラーメンって……ううん、この目で確かめに行かなきゃ」

 パソコンの電源を落として、私はすぐさま家を飛び出した。

 ◆

 そこは東京都の新宿駅から中央線沿いにある吉祥寺。

 東京都内の住みやすい街ランキングで常に上位のこの地は、優しさのスパイスが撒かれているんじゃないかと思うくらい人情深い街だ。そこに知る人ぞ知るラーメン屋が存在する。

 がたんごとん。
 私は新宿駅で乗り換えをしていざ中央線へ。すると数分も待たずにシルバーの車体にオレンジの線が入った電車やってきて、私はそれに乗り、座席に腰を落とす。

「ちょっと由美!」

 口調の強そうな女の子の声に、思わず体をビクつかせてしまう。だが私の名前は由美ではない、百合須 清子ゆりす きよこだ。

「そんなつもりじゃなかったのよ!」

 どうやら私の前の座席で二人の女子高校生が揉めているようだった。艶のある黒髪にピシッと正された制服、お嬢様学校の生徒のようだ。

「この前の土曜日、一緒に映画観に行こって言ったら由美は「親の手伝いがあるから」って断ったじゃない。なのに……何で男とデートしてたのよっ。街で一緒に歩いてるところをわたし、見たんだからねっ!」
「だから、その、違うのよ」
「何も違くないわ! 由美は私の事よりその男が一番なんでしょ!」
「そんなことないわ真弓、これを買ってたの」

 由美とやらが鞄から小さな紙袋を取り出して、友人に差し出す。

「happy……birthday」
「――っ! 由美っ大好き!」

 目の前で抱き合う二人。その素晴らしい光景に私の心は満たされ、至福のため息を吐き捨てる。やはり動画よりも生モノは別格だ。採りたての新鮮野菜と数カ月冷蔵庫に寝かせた野菜の差ほどある。

 あぁこの世界は今もどこかで戦争が行われている。

 人々は苦しみながら悲しみながら、それでも誰かの為に戦っている。平和を日々願いながら。だが私はそんな人達に伝えたい。

『ラブアンドピースは、私の目の前にある』と。

 改めて自己紹介をしよう、私は百合須 清子。
『百合』だ。女の子が大好きな方の百合だ。

 百合と出会って十一年。
 百合を愛し。
 百合で育てられ。
 百合の為に働いている。

 百合系のえちえちDVDは全制覇したと言っても過言ではない。痴漢系、コスプレ系、拘束系……あらゆる百合ものを制覇した私だったが、この『大和撫子みそラーメン』の話を聞いたときは驚きが隠せなかった。

『大和撫子みそラーメン』とは完全なる百合。
 それも百合マスターの私が知らない、新ジャンルだ。

 だって大和撫子でみそラーメンだよ?
 ラーメンを組み合わせるなんて新境地、いや革命だ。えちえちなDVDはたくさん観てきた……だが、ラーメンとの組み合わせは見た事もない。

 私の予想では、大和撫子みたいな可愛い女の子がみそラーメンを女体盛りして、それからえちえちな事を始めるんじゃないかと踏んでいる。

 だけど想像ができないのだ。

 ラーメンは熱いのか、冷たいのか。
 具材はどこに盛り、そして何を盛るのか。
 それからどう始まるのか。

 全てが謎めいているからこそ、興奮する。

「やばい……想像しただけ」

 口元が緩み、気付くとヨダレが『こんにちは!!』してしまっていた。
 様々な妄想を膨らませながら私は吉祥寺駅に降り立つ。店主から貰った地図を頼りに賑わう商店街を歩き、途中で路地裏に入り、それから数回曲がった先にそのお店はあった。

「これが、噂のお店……本当に実在していたんだっ」

 そのラーメン屋はお世辞でも立派とは言えないお店だった。黒ずんだ暖簾に蕎麦屋のような木質系スライドドア。歴史的建造物のような木造の建物は、一見してラーメン屋とは誰も思うまい。

 いいや、中に入ればきっとピンク一色のえちえちな内装となっているに違いない。

「さぁ行こう、新世界へ」

 ガラガラ、ピシャリ。
 お店の中へ足を踏みいれると、私は呆然と立ち尽くしてしまう。

「へいらっしゃい」

 薄暗い店内、L字型のカウンター席にテーブル席が3つ。カウンター席の内側に厨房があり、店主はひとりだけ。この内装を一言で表せば昭和のラーメン屋だろう。お店を間違えてしまったかな?

「大丈夫かいお嬢さん、食券はそちらだよ」
「え、あ、はい」

 今更帰る勇気など私にはないし、一杯だけ食べて帰る――はっ!

「あぁっ!!」
「どうしたんだいお嬢さん」
「い、いえ、なんでもないです。あはは……」

 券売機の右上に『大和撫子みそラーメン』と記載のあるボタンがあった。
 ここで間違いはなかったんだ。きっと購入した後に裏口に案内されて、えちえちプレイが始まるに違いない。

 値段は800円。どうせこれは基本料だ。後からオプション料が増していくシステムだろう。わたしは食券を購入してカウンター席に腰かけた。

「食券お預かりします」
「お、お手柔らかに」
「ふむ」

 定年退職後のおっちゃんのような店主は、食券を見つめながら、わたしに尋ねてきた。

「お嬢さん、麺の硬さは?」

 麺の硬さ……体と体の絡み合いのことだろう。
 わたしは比較的に体は硬めなので、柔らかいプレイは痛いので嫌だ。そのため「硬め」と答えた。

「濃さは?」

 こ、濃さ!?
 濃さってまさか、アレの濃さ!?
 そんなものも選べるなんてとわたしは驚きながら、小さな声で「こ、濃いめで」と答えた。

「脂は?」

 あ、脂だって!?
 こりゃあたまげた。ぽっちゃり系か細身系かを選べるなんてね。
 わたしはもちろん貧乳が好きなので。

「少なめで!」
「あいよ」

 さあて始まるぞ、大和撫子みそラーメンプレイが始まるぞ!!


 ◆十分後◆


 裏口にお呼ばれしなければ、可愛らしい女の子も出てこない。
 というか入店してから、お客さんはわたしひとりだけなのだけど。

「みそラーメンおまち!」
「えっ」

 店主は厨房から手を伸ばし、わたしの目の前にみそラーメンを置いた。

「……えっ?」
「どうしたんだいお嬢さん、頼んだのはみそラーメンだろ?」
「え、えぇ……そうなんだけど、大和撫子が……」
「安心しなお嬢さん。これはちゃあんと、大和撫子みそラーメンだよ」

 店主の不敵な笑み、悪徳AV監督のような笑みを浮かべている。まさか媚薬かっ。このラーメンに媚薬が入れられているのか。きっとこれを食べ終えると襲われるのか、大和撫子に!!

 割り箸を武者震いを起こしている手でパキっと割る。

「い、いただきます」
「めしあがれぇ」

 見た目はいたってシンプルなみそラーメン。
 チャーシュー二枚にメンマ三つ。ナルトとほうれん草、そして半熟卵。
 き、緊張してまう……だが百合マスターとして今更引き下がるわけにはいかない。

「えっと、まずは」

 濃厚なスープをごくり。

「はあぁんっ」

 喉にスープが通った瞬間、ぞわわわっと身体が熱を帯びる。まるで体を巡る血液が、すべてみそスープに変わったようだった。なんだこれは、なんだこれは!!

 濃いようにみえて、あっさり。だけどちゃんと深みがある。その深みはまさに深海の如く。謎に包まれた不思議な深みだ。よし次は麺にいこう。

「ずずっ……んんっ、はあっん」

 深みのあるスープが麺とフュージョン。
 お口のなかでウルトラスーパーハッピータイムの鐘が鳴った。

「あっ、はぁ、はふっはふっ、ズズズズッ。あっあっ」

 手が止まらない。箸で麺をすくっては口に運ぶ作業を繰り返すロボットのよう。
 さらに体が熱い、熱い熱い熱い!

「て、店主ぅ、みずぅ、みずがほしぃの」
「水はあっちだよ」
「せ、せるふぅー!」

 水を飲み、お口をリセットしてから再びラーメンへ。最後はスープを飲み干して、完食。

「良い食べっぷりだねお嬢さん」

 そう微笑む店主だが、ひとつ違和感があった。
 媚薬が入っていないのだ。なのに体は熱いし、胸の鼓動が鳴りやまない。しかも食べ終わってもの何も起こらないし、誰もやってこない。えちえちは?。

「というか、なんだこれはっ」

 汗を拭って気が付いた。
 私の肌がつやつやになっている。社会人になってから肌のお手入れをサボっていて、赤道付近の大地のように荒れていたのに、こんなつやつや肌は高校生以来だ。

「まるで大和撫子みたいに……店主、一体このラーメンに何を入れたんだ。教えてくれよ店主!!」

 そして店主は嗤う。
 人を馬鹿にするように嘲笑う。
 その高笑いが店内を響かせ、わたしの不安を煽る。
 
 そして店主は怪しげな微笑を浮かべて、甘い声でこう言った。

「コラーゲンだよ」
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