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File02. 九尾の呪い
02. 九尾の呪い
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目が覚めると、見覚えのない木目調の天井が広がっていた。横を向くと、廉が椅子に座って静かに本を読んでいるのが見えた。その穏やかな姿を目にした瞬間、俺の体はさらに熱を帯びたように感じ、なぜか胸が締め付けられるような疼きが下半身にまで広がっていく。
(なんだこれ……)
自分の体がおかしいのは分かっていた。けれど、それ以上に廉に触れたい、近づきたい、そんな思いが頭を支配していく。
俺の気配に気づいた廉が顔を上げ、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「目が覚めたか?……お前、熱があるみたいだったから休ませてたんだ」
彼の手がそっと俺の頬に触れる。ひんやりとしたその感触に、体中が跳ねるように反応した。
(抱かれたい……何言ってんだ俺!)
頭に浮かんだ考えを慌てて振り払いながら、俺は息を整えて答えた。
「ごめん、助かったよ」
「いつから具合が悪くなったんだ?」
「……多分、殺生石の観光が終わった後くらいからかな」
廉は少し考えるような表情を見せたが、特に疑問を口にすることはなかった。それが逆にありがたかった。
俺は無意識のうちに手を伸ばし、廉の服の裾を軽く引いた。
「廉、隣に来て……少しでいいから……寂しい」
「どうしたんだよ、急に」
そう言いながらも、廉はベッドの端に腰を下ろした。その気遣うような視線に、俺の体はますます熱くなるばかりだった――。
「はぁはぁはぁ……」
「おい、救急車呼ぶか?」
「必要ないから……寝れば治るし」
廉は俺の手を布団から引き離す。しかし俺はその手を掴み返すと、自分の下半身へと導いた。
「こっちも触って欲しい……」
その言葉を聞いた瞬間、彼の目が一瞬見開いた後、すっと細められた。その瞳の奥に情欲の色が見える気がしたのは俺の気のせいだろうか。
「お前……自分が何言ってるか分かってんのか?」
「……分かってるよ。でも体が熱くて仕方ないんだよ!」
(もうどうにでもなれ)
俺が廉の手をさらに引き寄せようとした、その時だった。
「きゃあああああ!」
廊下の方から突然悲鳴が響き渡った。俺も廉も一瞬凍りつく。
「なんだ……今の?」
「行くぞ!」
廉が先に動き出し、俺も慌てて後を追った。部屋の扉を勢いよく開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
廊下の真ん中、一人の人間が炎に包まれてもがいていた。激しく燃え上がる炎の中で、その人物の叫び声が周囲に響き渡る。
「だ、誰か助けて……!」
「なんだこれ……夢、だよな……?」
現実とは思えない光景に、俺は足がすくんで動けなくなった。廉は即座に駆け出し、その場に立ち尽くす俺に声をかける。
「歩夢!ボーッとしてる場合じゃない、助けるぞ!」
「で、でも、あれ……どうすれば……!」
火の熱気と焦げた臭いが強烈で、息をするのも苦しい。俺たちはどうすればいいのかもわからず、ただ炎を見つめていた。
その時、炎の中に包まれた人物の顔が一瞬見えた。
「え……あの人……」
まさか――俺の頭に、ある人物の名前が浮かびかける。
鳥山さん!?
「き……ゆ…⋯び……九尾がいた。」
燃え盛る炎の中から、男性の掠れた声が辛うじて届いた。俺たちは慌ててバケツに水を汲み、燃え盛る鳥山さんの体に冷水をかけた。水をかけても炎はなかなか鎮まらず、熱気と煙で目を開けるのも辛い。息が詰まるような焦げ臭さが鼻をついた。
「頼む……動いてくれ!」
廉の声も震えている。俺の手は冷水でびしょ濡れになり、鳥山さんの体を必死に撫でるが、彼は全く反応しなかった。
ようやく、火が落ち着いた。熱を帯びた空気が少しだけ収まり、周囲の音が耳に届くようになった。しかし、鳥山さんは動かない。その無音が、余計に恐ろしい。
俺は恐る恐る手を伸ばして、彼の首に指を当てた。冷たくなっているその肌に、胸が締めつけられる。脈は……止まっていた。
「……鳥山さん、もう……」
震えた声が自分の口から出て、心の中で何度もその現実を受け入れようとしたが、やはり言葉にできなかった。目の前の彼の死が、信じられなかった。あんなに生きていると感じていたのに、こんなにも静かに、あっけなく。
「歩夢、離れろ。」
廉が俺の肩を掴んで引き寄せる。その声には、いつもの冷静さと違う、強い何かが感じられた。だが俺は動けなかった。
「でも……」
「離れろ!」
その命令のような言葉に、俺はようやく自分の体が硬直していることに気づき、我に返った。恐怖と無力感が体を支配して、ただ呆然と立ち尽くしていた。
それでも、胸の中に湧き上がるのは、ただ悲しみだけではない。怒り、悔しさ、そして後悔。もっと何かできたはずなのに。もっと、早く気づけたら……
「……ごめん、鳥山さん。」
息が詰まりそうになりながら、俺はそっと目を閉じた。
(なんだこれ……)
自分の体がおかしいのは分かっていた。けれど、それ以上に廉に触れたい、近づきたい、そんな思いが頭を支配していく。
俺の気配に気づいた廉が顔を上げ、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「目が覚めたか?……お前、熱があるみたいだったから休ませてたんだ」
彼の手がそっと俺の頬に触れる。ひんやりとしたその感触に、体中が跳ねるように反応した。
(抱かれたい……何言ってんだ俺!)
頭に浮かんだ考えを慌てて振り払いながら、俺は息を整えて答えた。
「ごめん、助かったよ」
「いつから具合が悪くなったんだ?」
「……多分、殺生石の観光が終わった後くらいからかな」
廉は少し考えるような表情を見せたが、特に疑問を口にすることはなかった。それが逆にありがたかった。
俺は無意識のうちに手を伸ばし、廉の服の裾を軽く引いた。
「廉、隣に来て……少しでいいから……寂しい」
「どうしたんだよ、急に」
そう言いながらも、廉はベッドの端に腰を下ろした。その気遣うような視線に、俺の体はますます熱くなるばかりだった――。
「はぁはぁはぁ……」
「おい、救急車呼ぶか?」
「必要ないから……寝れば治るし」
廉は俺の手を布団から引き離す。しかし俺はその手を掴み返すと、自分の下半身へと導いた。
「こっちも触って欲しい……」
その言葉を聞いた瞬間、彼の目が一瞬見開いた後、すっと細められた。その瞳の奥に情欲の色が見える気がしたのは俺の気のせいだろうか。
「お前……自分が何言ってるか分かってんのか?」
「……分かってるよ。でも体が熱くて仕方ないんだよ!」
(もうどうにでもなれ)
俺が廉の手をさらに引き寄せようとした、その時だった。
「きゃあああああ!」
廊下の方から突然悲鳴が響き渡った。俺も廉も一瞬凍りつく。
「なんだ……今の?」
「行くぞ!」
廉が先に動き出し、俺も慌てて後を追った。部屋の扉を勢いよく開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
廊下の真ん中、一人の人間が炎に包まれてもがいていた。激しく燃え上がる炎の中で、その人物の叫び声が周囲に響き渡る。
「だ、誰か助けて……!」
「なんだこれ……夢、だよな……?」
現実とは思えない光景に、俺は足がすくんで動けなくなった。廉は即座に駆け出し、その場に立ち尽くす俺に声をかける。
「歩夢!ボーッとしてる場合じゃない、助けるぞ!」
「で、でも、あれ……どうすれば……!」
火の熱気と焦げた臭いが強烈で、息をするのも苦しい。俺たちはどうすればいいのかもわからず、ただ炎を見つめていた。
その時、炎の中に包まれた人物の顔が一瞬見えた。
「え……あの人……」
まさか――俺の頭に、ある人物の名前が浮かびかける。
鳥山さん!?
「き……ゆ…⋯び……九尾がいた。」
燃え盛る炎の中から、男性の掠れた声が辛うじて届いた。俺たちは慌ててバケツに水を汲み、燃え盛る鳥山さんの体に冷水をかけた。水をかけても炎はなかなか鎮まらず、熱気と煙で目を開けるのも辛い。息が詰まるような焦げ臭さが鼻をついた。
「頼む……動いてくれ!」
廉の声も震えている。俺の手は冷水でびしょ濡れになり、鳥山さんの体を必死に撫でるが、彼は全く反応しなかった。
ようやく、火が落ち着いた。熱を帯びた空気が少しだけ収まり、周囲の音が耳に届くようになった。しかし、鳥山さんは動かない。その無音が、余計に恐ろしい。
俺は恐る恐る手を伸ばして、彼の首に指を当てた。冷たくなっているその肌に、胸が締めつけられる。脈は……止まっていた。
「……鳥山さん、もう……」
震えた声が自分の口から出て、心の中で何度もその現実を受け入れようとしたが、やはり言葉にできなかった。目の前の彼の死が、信じられなかった。あんなに生きていると感じていたのに、こんなにも静かに、あっけなく。
「歩夢、離れろ。」
廉が俺の肩を掴んで引き寄せる。その声には、いつもの冷静さと違う、強い何かが感じられた。だが俺は動けなかった。
「でも……」
「離れろ!」
その命令のような言葉に、俺はようやく自分の体が硬直していることに気づき、我に返った。恐怖と無力感が体を支配して、ただ呆然と立ち尽くしていた。
それでも、胸の中に湧き上がるのは、ただ悲しみだけではない。怒り、悔しさ、そして後悔。もっと何かできたはずなのに。もっと、早く気づけたら……
「……ごめん、鳥山さん。」
息が詰まりそうになりながら、俺はそっと目を閉じた。
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