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File01. 十字架の愛
02. 悲鳴は悲劇へ
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俺は昼間、一度家に戻って昼寝を決め込み、夜の23時過ぎに学校へ向かう準備をした。外は冷え込んでいて、人気のない通学路を歩いていると少し心細くなる。
「よし!依頼開始だ!」
「依頼開始!じゃねぇ!!なんで俺までこんなことに巻き込まれなきゃいけねぇんだ!」
隣で廉が大きく怒鳴る。その声が夜道に響き、俺は思わず肩をすくめた。
「どうどう!落ち着けって。俺、幽霊とかマジで怖いんだよ。だからお前が一緒だと安心するんだって!」
「……っ。くそ……」
ちらっと見えた廉の横顔が、一瞬赤くなったような気がした。舌打ちをしたあと、何故かそっぽを向いて歩き始める。
「さっさと行くぞ。どうせ何もねぇだろ。」
「お、おう!じゃあ行こうか!ワトソン君!」
「……誰がワトソンだよ。」
「気にしない気にしない!名コンビで解決するってことでさ!」
俺は軽く肩を叩き、歩き出す。廉の不満げな顔を見ていると、少し申し訳なくなるが、それでも彼が一緒に来てくれたことに心から感謝している。
俺たちは校門をくぐり抜け、学校の探索を始めた。当然、学校は閉まっている。だが昼間のうちに、先生が見逃しがちな裏口の鍵を内側から開けておいたおかげで、簡単に侵入できた。
「なぁ、悲鳴ってどこから聞こえるって話だ?」
廉が不思議そうに尋ねる。俺はポケットから渡された手紙を取り出し、確認した。
「音楽室らしいな。そこだけ見たら、すぐ帰ろう。」
「当たり前だ。明日も学校だってのに、用もなくこんなとこウロウロしてられるかよ。しかも眠いし。」
俺たちは四階にある音楽室を目指して歩き出す。正直、めちゃくちゃ怖い。俺は思わず廉の手を握り続けた。
「……怖いなら依頼引き受けんなよ。」
「バカ!エロ本のためなら火の中、水の中にだって行くに決まってんだろ!」
「……はぁ。お前って奴は……」
そんなやりとりをしながら音楽室にたどり着く。恐怖心を振り払うように、俺は思い切って扉を開けた。
「失礼します!!!」
けれど当然、返事なんてない。廉は無言でスタスタと教室に入ると、ピアノを開けたり、壁に飾られた絵をじろじろ眺めたりし始めた。
「……何もねぇな。」
「当たり前だろ。どうせホラ話だって。」
「じゃ、帰るぞ。」
「おう!」
俺たちはそのまま帰ろうとした――その時だった。数歩歩いたところで、反対側の校舎に謎の明かりが見えた。
「なんだ……あれ?」
「どうした?」
俺は音楽室の窓に身を乗り出し、指さした。
「ほら、あそこ。誰かいる?」
「先生か?」
「いや、そんなわけないだろ。夜中だぞ?」
カバンを漁りながら、俺は突然ひらめいた。
「そうだ!双眼鏡持ってきてるんだった!」
俺は慌てて鞄から双眼鏡を取り出し、明かりのついた部屋を覗いた。そして次の瞬間
「っ!? あれ、誰か首吊ってるかもしれねぇ!!」
レンズの向こう側に映ったのは、首を吊る女性の姿だった。
「……マジかよ。確かあの教室、南校舎の科学実験室だよな?」
「ああ!行こう!」
俺たちは音楽室を飛び出し、南校舎へ向かって全速力で駆け出した。
「ここだ!!」
俺は科学実験室の扉に手をかけ、力いっぱい押した。しかし――
「くっそ、開かねぇ!!」
「鍵が閉まってるのか。」
廉が冷静に言うが、俺の焦りは抑えきれなかった。
「ああ、もう!こんなのぶち壊してやる!」
近くにあった刺股を手に取り、窓ガラスを思い切り叩き割る。ガラス片が散らばる音が夜の静寂を破った。俺は割れた窓から手を入れ、内側の鍵を外して扉を開け放った。
その瞬間――目の前に広がった光景に、息を飲む。
蝋燭の弱い光で照らされた部屋の中央には、同じ制服を着た女性がいた。彼女は天井の柱と壁の柱をつなぐ紐で縛られ、まるで十字架に張り付けられたように宙に浮かんでいる。暗い部屋に、その姿だけが異様に浮かび上がり、言葉を失わせる光景だった。
「……自殺か?」
廉がぽつりとつぶやくが、俺の頭は混乱していた。恐怖と現実感のなさに呑まれながらも、なぜか吸い寄せられるように教室の中へ足を踏み入れた。
数歩進むと、廉が何かに気づいた。
「おい、近くに遺書がある。」
「……そうか。」
初めて見る凄惨な現場に、俺の声はかすれる。さらに教室を見回すと、バケツでひっくり返したように足元に濡れた部分があるのに気がついた。
「……水か?」
床にしゃがみ込み、視線を巡らせると、その近くに何かが転がっていた。
「廉、警察を呼んでくれ。」
「は?何言ってんだよ。」
廉が驚いて俺を見るが、俺はその場に膝をついたまま言葉を続けた。
「これは、自殺じゃない。他殺だ。」
「よし!依頼開始だ!」
「依頼開始!じゃねぇ!!なんで俺までこんなことに巻き込まれなきゃいけねぇんだ!」
隣で廉が大きく怒鳴る。その声が夜道に響き、俺は思わず肩をすくめた。
「どうどう!落ち着けって。俺、幽霊とかマジで怖いんだよ。だからお前が一緒だと安心するんだって!」
「……っ。くそ……」
ちらっと見えた廉の横顔が、一瞬赤くなったような気がした。舌打ちをしたあと、何故かそっぽを向いて歩き始める。
「さっさと行くぞ。どうせ何もねぇだろ。」
「お、おう!じゃあ行こうか!ワトソン君!」
「……誰がワトソンだよ。」
「気にしない気にしない!名コンビで解決するってことでさ!」
俺は軽く肩を叩き、歩き出す。廉の不満げな顔を見ていると、少し申し訳なくなるが、それでも彼が一緒に来てくれたことに心から感謝している。
俺たちは校門をくぐり抜け、学校の探索を始めた。当然、学校は閉まっている。だが昼間のうちに、先生が見逃しがちな裏口の鍵を内側から開けておいたおかげで、簡単に侵入できた。
「なぁ、悲鳴ってどこから聞こえるって話だ?」
廉が不思議そうに尋ねる。俺はポケットから渡された手紙を取り出し、確認した。
「音楽室らしいな。そこだけ見たら、すぐ帰ろう。」
「当たり前だ。明日も学校だってのに、用もなくこんなとこウロウロしてられるかよ。しかも眠いし。」
俺たちは四階にある音楽室を目指して歩き出す。正直、めちゃくちゃ怖い。俺は思わず廉の手を握り続けた。
「……怖いなら依頼引き受けんなよ。」
「バカ!エロ本のためなら火の中、水の中にだって行くに決まってんだろ!」
「……はぁ。お前って奴は……」
そんなやりとりをしながら音楽室にたどり着く。恐怖心を振り払うように、俺は思い切って扉を開けた。
「失礼します!!!」
けれど当然、返事なんてない。廉は無言でスタスタと教室に入ると、ピアノを開けたり、壁に飾られた絵をじろじろ眺めたりし始めた。
「……何もねぇな。」
「当たり前だろ。どうせホラ話だって。」
「じゃ、帰るぞ。」
「おう!」
俺たちはそのまま帰ろうとした――その時だった。数歩歩いたところで、反対側の校舎に謎の明かりが見えた。
「なんだ……あれ?」
「どうした?」
俺は音楽室の窓に身を乗り出し、指さした。
「ほら、あそこ。誰かいる?」
「先生か?」
「いや、そんなわけないだろ。夜中だぞ?」
カバンを漁りながら、俺は突然ひらめいた。
「そうだ!双眼鏡持ってきてるんだった!」
俺は慌てて鞄から双眼鏡を取り出し、明かりのついた部屋を覗いた。そして次の瞬間
「っ!? あれ、誰か首吊ってるかもしれねぇ!!」
レンズの向こう側に映ったのは、首を吊る女性の姿だった。
「……マジかよ。確かあの教室、南校舎の科学実験室だよな?」
「ああ!行こう!」
俺たちは音楽室を飛び出し、南校舎へ向かって全速力で駆け出した。
「ここだ!!」
俺は科学実験室の扉に手をかけ、力いっぱい押した。しかし――
「くっそ、開かねぇ!!」
「鍵が閉まってるのか。」
廉が冷静に言うが、俺の焦りは抑えきれなかった。
「ああ、もう!こんなのぶち壊してやる!」
近くにあった刺股を手に取り、窓ガラスを思い切り叩き割る。ガラス片が散らばる音が夜の静寂を破った。俺は割れた窓から手を入れ、内側の鍵を外して扉を開け放った。
その瞬間――目の前に広がった光景に、息を飲む。
蝋燭の弱い光で照らされた部屋の中央には、同じ制服を着た女性がいた。彼女は天井の柱と壁の柱をつなぐ紐で縛られ、まるで十字架に張り付けられたように宙に浮かんでいる。暗い部屋に、その姿だけが異様に浮かび上がり、言葉を失わせる光景だった。
「……自殺か?」
廉がぽつりとつぶやくが、俺の頭は混乱していた。恐怖と現実感のなさに呑まれながらも、なぜか吸い寄せられるように教室の中へ足を踏み入れた。
数歩進むと、廉が何かに気づいた。
「おい、近くに遺書がある。」
「……そうか。」
初めて見る凄惨な現場に、俺の声はかすれる。さらに教室を見回すと、バケツでひっくり返したように足元に濡れた部分があるのに気がついた。
「……水か?」
床にしゃがみ込み、視線を巡らせると、その近くに何かが転がっていた。
「廉、警察を呼んでくれ。」
「は?何言ってんだよ。」
廉が驚いて俺を見るが、俺はその場に膝をついたまま言葉を続けた。
「これは、自殺じゃない。他殺だ。」
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