13 / 37
第13話
しおりを挟む
目を覚ますと、見慣れた茶色の天井が視界に入った。隣では、上半身裸の歩夢が穏やかな寝息を立てている。
「おはよう、歩夢君。」
そっと彼の頬に触れると、彼はまぶたをゆっくりと開けた。
「おはようございます、先輩。」
「起こしちゃった?」
「いえ、そんなことないですよ。それに、昨日の先輩…めちゃくちゃ可愛くて、エッチでした。」
歩夢は俺の頭を軽く撫でると、優しくキスをしてきた。そのまま彼はベッドから立ち上がり、私服に着替え始める。
「じゃあ、俺これから早番なんで、先に出勤しますね。先輩は遅番だからって遅刻しないでくださいよ?」
「わかってるよ。もう、からかわないでよ。」
思わず口を膨らませて不貞腐れた俺に、歩夢は笑いながら再びキスをしてきた。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
歩夢が部屋を出ていくのを見送りながら、俺は心の中にじんわりと温かさが広がるのを感じていた。
遅番だった俺は、いつもよりゆっくりと支度をしてから病院に向かった。仕事に集中するために気を引き締めながら、駐車場に車を停めて降りる。歩夢がいない時間帯の静かな病院には、どこか穏やかな空気が漂っていた。
そんな空気を背負いながら俺は歩き出し、駐車場を出たところで不意に耳元で声がした。
「よ、久しぶりだな、裕貴。」
ゾクッと背筋が凍る。振り返ると、そこには見慣れた顔が立っていた。光だ。以前とは違う、どこか狂気を孕んだ表情を浮かべている。
「光…どうしてここに?」
「どうしてって、お前に会いに来たんだよ。そんな冷たいこと言うなよ。」
光は一歩、また一歩と俺に近づいてくる。その瞳には、不気味なほどの執着が宿っていた。
「俺、ずっと考えてたんだよ。裕貴を手放すなんて、やっぱり間違いだったってな。」
「俺たちはもう終わったはずだ。離婚届も送っただろ?」
「そんな紙切れで俺たちの関係が終わるわけないだろ?」
光の声は低く、けれど冷たさが滲んでいた。
「やめてくれ…俺はもう新しい生活を始めてるんだ。お前とは関係ない。」
「そう思ってるのはお前だけだよ。」
その言葉と同時に、光が俺の腕を掴んだ。その力は尋常ではなく、逃げようとしてもビクともしない。
「裕貴、俺はお前のすべてを知ってる。どこにいるか、誰と一緒にいるか、何をしてるか…全部な。」
「な…に…?」
俺の心臓が跳ね上がる。不穏な言葉に息が詰まりそうだった。光は歪んだ笑みを浮かべ、耳元で囁く。
「これからもずっと、お前のそばにいるからさ例えお前が嫌がってもな。」
恐怖が全身を駆け巡る中、光は不気味な余裕を見せながらどんどんと俺に歩み寄ってくる。俺は徐々に後退し、自分の車のドアに背中を押し付けられた。その瞬間、光が俺を強引に抱きしめてきた。
「離してよ!!やめて!!」
「嫌がるなよ。俺たち夫婦なんだぞ?」
「もう終わったの!諦めてよ!」
必死に抵抗して、俺は彼の胸を力いっぱい押し返した。ようやくその腕から抜け出した俺は、恐怖に駆られてその場を離れようと全力で走り出す。
「裕貴!逃げられると思うなよ!」
後ろから光の声が追いかけてくる。息を切らしながら振り向くと、光が不敵な笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてきていた。その顔に浮かぶ狂気に、全身が竦む。
「ダメだ…追いつかれる!」
必死に走り続けて病院の正面玄関へとたどり着いた俺は、職員専用エリアへのドアを目指す。手が震え、ポケットからセキュリティカードを取り出すのに手間取った。背後から近づいてくる光の気配を感じるたびに、焦りでカードが何度も指から滑り落ちる。
「早く…早く…!」
ようやくカードを読み取り機にスライドさせると、ドアがカチリと開く音がした。俺は勢いよくドアを開け、内側に駆け込む。
「裕貴、開けろ!逃げられると思うな!」
光の怒声が響く中、俺はドアを勢いよく閉めてロックした。その場に座り込み、大きく肩で息をする。ようやく安全な場所に逃げ込めた安堵感と、これからどうすればいいのかわからない不安で、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「歩夢君に…相談しなきゃ…」
震える声でそう呟きながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。
光の怒声が響く中、俺はドアを勢いよく閉めてロックした。その場に座り込み、大きく肩で息をする。ようやく安全な場所に逃げ込めた安堵感と、これからどうすればいいのかわからない不安で、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
震える手でポケットからスマートフォンを取り出し、歩夢君の名前を表示させる。
「歩夢君…助けて…」
震える指で通話ボタンに触れようとした瞬間、背後から誰かの影が俺に覆いかぶさるように差し込んだ。
俺は息を呑み、振り向くこともできずその場に凍りついた。
「おはよう、歩夢君。」
そっと彼の頬に触れると、彼はまぶたをゆっくりと開けた。
「おはようございます、先輩。」
「起こしちゃった?」
「いえ、そんなことないですよ。それに、昨日の先輩…めちゃくちゃ可愛くて、エッチでした。」
歩夢は俺の頭を軽く撫でると、優しくキスをしてきた。そのまま彼はベッドから立ち上がり、私服に着替え始める。
「じゃあ、俺これから早番なんで、先に出勤しますね。先輩は遅番だからって遅刻しないでくださいよ?」
「わかってるよ。もう、からかわないでよ。」
思わず口を膨らませて不貞腐れた俺に、歩夢は笑いながら再びキスをしてきた。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
歩夢が部屋を出ていくのを見送りながら、俺は心の中にじんわりと温かさが広がるのを感じていた。
遅番だった俺は、いつもよりゆっくりと支度をしてから病院に向かった。仕事に集中するために気を引き締めながら、駐車場に車を停めて降りる。歩夢がいない時間帯の静かな病院には、どこか穏やかな空気が漂っていた。
そんな空気を背負いながら俺は歩き出し、駐車場を出たところで不意に耳元で声がした。
「よ、久しぶりだな、裕貴。」
ゾクッと背筋が凍る。振り返ると、そこには見慣れた顔が立っていた。光だ。以前とは違う、どこか狂気を孕んだ表情を浮かべている。
「光…どうしてここに?」
「どうしてって、お前に会いに来たんだよ。そんな冷たいこと言うなよ。」
光は一歩、また一歩と俺に近づいてくる。その瞳には、不気味なほどの執着が宿っていた。
「俺、ずっと考えてたんだよ。裕貴を手放すなんて、やっぱり間違いだったってな。」
「俺たちはもう終わったはずだ。離婚届も送っただろ?」
「そんな紙切れで俺たちの関係が終わるわけないだろ?」
光の声は低く、けれど冷たさが滲んでいた。
「やめてくれ…俺はもう新しい生活を始めてるんだ。お前とは関係ない。」
「そう思ってるのはお前だけだよ。」
その言葉と同時に、光が俺の腕を掴んだ。その力は尋常ではなく、逃げようとしてもビクともしない。
「裕貴、俺はお前のすべてを知ってる。どこにいるか、誰と一緒にいるか、何をしてるか…全部な。」
「な…に…?」
俺の心臓が跳ね上がる。不穏な言葉に息が詰まりそうだった。光は歪んだ笑みを浮かべ、耳元で囁く。
「これからもずっと、お前のそばにいるからさ例えお前が嫌がってもな。」
恐怖が全身を駆け巡る中、光は不気味な余裕を見せながらどんどんと俺に歩み寄ってくる。俺は徐々に後退し、自分の車のドアに背中を押し付けられた。その瞬間、光が俺を強引に抱きしめてきた。
「離してよ!!やめて!!」
「嫌がるなよ。俺たち夫婦なんだぞ?」
「もう終わったの!諦めてよ!」
必死に抵抗して、俺は彼の胸を力いっぱい押し返した。ようやくその腕から抜け出した俺は、恐怖に駆られてその場を離れようと全力で走り出す。
「裕貴!逃げられると思うなよ!」
後ろから光の声が追いかけてくる。息を切らしながら振り向くと、光が不敵な笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてきていた。その顔に浮かぶ狂気に、全身が竦む。
「ダメだ…追いつかれる!」
必死に走り続けて病院の正面玄関へとたどり着いた俺は、職員専用エリアへのドアを目指す。手が震え、ポケットからセキュリティカードを取り出すのに手間取った。背後から近づいてくる光の気配を感じるたびに、焦りでカードが何度も指から滑り落ちる。
「早く…早く…!」
ようやくカードを読み取り機にスライドさせると、ドアがカチリと開く音がした。俺は勢いよくドアを開け、内側に駆け込む。
「裕貴、開けろ!逃げられると思うな!」
光の怒声が響く中、俺はドアを勢いよく閉めてロックした。その場に座り込み、大きく肩で息をする。ようやく安全な場所に逃げ込めた安堵感と、これからどうすればいいのかわからない不安で、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「歩夢君に…相談しなきゃ…」
震える声でそう呟きながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。
光の怒声が響く中、俺はドアを勢いよく閉めてロックした。その場に座り込み、大きく肩で息をする。ようやく安全な場所に逃げ込めた安堵感と、これからどうすればいいのかわからない不安で、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
震える手でポケットからスマートフォンを取り出し、歩夢君の名前を表示させる。
「歩夢君…助けて…」
震える指で通話ボタンに触れようとした瞬間、背後から誰かの影が俺に覆いかぶさるように差し込んだ。
俺は息を呑み、振り向くこともできずその場に凍りついた。
58
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれβの恋の諦め方
めろめろす
BL
αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。
努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。
世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。
失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。
しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。
あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?
コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。
小説家になろうにも掲載。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
八月は僕のつがい
やなぎ怜
BL
冬生まれの雪宗(ゆきむね)は、だからかは定かではないが、夏に弱い。そして夏の月を冠する八月(はつき)にも、弱かった。αである八月の相手は愛らしい彼の従弟たるΩだろうと思いながら、平凡なβの雪宗は八月との関係を続けていた。八月が切り出すまでは、このぬるま湯につかったような関係を終わらせてやらない。そう思っていた雪宗だったが……。
※オメガバース。性描写は薄く、主人公は面倒くさい性格です。
年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜
ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。
成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。
「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」
23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。
モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。
そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。
「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」
「十八歳になるまで我慢してた」
「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」
年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。
夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。
年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。
これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる