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8話目 コンビニの事務所、部屋の中、二人の少女、僕は今、咆哮する。

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「なん、ですかこれ?」



僕は今、戦慄で顔が引きつっているのではないだろうか?

「ん〜、何だと思う?」

「あの時に撮った、写真ですよね?」

「当たり〜。これ凄く鹿呂くんがやったように見えない?」

不安が脳内を過ぎる。それはどんどん身体を蝕んでいく。

「それ、どうするつもり、ですか?」

「えへへ〜、想像ついちゃったかな?」

すると彼女は一層悪い笑顔になる。悪役が本性を剥き出しにするように。










「これで、鹿呂くんを脅そっかなっ♪」











座っているのに、立ち眩みがした。吐き気もする。
貧血なのだろうか?
弱いところを見せるつもりはないが、自分のこれからを考えると恐怖でしかない。
何を強要されるのだろう?
僕の身体が慄き畏怖する。

僕と海老名さんの会話がピンときていない熊ちゃんは、不思議そうに首を傾げている。

「心配しなくても〜、そんな怖いことはさせないよっ♪」

「か、金ならありませんよ僕!?」





「そんなものは価値が低いよ〜。僕は君に興味があるんだぞっ♪」





その言葉に、何度目かも分からないぐらいに顔を青ざめる。

「……気持ち悪っ」

本音が漏れてしまった。

「流石に熊も引きますよ……」

熊は理解に至ったのか、身震いしている。こんな状況で言うことではないが愛くるしい。

僕は一息ついてから状況を整理する。

「つ、つまり、熊ちゃんは助けてあげれるってことですか?」

「自分の心配よりおちびちゃんの心配〜?女らしいね、鹿呂くん」

……男らしいと言う意味であろう。

「困ってる人が居たら助けるのが常識です」

「犯罪者を匿う子が現れて〜、困ってるのは僕の方だよ〜?」

「貴方の方が悪者に見えてくるじゃないですか。それに何やら僕達には言えない事情があるみたいですしね」

すると、海老名さんは僕の顔をジロジロと見だす。何か顔に張り付いているのだろうか?

「な、なんですか?」

「いや〜、鹿呂くんは本当に男の子なのかな〜って思ったんだよ。正直に言えば出来過ぎた天使みたいだよ〜」

そう言いながら、僕の顔を引っ張ったり突いたりと、好き勝手する。

……鬱陶しい。
そう思った僕は反撃に出る。
口元に指が近づいた瞬間、思い切り齧り付く。
すると、

「やば〜い、男の子に指齧られちゃったよ〜!!もうこの手が洗えなくなっちゃうじゃん!!」

……逆効果であった。

「ハァッ、ハァッ、もっと強く噛んでよ〜。ねぇ〜ってば〜」

腕に絡みついてくる海老名。息遣いが荒い。
女性が苦手な僕にとっては一種のホラーである。

「ヒイィィ!」

情けない声を出してしまったが許してほしい。
腕から離そうとすると、逆の腕にも何かが絡みついて来た。

「こ、こんなことになったのは、ゆ、熊のせいです!だ、から、熊に罰を!腕を噛んでください!」

何だこのプレーは。

「ちょ、離れてっ!!」

「この際、もう捕まっても良しとしようじゃないか!こんなに男の子に触れれる機会なんて一生回ってこないかもしれないし~!」

「ホン、トにやめてください!!」

可愛い系少女と、小悪魔系美少女に絡まれているのに素直に喜べない。
僕は頭が爆発しそうになり、





「もういい!!警察呼ぶっ!!」





箍が外れた。
絡まる二人を無理矢理引き剥がし、ケータイに手をかける。……涙目で。

「ちょ、ちょっと待ってください!ゆ、熊を助けてくれるんじゃなかったんででですか?!」

「そ、そうだよ?!落ち着こう鹿呂くん!!僕達が悪かったからさ~!!」

ボリュームはでかくなっているが、海老名さんはまだどこか楽し気な声色であった。

「そうですよ!!貴方達が全て悪いんです!!何で僕が熊ちゃんを助けようとして脅されているんですか?!それも貴方ちゃんと反省してますか?!もっと反省した顔になりなさいよ?!嫌、今からしてももう遅い!!皆んな捕まっちゃえばいいんだ!!」

「ゆ、熊が悪いことしたのは謝るから早まらないでよ、お兄さんっ!!」

「お願いだから行かないでくれ、お兄ちゃんっ!」

そこで、僕は立ち上がっていた身体を、ゆっくりとイスに座らせる。
とても無理難題な表情で。

「……貴方にお兄ちゃん呼ばわりされると虫唾が走ります」

「それで止まったの~?!」

「それ、とはなんですか?!お兄ちゃんと呼んでいいのは年下と決まっているでしょうが!年上に言われるなんて気持ち悪い」

「は、話が逸れていますよ~……」

熊ちゃんのか細い声に、我に返る。
二人から一旦距離を取り、脱線した路線に戻って来る。

「次、近づいたら呼びますからね」

何を、とは言わせない。熊ちゃんはしょんぼりとした顔になり、海老名さんはつまらなさそうにする。自業自得だ。

「本当にこれで最後ですからね――」





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





情けない話である。僕は少女一人の為に身を投げ売ってしまったのだ。
僕にはそれよりも、あの先輩に言いくるめられたことが気に食わない。結局、僕の写真は海老名さんのケータイに残ったまま、熊ちゃんは無事解放された。被害が出たのは僕だけなのである。解放条件として、僕は嫌々交換した。何故か熊ちゃんとも交換したのだが、気にしないでいいだろう。恩を返してもらう時に役立つはずだ。
コンビニを出た頃には、もう登校時間はかなり前に過ぎていた。完全に遅刻である。
コンビニの近くにある公園で、僕は致し方なく電話を入れる。通話先は僕の担任である泉 犀華(いずみ さいか)だ。この電話番号は僕がこの世界に来る前からケータイに入っていた。何らかの仲であったのだろう。
ケータイの先からは幼女に似た可愛らしい声が慌てている。僕がこないことに心配してくれているのだろう。
僕は通話を切り、眼の前の人物を見据える。
そこにいるのは、暗い表情でこちらを見ようとしない、一人の少女であった。




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