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愛の為に
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カウンセラーは喉を鳴らすと、直貴の中にいる創一様に向かって話しかけた。彼は、全てを見守っているはずだから。
「創一くん、出てきてくれるかな……」
その言葉を受け、直貴の目線が焦点が合わなくなり、ゆらゆらと躰が揺れ、やがて瞼が重くなって閉じられた。
次に目を開けた時、そこには凛とした雰囲気が漂っていた。
「私に、用事ですか」
「素直くんを、呼び出してもらえないかな」
創一様は一瞬チラッと僕を見つめてから、頷いた。
「分かりました」
再び瞼が閉じ、人格交替が始まった。
「夕貴お兄ちゃま……お別れ、なんだね」
目を開けた直は寂しそうにしながらも、覚悟を決めたようにそう言った。脅威だった母親の死を受け止め、父親からの愛情を与えられた直にはもう、自分の役割が終わったことが分かっていた。
僕はせり上がってきそうになる涙を堪えながら、首を軽く振った。
「直、お別れじゃないよ。直はずっといなくならない。ちゃんと、直貴の中に生き続けるから……僕は傍にいて、いつでも直を感じていられる」
僕の言葉に、直は嬉しそうな笑みを見せた。
「夕貴お兄ちゃま。楽しかった……またね」
健気な直の言葉に、耐えていた涙が一気に溢れ出す。
「ウッ、ウッ……直!! 直!!……あり、がと……ヒック」
直がいたから、僕は直貴への実らぬ辛い想いを秘めていても明るく過ごせることが出来たんだよ。甘えてくれる直が、頼ってくれる直が、僕にとってどれだけ癒しになって、どれだけ大きな存在だったか、言い尽くせないよ……
本当に、本当に大好きなんだ。直、僕に出会ってくれてありがとう。
言葉にして言いたいのに、それは嗚咽にしかならなくて……それでも優しい直は、分かっているよというように、僕の頬を撫で、それからそっとそこに口づけをした。
「夕貴お兄ちゃま、ずっと大好きだよ……」
意識が薄れていく直が、涙で滲んでよく見えない。
「ウッ、ウッ……な、お……直……」
必死で手を伸ばした僕の手を取ってくれたのは……直貴だった。
「大丈夫。ここに、いるよ。
僕の中に、素直くんはいる……」
「創一くん、出てきてくれるかな……」
その言葉を受け、直貴の目線が焦点が合わなくなり、ゆらゆらと躰が揺れ、やがて瞼が重くなって閉じられた。
次に目を開けた時、そこには凛とした雰囲気が漂っていた。
「私に、用事ですか」
「素直くんを、呼び出してもらえないかな」
創一様は一瞬チラッと僕を見つめてから、頷いた。
「分かりました」
再び瞼が閉じ、人格交替が始まった。
「夕貴お兄ちゃま……お別れ、なんだね」
目を開けた直は寂しそうにしながらも、覚悟を決めたようにそう言った。脅威だった母親の死を受け止め、父親からの愛情を与えられた直にはもう、自分の役割が終わったことが分かっていた。
僕はせり上がってきそうになる涙を堪えながら、首を軽く振った。
「直、お別れじゃないよ。直はずっといなくならない。ちゃんと、直貴の中に生き続けるから……僕は傍にいて、いつでも直を感じていられる」
僕の言葉に、直は嬉しそうな笑みを見せた。
「夕貴お兄ちゃま。楽しかった……またね」
健気な直の言葉に、耐えていた涙が一気に溢れ出す。
「ウッ、ウッ……直!! 直!!……あり、がと……ヒック」
直がいたから、僕は直貴への実らぬ辛い想いを秘めていても明るく過ごせることが出来たんだよ。甘えてくれる直が、頼ってくれる直が、僕にとってどれだけ癒しになって、どれだけ大きな存在だったか、言い尽くせないよ……
本当に、本当に大好きなんだ。直、僕に出会ってくれてありがとう。
言葉にして言いたいのに、それは嗚咽にしかならなくて……それでも優しい直は、分かっているよというように、僕の頬を撫で、それからそっとそこに口づけをした。
「夕貴お兄ちゃま、ずっと大好きだよ……」
意識が薄れていく直が、涙で滲んでよく見えない。
「ウッ、ウッ……な、お……直……」
必死で手を伸ばした僕の手を取ってくれたのは……直貴だった。
「大丈夫。ここに、いるよ。
僕の中に、素直くんはいる……」
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