89 / 108
ガラス越しに見えたもの
5
しおりを挟む
扉を開けると、かつて僕が過ごした部屋の扉を開ける。
「直貴!!」
僕は走って直貴に抱きついた。
「ゆ、夕貴……」
直貴は突然現れた僕に、目を白黒させた。
「やっと、僕のこと好きだって言ってくれたね。嬉しい、直貴。嬉しいよ……」
「い、いやっ、それは……」
『違う』と否定しかけた直貴に、貴之叔父さんが首を振る。直貴がそれを見て、ハッとした。
「うん……夕貴が、好きだ……」
直貴の頬に触れる。
「これからは、ずっと一緒だよ。僕が、直貴の傍にずっといるから……直貴を、僕が守ってあげるから」
微笑んだ直貴の瞳が、次第に虚ろになっていく。
躰が左右に揺れ、瞳を閉じると、カッと見開かれる。
「夕貴! ってめぇ!!俺たちを裏切りやがったな!!」
「勝、太……」
「あのカウンセラーのおっさんに説明された。直貴の人格を取り戻させるためには、俺たちに眠ってもらわなきゃいけないってな。
俺は、絶対に夕貴がそんなことさせるわけねぇって信じてた。お前を、信じてたのに……お前にとって大切なのは、やっぱり直貴だけだったんじゃねーか!!」
「違う!!」
僕は否定したけど、勝太の怒りは収まらなかった。
「なんですぐに迎えに来なかった? なんで、直貴にだけ会いにきたんだ。
俺たちは……俺たちは、お前に会いたくて……直なんか、寂しくてずっと泣いてたんだぞ!! お前の『愛してる』って言葉は、そんなもんなのかよ!!」
勝太は僕の首根っこを掴み、ギリギリと首を絞めた。
すかさず、貴之おじさんと眼鏡の男が駆け寄り、勝太を引き剥がす。
「ハァッ、ハァッ……僕はっ! 僕は、裏切るつもりなんて……」
そう言いながらも、頭が混乱してくる。
僕は直貴だけじゃなく、勝太だって、直だって、ロイヤルだって、ダリアだって、創一様だって愛してる。でも、もし僕が直貴を愛し、直貴に愛されることを望めば、他の人格を否定することになるの?
「ふっざけんな!! 俺には俺の思いがあんだ!!」
勝太は唯一自由に出来る足で、テーブルを蹴飛ばした。黄花梨に繊細な装飾が施された高価な骨董品が、あっけなくガターンと大きな音を立てて倒れる。
そこへ扉が乱暴に開かれ、雷が落とされた。
「この馬鹿もんが!! 何をしておる!! 直貴には会うなと言ったじゃろーが!! 今すぐこの部屋を出て行け!!」
天をも切り裂くような怒りの声に、勝太でさえも静まり返る中、僕はお祖父様を見上げた。
「お祖父様、今は直貴じゃなくて勝太だよ」
「どっちがどっちなんて知るか!! さっさと出て行け!!」
「分かったよ、お祖父様」
僕は、やれやれと立ち上がった。
歩きかけた僕の腕を、勝太が掴む。
「また、俺の元からいなくなるのか?」
振り向くと、まるで捨て犬のような憐れみを誘う瞳に、胸が切なく絞られる。
僕は小さく微笑み、勝太の頭を撫でた。
「必ずまた、会いに来るから……」
勝太は苦しそうに眉を顰め、俯いた。
「勝太、大好きだよ……」
そう言いかけた言葉は、僕の喉元からせり上がったものの、声に出さずに押し戻された。
お祖父様に軽く頭を下げ、扉を出て行く。
必ず、ここに戻ってくるから……
「直貴!!」
僕は走って直貴に抱きついた。
「ゆ、夕貴……」
直貴は突然現れた僕に、目を白黒させた。
「やっと、僕のこと好きだって言ってくれたね。嬉しい、直貴。嬉しいよ……」
「い、いやっ、それは……」
『違う』と否定しかけた直貴に、貴之叔父さんが首を振る。直貴がそれを見て、ハッとした。
「うん……夕貴が、好きだ……」
直貴の頬に触れる。
「これからは、ずっと一緒だよ。僕が、直貴の傍にずっといるから……直貴を、僕が守ってあげるから」
微笑んだ直貴の瞳が、次第に虚ろになっていく。
躰が左右に揺れ、瞳を閉じると、カッと見開かれる。
「夕貴! ってめぇ!!俺たちを裏切りやがったな!!」
「勝、太……」
「あのカウンセラーのおっさんに説明された。直貴の人格を取り戻させるためには、俺たちに眠ってもらわなきゃいけないってな。
俺は、絶対に夕貴がそんなことさせるわけねぇって信じてた。お前を、信じてたのに……お前にとって大切なのは、やっぱり直貴だけだったんじゃねーか!!」
「違う!!」
僕は否定したけど、勝太の怒りは収まらなかった。
「なんですぐに迎えに来なかった? なんで、直貴にだけ会いにきたんだ。
俺たちは……俺たちは、お前に会いたくて……直なんか、寂しくてずっと泣いてたんだぞ!! お前の『愛してる』って言葉は、そんなもんなのかよ!!」
勝太は僕の首根っこを掴み、ギリギリと首を絞めた。
すかさず、貴之おじさんと眼鏡の男が駆け寄り、勝太を引き剥がす。
「ハァッ、ハァッ……僕はっ! 僕は、裏切るつもりなんて……」
そう言いながらも、頭が混乱してくる。
僕は直貴だけじゃなく、勝太だって、直だって、ロイヤルだって、ダリアだって、創一様だって愛してる。でも、もし僕が直貴を愛し、直貴に愛されることを望めば、他の人格を否定することになるの?
「ふっざけんな!! 俺には俺の思いがあんだ!!」
勝太は唯一自由に出来る足で、テーブルを蹴飛ばした。黄花梨に繊細な装飾が施された高価な骨董品が、あっけなくガターンと大きな音を立てて倒れる。
そこへ扉が乱暴に開かれ、雷が落とされた。
「この馬鹿もんが!! 何をしておる!! 直貴には会うなと言ったじゃろーが!! 今すぐこの部屋を出て行け!!」
天をも切り裂くような怒りの声に、勝太でさえも静まり返る中、僕はお祖父様を見上げた。
「お祖父様、今は直貴じゃなくて勝太だよ」
「どっちがどっちなんて知るか!! さっさと出て行け!!」
「分かったよ、お祖父様」
僕は、やれやれと立ち上がった。
歩きかけた僕の腕を、勝太が掴む。
「また、俺の元からいなくなるのか?」
振り向くと、まるで捨て犬のような憐れみを誘う瞳に、胸が切なく絞られる。
僕は小さく微笑み、勝太の頭を撫でた。
「必ずまた、会いに来るから……」
勝太は苦しそうに眉を顰め、俯いた。
「勝太、大好きだよ……」
そう言いかけた言葉は、僕の喉元からせり上がったものの、声に出さずに押し戻された。
お祖父様に軽く頭を下げ、扉を出て行く。
必ず、ここに戻ってくるから……
0
お気に入りに追加
446
あなたにおすすめの小説
イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる