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ガラス越しに見えたもの
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貴之叔父さんは少し間を空けてから、話し出した。
「直貴のことを心配して……夕貴くんが、僕を探し出してくれたんだよ」
ナイス、叔父さん!
僕が二丁目で男を漁ってるついでに偶然叔父さんに会ったという事実を伏せてくれ、一安心した。
「そう、だったんだ……夕貴が……」
貴之叔父さんは、ハァーッと大きく息を吐き出した。
「夕貴くんは、直貴のことが好きだと告白してきたよ。そして、それを恥じることも隠すこともなく、お祖父様に告げたとも」
「ッッ……」
直貴は驚きのあまり、声も出ないようだ。
貴之叔父さんは、自嘲した笑みを浮かべた。
「夕貴くんには、まったくまいるよ。僕が長年かかって出来なかったことを、いとも簡単にやってのけてしまうんだから。しかも……従兄弟同士だというのに。
僕には、一生かかっても出来る気がしない」
うーん、これは褒められてるって受け取っていいわけ?
「夕貴が、お祖父様にまで言うなんて……本当に夕貴は、僕のことが好きなの?」
貴之叔父さんは困った笑みを浮かべた。
「そんなに気になるのなら、本人に聞いてごらん。
直貴は、どうなんだい?」
直貴の躰がピクッと震える。
「僕……僕は……」
直貴の言葉に期待する気持ちもありながら、また拒絶されるのだろうなと、僕は考えていた。
「僕にとって、夕貴は……大切な、人だよ」
大、切な……
直貴の言葉は、琴線に触れたようにキーンと心の中に鳴り響いた。
貴之叔父さんは、柔らかい笑みを浮かべた。
「大切な、人なんだね」
「そう、大切な人……なんだ……」
ゆっくりと噛み締めるように、直貴がその言葉を繰り返す。
「夕貴は、いつだって僕の傍にいてくれた。寂しい時だって、悲しい時だって、苦しい時や逃げ出したくなるような時だって……いつでもそこに夕貴がいてくれたから……僕は、ここまで生きてこられた」
その言葉には、重みがあった。
直貴は思い出を手繰るような、遠い目つきをした。
「勉強も出来て、スポーツも出来て、ピアノも水泳もなんでもこなしてしまう夕貴は、僕の憧れだった。一時期はそんな彼に劣等感を抱いて苦しくなることもあったけど、彼への憧憬は消えることはなかった。
年齢が上がるにつれて、夕貴の僕への依存度、束縛が強まっていったけど、心の中では夕貴に独占されていることを喜んでいた。彼が、僕のことだけ考えればいいのにって思ってた」
直貴……そんな風に、感じていたの?
胸がジーンと熱くなって、思わず涙が溢れそうになった。
そんな僕とは裏腹に、直貴は険しい表情を見せる。
「こんな思い、抱いちゃいけないのに……間違ってる。否定しなきゃ。拒絶しなきゃ……そう思っても、止められなくて。恋愛感情も、肉体への欲望も……膨らむばかりで。母さんを、悲しませたくないのに。怒らせたくないのに。
僕は……僕は、いい子でいなくちゃいけないのに……ウッ、ウッ……」
直貴は顔を両手で覆い、肩を震わせた。貴之叔父さんが、直貴の肩に手を置く。
「こんなことを言っては、糸子に済まないが……彼女はもう、亡くなった人間だ。いつまでも母さんに縛られて生きる必要はないんだ」
直貴の肩が小さく震える。
「でも……でも……僕は……」
「いいんだよ。直貴の心のままに生きて。僕に言う権利なんてないけど……同性を好きであることを、夕貴くんを好きであることを否定しないで欲しい。たとえ否定して誤魔化しながら生きても……いつか、それを後悔する日が来るから。僕のようにね」
「父さん……」
「僕は目を背け、逃げてしまったけど……どうか、直貴には逃げないで欲しい。ちゃんと、愛する人と向き合って欲しいんだ」
僕は、堪らず部屋を飛び出した。
「直貴のことを心配して……夕貴くんが、僕を探し出してくれたんだよ」
ナイス、叔父さん!
僕が二丁目で男を漁ってるついでに偶然叔父さんに会ったという事実を伏せてくれ、一安心した。
「そう、だったんだ……夕貴が……」
貴之叔父さんは、ハァーッと大きく息を吐き出した。
「夕貴くんは、直貴のことが好きだと告白してきたよ。そして、それを恥じることも隠すこともなく、お祖父様に告げたとも」
「ッッ……」
直貴は驚きのあまり、声も出ないようだ。
貴之叔父さんは、自嘲した笑みを浮かべた。
「夕貴くんには、まったくまいるよ。僕が長年かかって出来なかったことを、いとも簡単にやってのけてしまうんだから。しかも……従兄弟同士だというのに。
僕には、一生かかっても出来る気がしない」
うーん、これは褒められてるって受け取っていいわけ?
「夕貴が、お祖父様にまで言うなんて……本当に夕貴は、僕のことが好きなの?」
貴之叔父さんは困った笑みを浮かべた。
「そんなに気になるのなら、本人に聞いてごらん。
直貴は、どうなんだい?」
直貴の躰がピクッと震える。
「僕……僕は……」
直貴の言葉に期待する気持ちもありながら、また拒絶されるのだろうなと、僕は考えていた。
「僕にとって、夕貴は……大切な、人だよ」
大、切な……
直貴の言葉は、琴線に触れたようにキーンと心の中に鳴り響いた。
貴之叔父さんは、柔らかい笑みを浮かべた。
「大切な、人なんだね」
「そう、大切な人……なんだ……」
ゆっくりと噛み締めるように、直貴がその言葉を繰り返す。
「夕貴は、いつだって僕の傍にいてくれた。寂しい時だって、悲しい時だって、苦しい時や逃げ出したくなるような時だって……いつでもそこに夕貴がいてくれたから……僕は、ここまで生きてこられた」
その言葉には、重みがあった。
直貴は思い出を手繰るような、遠い目つきをした。
「勉強も出来て、スポーツも出来て、ピアノも水泳もなんでもこなしてしまう夕貴は、僕の憧れだった。一時期はそんな彼に劣等感を抱いて苦しくなることもあったけど、彼への憧憬は消えることはなかった。
年齢が上がるにつれて、夕貴の僕への依存度、束縛が強まっていったけど、心の中では夕貴に独占されていることを喜んでいた。彼が、僕のことだけ考えればいいのにって思ってた」
直貴……そんな風に、感じていたの?
胸がジーンと熱くなって、思わず涙が溢れそうになった。
そんな僕とは裏腹に、直貴は険しい表情を見せる。
「こんな思い、抱いちゃいけないのに……間違ってる。否定しなきゃ。拒絶しなきゃ……そう思っても、止められなくて。恋愛感情も、肉体への欲望も……膨らむばかりで。母さんを、悲しませたくないのに。怒らせたくないのに。
僕は……僕は、いい子でいなくちゃいけないのに……ウッ、ウッ……」
直貴は顔を両手で覆い、肩を震わせた。貴之叔父さんが、直貴の肩に手を置く。
「こんなことを言っては、糸子に済まないが……彼女はもう、亡くなった人間だ。いつまでも母さんに縛られて生きる必要はないんだ」
直貴の肩が小さく震える。
「でも……でも……僕は……」
「いいんだよ。直貴の心のままに生きて。僕に言う権利なんてないけど……同性を好きであることを、夕貴くんを好きであることを否定しないで欲しい。たとえ否定して誤魔化しながら生きても……いつか、それを後悔する日が来るから。僕のようにね」
「父さん……」
「僕は目を背け、逃げてしまったけど……どうか、直貴には逃げないで欲しい。ちゃんと、愛する人と向き合って欲しいんだ」
僕は、堪らず部屋を飛び出した。
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