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ガラス越しに見えたもの
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眼鏡を掛けた男に連れられ、直貴……いや、誰なんだろう。まだこの時点では分からない……が、僕からよく見える位置の方の椅子に腰掛けさせられた。
そして、その向かいには貴之叔父さんが座った。
貴之叔父さんを見ても動揺していないってことは、直貴じゃないってことだ。
そう、だ……この、手の組み方。凛と伸ばされた美しい背中。そして、自信に満ち溢れた物腰……
「初めまして。創一と申します」
スピーカーから聞こえてきた懐かしい創一様の声に、僕の胸が一気に熱くなり、椅子からおりるとガラスに手をついた。
創一様! 創一様!!
こんなに、近くにいるのに……
貴之叔父さんは実の息子に別の名前を名乗られ、しかも『初めまして』と言われて戸惑いつつも、小さく頭を下げた。
「な、直貴の父親の……貴之、です」
どうやら、基本人格の直貴は表に出ることを拒否しているため、創一様が表に出て主人格としてコントロールしているようだった。
先ほどの眼鏡の男が二人の間に立ち、創一様に声を掛ける。
「直貴くんを、呼び出して頂けますか?」
創一様は一瞬、眉根を寄せたが、そっと睫毛を伏せてから目を上げた。
「呼び出しに応じるか分かりませんが……やってみましょう」
創一様の瞳が微睡むように重くなり、ゆっくりと頭が左右に揺れる。暫くすると、ガクンと首が落ちた。
けれど、いくら待っても直貴は現れない。創一様が説得するのに、時間がかかっているということなんだろうか。
不安が渦巻きながら見守っていると、ゆっくりと顔を上げるのが見えた。
すると、見る見る間にその瞳に涙が溢れ出す。
「お父さんっっ!!」
直貴はガタンと椅子から下り、向かいに座っていた貴之叔父さんの首に抱きついた。
「よかっ……ウッウッ……帰ってきた……おと、さん……ウッ……僕、捨てられたのかと、思って……ウゥッ僕、が、いい子じゃ……ない、から……」
まるで幼い子供のように泣きじゃくる姿を見て、ハッとした。
違う、これは直貴じゃない。
直だ。
抱きつかれた貴之叔父さんは戸惑いつつも、おそるおそる直の頭にゆっくりと手を置いた。
「すまな、かった……お前のことを、ずっと放ったらかしにして。逃げ出して……ごめん。ごめん、な……」
「ウッ、ウッ……お父さーん!!お父さーん!!わぁぁぁぁあああああっっ!!」
直は溢れ出した感情のままに咆哮をあげた。貴之叔父さんは、頭に置いていた手を今度は両手でしっかりと抱き締める。
「お前に……辛い、思いをさせて済まなかった……僕の……僕、の……せい、だ……」
「お父さん……僕のこと、嫌いになったわけじゃない?」
貴之叔父さんは嗚咽を飲み込むと、大きく頷き、直貴を抱き締める腕に力を込めた。
「嫌いになるわけないじゃないか……ずっと……ずっと、済まないと心の中で思っていた。どうしているのかと、会いたいと、思っていたよ……」
直は、心から安心したように微笑んだ。
「よかった……」
それから、ゆっくりと瞳を閉じる。直の躰が、静かにゆらゆらと揺れ始めた。
人格が交替する合図なのだと知らない貴之叔父さんは、驚いたように直を見つめ、急にぐったりとした直の躰をしっかりと抱き締めた。
「直貴!! 直貴!! どうしたんだ!?」
ゆっくりと躰が持ち上がり、叔父さんを見つめた途端、ビクッと大きく揺れる。
「父、さん……なの?」
蒼白になって目を見開く彼こそ、直貴だった。
そして、その向かいには貴之叔父さんが座った。
貴之叔父さんを見ても動揺していないってことは、直貴じゃないってことだ。
そう、だ……この、手の組み方。凛と伸ばされた美しい背中。そして、自信に満ち溢れた物腰……
「初めまして。創一と申します」
スピーカーから聞こえてきた懐かしい創一様の声に、僕の胸が一気に熱くなり、椅子からおりるとガラスに手をついた。
創一様! 創一様!!
こんなに、近くにいるのに……
貴之叔父さんは実の息子に別の名前を名乗られ、しかも『初めまして』と言われて戸惑いつつも、小さく頭を下げた。
「な、直貴の父親の……貴之、です」
どうやら、基本人格の直貴は表に出ることを拒否しているため、創一様が表に出て主人格としてコントロールしているようだった。
先ほどの眼鏡の男が二人の間に立ち、創一様に声を掛ける。
「直貴くんを、呼び出して頂けますか?」
創一様は一瞬、眉根を寄せたが、そっと睫毛を伏せてから目を上げた。
「呼び出しに応じるか分かりませんが……やってみましょう」
創一様の瞳が微睡むように重くなり、ゆっくりと頭が左右に揺れる。暫くすると、ガクンと首が落ちた。
けれど、いくら待っても直貴は現れない。創一様が説得するのに、時間がかかっているということなんだろうか。
不安が渦巻きながら見守っていると、ゆっくりと顔を上げるのが見えた。
すると、見る見る間にその瞳に涙が溢れ出す。
「お父さんっっ!!」
直貴はガタンと椅子から下り、向かいに座っていた貴之叔父さんの首に抱きついた。
「よかっ……ウッウッ……帰ってきた……おと、さん……ウッ……僕、捨てられたのかと、思って……ウゥッ僕、が、いい子じゃ……ない、から……」
まるで幼い子供のように泣きじゃくる姿を見て、ハッとした。
違う、これは直貴じゃない。
直だ。
抱きつかれた貴之叔父さんは戸惑いつつも、おそるおそる直の頭にゆっくりと手を置いた。
「すまな、かった……お前のことを、ずっと放ったらかしにして。逃げ出して……ごめん。ごめん、な……」
「ウッ、ウッ……お父さーん!!お父さーん!!わぁぁぁぁあああああっっ!!」
直は溢れ出した感情のままに咆哮をあげた。貴之叔父さんは、頭に置いていた手を今度は両手でしっかりと抱き締める。
「お前に……辛い、思いをさせて済まなかった……僕の……僕、の……せい、だ……」
「お父さん……僕のこと、嫌いになったわけじゃない?」
貴之叔父さんは嗚咽を飲み込むと、大きく頷き、直貴を抱き締める腕に力を込めた。
「嫌いになるわけないじゃないか……ずっと……ずっと、済まないと心の中で思っていた。どうしているのかと、会いたいと、思っていたよ……」
直は、心から安心したように微笑んだ。
「よかった……」
それから、ゆっくりと瞳を閉じる。直の躰が、静かにゆらゆらと揺れ始めた。
人格が交替する合図なのだと知らない貴之叔父さんは、驚いたように直を見つめ、急にぐったりとした直の躰をしっかりと抱き締めた。
「直貴!! 直貴!! どうしたんだ!?」
ゆっくりと躰が持ち上がり、叔父さんを見つめた途端、ビクッと大きく揺れる。
「父、さん……なの?」
蒼白になって目を見開く彼こそ、直貴だった。
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