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本家での窮屈な生活をようやく終え、僕はお祖父様の用意した邸宅へと幸田の運転する車で向かっていた。僕の隣には可愛い直が座り、目を爛々と輝かせて外の景色を夢中で見ていた。
「夕貴お兄ちゃまぁー!! 見て、海が見えるー!! わぁー、僕、海見たのって初めてーーっっ!!」
興奮する直を抱き寄せ、僕はクスリと微笑んだ。
「そっか、直は海を見るのが初めてなんだね。でもね、これが最後になるんだよ」
「え……どうして?」
直は車窓に向けていた顔を、僕に向けた。
僕は、直の頬を優しく掌で包み込んだ。
「だって、これからはずっと僕たちは屋敷の中で過ごすことになるんだ。外に出ては行けないから……そうしないと、悪いおじさんが直を連れてって、僕たちは会えなくなっちゃうんだよ」
「そんなの、絶対嫌!!」
涙目になって訴える直に、顔を寄せる。
「僕だって、直と離れるなんて耐えられない……だから、約束守って?」
「うん、分かった」
直は笑顔になると、小指を僕に向けた。
「夕貴お兄ちゃま、指切りしよ?」
僕は、思わず微笑んだ。
これからの生活は、幸せに満ちた甘いものになるはず……
それは、大学生になり新しい暮らしを始めた時の期待に満ちた予感ではなく、確信だった。
ーーだって、直貴が現れることはないから。
直貴は、自殺未遂以降現れていない。ダリアの話では、深く眠り続けているのだという。
僕を拒否し、世界を拒否し、自分でいることを拒否してしまった直貴。
可哀想な、可哀想な……直貴。
大丈夫だよ。僕は、眠っている直貴ごと愛してあげるから……
車は有名な避暑地に入った。時計台のあるモダンな駅舎が迫り、そこから縦に走っている商店街をゆっくりと走りながら、立ち並ぶお土産屋やカフェ、雑貨店なんかを眺める。商店街を抜けると可愛らしいペンションや民宿、ホテルが続く。
なんか、旅行に来てるみたいだ……
僕の隣で、勝太が大声を上げた。
「腹減ったー。なんか、飯食ってこーぜ!」
「駄目だよ。お祖父様の命令で、目的地に着くまではトイレ以外はどこにも寄っちゃいけないことになってるんだ。
これから僕たちは、世間から身を隠すことになるんだから」
僕がそう言うと、勝太はチッと舌打ちしながらも、大人しく座り直した。
車は爽やかな林の広がる高原を駆け抜けていく。少し窓を開けると、森の香りが一気に車内に吹き込んできた。
「いやん、髪が乱れちゃう」
ダリアはオレンジのウィッグを手で抑えつけた。それから手鏡を手にし、化粧ポーチからファンデーションを取り出した。
じっと見ている僕に向かって、ダリアが照れたように鏡で僕を押し退けた。
「やぁだぁ、スッピン恥ずかしいんだから、じろじろ見ないでよぉ!」
「クスッ……ダリアは何もしなくても綺麗だよ」
ダリアは僕との時間が増えるようになるにつれて、ウィッグを愛用し、化粧をするようになった。大抵は人格が交替する前に仮装は解くんだけど、忘れてそのままの時は大変だ。
ロイヤルは悪い気はしないみたいだけど、勝太はギャーギャー騒ぎ出す。直は……気づかないうちに、僕が拭き取ってあげてる。
「私たちの愛の巣、楽しみね。ウフッ……」
ダリアは真っ赤な口紅を塗ると、僕の頬にキスマークをべっとりとつけた。
「うん、僕も楽しみだよ」
車は別荘地さえも抜けて、いまだひた走っていた。私有地の看板が目に入り、そこから山道へと入る。車酔いしそうな程にグルグルと頂上に向けて走り、クラクラと目眩がしそうになったところでようやく停車した。
「Ta-da! We are here!(ジャーン、着いた!)」
ロイヤルは珍しく子供のようにはしゃぐと嬉しそうに僕の手を取り、車を降りた。
『あぁー、すごく気持ちいい空気だね。さすが、山の上って感じだよ』
ロイヤルは疲れも見せず、大きく両腕を上げて伸びをした。
そんなロイヤルの爽やかな雰囲気とは対照的に、僕たちの目の前には高い鉄の柵格子に囲まれ、巨大な門を構えた鬱々とした大きな洋館が聳え立っていた。まるで、ゴーストマンションだ。
ここが、僕たちがこれから住むところか……
「夕貴お兄ちゃまぁー!! 見て、海が見えるー!! わぁー、僕、海見たのって初めてーーっっ!!」
興奮する直を抱き寄せ、僕はクスリと微笑んだ。
「そっか、直は海を見るのが初めてなんだね。でもね、これが最後になるんだよ」
「え……どうして?」
直は車窓に向けていた顔を、僕に向けた。
僕は、直の頬を優しく掌で包み込んだ。
「だって、これからはずっと僕たちは屋敷の中で過ごすことになるんだ。外に出ては行けないから……そうしないと、悪いおじさんが直を連れてって、僕たちは会えなくなっちゃうんだよ」
「そんなの、絶対嫌!!」
涙目になって訴える直に、顔を寄せる。
「僕だって、直と離れるなんて耐えられない……だから、約束守って?」
「うん、分かった」
直は笑顔になると、小指を僕に向けた。
「夕貴お兄ちゃま、指切りしよ?」
僕は、思わず微笑んだ。
これからの生活は、幸せに満ちた甘いものになるはず……
それは、大学生になり新しい暮らしを始めた時の期待に満ちた予感ではなく、確信だった。
ーーだって、直貴が現れることはないから。
直貴は、自殺未遂以降現れていない。ダリアの話では、深く眠り続けているのだという。
僕を拒否し、世界を拒否し、自分でいることを拒否してしまった直貴。
可哀想な、可哀想な……直貴。
大丈夫だよ。僕は、眠っている直貴ごと愛してあげるから……
車は有名な避暑地に入った。時計台のあるモダンな駅舎が迫り、そこから縦に走っている商店街をゆっくりと走りながら、立ち並ぶお土産屋やカフェ、雑貨店なんかを眺める。商店街を抜けると可愛らしいペンションや民宿、ホテルが続く。
なんか、旅行に来てるみたいだ……
僕の隣で、勝太が大声を上げた。
「腹減ったー。なんか、飯食ってこーぜ!」
「駄目だよ。お祖父様の命令で、目的地に着くまではトイレ以外はどこにも寄っちゃいけないことになってるんだ。
これから僕たちは、世間から身を隠すことになるんだから」
僕がそう言うと、勝太はチッと舌打ちしながらも、大人しく座り直した。
車は爽やかな林の広がる高原を駆け抜けていく。少し窓を開けると、森の香りが一気に車内に吹き込んできた。
「いやん、髪が乱れちゃう」
ダリアはオレンジのウィッグを手で抑えつけた。それから手鏡を手にし、化粧ポーチからファンデーションを取り出した。
じっと見ている僕に向かって、ダリアが照れたように鏡で僕を押し退けた。
「やぁだぁ、スッピン恥ずかしいんだから、じろじろ見ないでよぉ!」
「クスッ……ダリアは何もしなくても綺麗だよ」
ダリアは僕との時間が増えるようになるにつれて、ウィッグを愛用し、化粧をするようになった。大抵は人格が交替する前に仮装は解くんだけど、忘れてそのままの時は大変だ。
ロイヤルは悪い気はしないみたいだけど、勝太はギャーギャー騒ぎ出す。直は……気づかないうちに、僕が拭き取ってあげてる。
「私たちの愛の巣、楽しみね。ウフッ……」
ダリアは真っ赤な口紅を塗ると、僕の頬にキスマークをべっとりとつけた。
「うん、僕も楽しみだよ」
車は別荘地さえも抜けて、いまだひた走っていた。私有地の看板が目に入り、そこから山道へと入る。車酔いしそうな程にグルグルと頂上に向けて走り、クラクラと目眩がしそうになったところでようやく停車した。
「Ta-da! We are here!(ジャーン、着いた!)」
ロイヤルは珍しく子供のようにはしゃぐと嬉しそうに僕の手を取り、車を降りた。
『あぁー、すごく気持ちいい空気だね。さすが、山の上って感じだよ』
ロイヤルは疲れも見せず、大きく両腕を上げて伸びをした。
そんなロイヤルの爽やかな雰囲気とは対照的に、僕たちの目の前には高い鉄の柵格子に囲まれ、巨大な門を構えた鬱々とした大きな洋館が聳え立っていた。まるで、ゴーストマンションだ。
ここが、僕たちがこれから住むところか……
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