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喪心
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「落ち着くんだ!! 今、隊員が中に人がいないか確認している!!」
中に入ろうと暴れる直貴が大柄な消防士にがっしりと腕を組まれながらももがき、叫んでいた。
「母さん!! かあさーーんっっ!!」
僕は人混みをかき分けると、直貴の腰にしがみついた。
「直貴!! 危険だから、行こう」
「やだ!! やだっっ!! 母さんが、中に!!」
「家の中にいるとは限らない。こんな炎じゃ中に入るなんて無理だ。行こう」
「ッグ嫌だ!! 嫌だ!! 母さーん!!」
僕ひとりじゃ、とても直貴を制御できない。
その時、執事の幸田が警護の人間を連れてやってきた。
「夕貴坊っちゃま、直貴坊っちゃま……ご無事でなによりです。本家にまいりましょう」
直貴は警護の男に担がれ、少し離れた場所に停めてあった黒塗りの車の後部座席に無理やり押し込まれた。僕は素早く直貴の隣に滑り込んだ。
「嫌だっ!! 母さーん!! 母さーん!!」
必死で叫ぶ直貴に警護が当て身をくらわせ、直貴は気を失った。
ハンドルを握る幸田がフロントガラス越しに黒煙を見つめ、大きく息を吐いた。
「会長が、お待ちです」
直貴は一時的に気を失わせられたため、まだ足取りが覚束ない。
本家に戻り、玄関の扉を幸田が開けると、そこにはお祖父様が待ち構えていた。
僕たちの顔を見た途端に駆け寄り、ふたりまとめて抱き締められる。
「お前達!! 無事で……無事で、よかった」
僕にならまだしも、いつもは素っ気ない態度を見せる直貴にまで愛情の籠もった態度を見せたことに、内心驚いた。
裏切られたとはいえ、愛していた息子の忘れ形見。心の底では、お祖父様は直貴のことを愛しているんだ。
でも、そんな予想外のお祖父様の行動に驚く余裕もないほど、直貴はパニックになっていた。
「母さんが!! 母さんがあの炎の中に!! お祖父様、母さんを助けてください!!」
直貴は泣き崩れた。
「ウグッ……ウゥッ、ウッウッ、母さ……ッッ」
「直貴……」
大きく肩を震わせて嗚咽を漏らす直貴を、僕は優しく抱き締めた。
幸田がお祖父様の後ろから、遠慮がちに小声で話しかける。
「分家の使用人は前日に暇を出されていたそうで、あの屋敷には糸子様しかおられなかったようです」
「そうか……」
お祖父様は気難しそうな表情を浮かべた。そりゃそうだ。もし自殺や他殺なんてことになったら、松ノ内家に関わる一大事だ。
その時、肩を震わせて泣いていた直貴の嗚咽が止んだ。僕の肩に寄りかかるようにしてだらんとなり、瞳が虚ろになっている。
っ……こんなところで人格が交替したら、お祖父様に知られちゃう。
「直貴が気分悪いみたいだから、部屋に連れて行くね」
僕は警備の男に直貴を担がせ、急いで部屋に運ぶように命令した。
玄関ホールを出て階段を上がる途中、直貴の躰がムクッと起き上がった。
ヤバい、どうしよう……
中に入ろうと暴れる直貴が大柄な消防士にがっしりと腕を組まれながらももがき、叫んでいた。
「母さん!! かあさーーんっっ!!」
僕は人混みをかき分けると、直貴の腰にしがみついた。
「直貴!! 危険だから、行こう」
「やだ!! やだっっ!! 母さんが、中に!!」
「家の中にいるとは限らない。こんな炎じゃ中に入るなんて無理だ。行こう」
「ッグ嫌だ!! 嫌だ!! 母さーん!!」
僕ひとりじゃ、とても直貴を制御できない。
その時、執事の幸田が警護の人間を連れてやってきた。
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「嫌だっ!! 母さーん!! 母さーん!!」
必死で叫ぶ直貴に警護が当て身をくらわせ、直貴は気を失った。
ハンドルを握る幸田がフロントガラス越しに黒煙を見つめ、大きく息を吐いた。
「会長が、お待ちです」
直貴は一時的に気を失わせられたため、まだ足取りが覚束ない。
本家に戻り、玄関の扉を幸田が開けると、そこにはお祖父様が待ち構えていた。
僕たちの顔を見た途端に駆け寄り、ふたりまとめて抱き締められる。
「お前達!! 無事で……無事で、よかった」
僕にならまだしも、いつもは素っ気ない態度を見せる直貴にまで愛情の籠もった態度を見せたことに、内心驚いた。
裏切られたとはいえ、愛していた息子の忘れ形見。心の底では、お祖父様は直貴のことを愛しているんだ。
でも、そんな予想外のお祖父様の行動に驚く余裕もないほど、直貴はパニックになっていた。
「母さんが!! 母さんがあの炎の中に!! お祖父様、母さんを助けてください!!」
直貴は泣き崩れた。
「ウグッ……ウゥッ、ウッウッ、母さ……ッッ」
「直貴……」
大きく肩を震わせて嗚咽を漏らす直貴を、僕は優しく抱き締めた。
幸田がお祖父様の後ろから、遠慮がちに小声で話しかける。
「分家の使用人は前日に暇を出されていたそうで、あの屋敷には糸子様しかおられなかったようです」
「そうか……」
お祖父様は気難しそうな表情を浮かべた。そりゃそうだ。もし自殺や他殺なんてことになったら、松ノ内家に関わる一大事だ。
その時、肩を震わせて泣いていた直貴の嗚咽が止んだ。僕の肩に寄りかかるようにしてだらんとなり、瞳が虚ろになっている。
っ……こんなところで人格が交替したら、お祖父様に知られちゃう。
「直貴が気分悪いみたいだから、部屋に連れて行くね」
僕は警備の男に直貴を担がせ、急いで部屋に運ぶように命令した。
玄関ホールを出て階段を上がる途中、直貴の躰がムクッと起き上がった。
ヤバい、どうしよう……
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