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罪の意識

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 目を開けたのは、直貴だった。

「夕、貴……ぼ、ぼく……」

 直貴は僕の上で呆然としていた。

 スウェットを下にずらしただけの直貴に対し、真っ裸の僕。全身には噛まれた赤い歯型が残り、しかも首には赤い痣が出ていることだろう。

 そして、繋がった直貴の男塊と僕の後孔。どう見ても、直貴が手酷く僕を犯しているようにしか見えない。

「ぼ、僕……僕……ハァッ、ハァッ……僕は、夕貴を……犯したの、か?」

 直貴の全身が、激しく痙攣し始めた。
 
 僕は痛みを堪えて躰を起こし、優しく直貴を抱き締めた。

「ちが……違う、直貴じゃない」
「う、嘘だ……ハァッ、ハァッだって、だって、僕……ッッ」

 激しい震えが止まらない。顔から血の気がなくなり、唇まで紫になっていた。

 直貴を抱き締める腕に力を込めた。

「お願い、直貴……聞いて。君の中に、別の人格がいるんだ」
「何言ってるんだ!? そんなわけないだろう!! これは、どう見ても僕がやったんだ!! どう、して……どうして……そ、んな……ありえない。男同志、なのに!!」

 直貴は鼻息を荒くし、頭を抱えて首を振った。まるで、これは夢だと自分に言い聞かせるように。

 突然、『あなたは多重人格者です』なんて言われても、信じられるはずない。

 僕はそこで、直貴の罪の意識を少しでも軽くしようとした。

「直貴……僕は、君が好きだよ。直貴になら、何をされてもいい。だから、罪悪感なんて感じないで」
「ッッ!!」

 直貴の目玉が飛び出そうなぐらいにひん剥かれる。

 僕は、ずっと心の奥に閉じ込めていた彼への想いを、ずっと言うまいと誓っていたその想いを、直貴に打ち明けてしまった。

「男同士なんて、関係無い。従兄弟としてでも、友達としてでもなく、僕は直貴をひとりの男として愛してるよ」
「そ、んな……嘘だ。うそうそうそ……だめだ、そんなの……」
「ねぇ、直貴だって僕のこと好きなんでしょう? お願い、僕を受け入れてよ」
「ぼ、くが……夕貴を……」

 直貴は一瞬固まった後我に返り、大きく首を振った。

「僕は夕貴を好きにならない。好きになっちゃいけないんだ。男同士の恋愛なんて、ありえない。気持ち悪い。頭が、おかしいんだ……母さんに……母さんに、怒られ……る」

 頭を抱え、大きな体を小さく丸めた。

 ガクガクと震える直貴の背中に、そっと触れた。

「僕が、直貴を守るから。叔母さんになんて、邪魔させない。誰にも僕たちの仲を、引き裂かせたりしない」

 直貴は怯えた目で僕を見つめた。

「お願い……母さんをもうこれ以上虐めないで。母さんは、弱い人なんだ。僕がいなくちゃダメなんだ。傍にいてあげないと……」

 直貴はすっくと立ち上がった。

「どうしたの?」

 僕の声が掠れる。嫌な予感しか、しない。

「母さんのところに、帰る」

 ほら、僕の予感は当たるんだ。

 僕は直貴の手を掴んだ。

「こんな夜中にいきなり出て行くつもり?」
「もう、ここにはいられない……学校も、やめる」
「直貴の母さんだって、いきなり帰ってこられたら何があったんだって心配しちゃうよ。もし、本家の坊ちゃんと何かあったなんて知られたらどうするの?」

 直貴は唇を震わせた。

「夕貴……僕を脅しているのか?」
「心配してるんだよ。いきなり直貴が学生寮を引き払って、高校中退なんてしたらどうなる? せっかくお金を払ってくれてるお祖父様の面目丸潰れだよね。
 叔母さんは、また土下座して謝らなくちゃならなくなる。そんな姿、見たくないでしょ? 僕だって、見たくないよ」
「ック……夕、貴……夕貴はいつもそうやって、僕を追い詰めるんだ……ウゥッ」

 直貴は膝から崩れ、床に突っ伏して肩を震わせた。

 そうだよ。直貴といられるためなら、僕はなんだってするんだ。
 たとえ、直貴に嫌われ、憎まれようとも。

 だって、僕は直貴を愛しているから。
 ねぇ、君とずっといられるためには、どうしたらいいのかな…… 

 僕は肩を震わせる直貴を、じっと見つめていた。

 その夜は、勝太もロイヤルも、直も……誰も現れなかった。
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