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秘めた想い
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2年生の夏休み。
去年はそれぞれ実家に帰省したけど、そこで再び直貴が母親から虐待を受けていたことを知り、今年はお盆だけ帰省して、それ以外は寮で過ごそうと提案した。
「ぇ。でも……母さんが……」
「去年、夏休みに実家帰ったけどさ、うちはどっちの親も結局家にいないし、やることなくて殆ど分家に入り浸ってたじゃん。それだったら、実家に帰る意味ないと思うんだよね。僕、実家には帰んない。
ねぇ、直貴もここにいてよ。僕ひとりじゃ寂しいよ……」
直貴は躊躇っていたけど、最後には頷いた。
「お盆には、絶対に帰るんだよな? ……母さんに、話してくる」
この学生寮は、スマホや携帯の所持が禁止されている。僕は、歓談室に唯一置いてある電話に向かう直貴を笑顔で見送った。
冬休みや春休みは遠くに住んでる学生達が結構寮に残ってるけど、長い夏休みにはほぼ全員が帰省する。僕たちは悠々とふたりだけの生活を楽しんだ。
水泳部の連中が帰った後の誰もいないプールに飛び込んで泳いだり、暗くなった運動場で花火したり、寮の目立たないところにいたずら書きしたり……
直貴は毎回そんな僕の行動を止めようとし、呆れたように見守ってるんだけど、結局僕に巻き込まれて、最後には笑っていた。そんなバカなことをして過ごす毎日が楽しくて、愛おしかった。
まるで、昔の僕たちに戻ったような気がしていた。
僕を好きじゃなくても、こうして友達として直貴が側にいてくれるなら幸せだって思った。それに今は、直も勝太もいてくれるしね。
ある晩、ベッドが軋む音に目が覚めた。静かに足音が近づいてくる。僕は目を閉じて、眠ったふりをした。
「夕貴……」
愛おしげに声をかけられ、頭を優しく撫でられる。
最初、勝太が近づいてきたのだと思っていた。 でも、その声のトーンは……間違いなく、直貴のものだった。
嘘。どうしよ、すごく嬉しい……
僕の胸の鼓動がバクバクと音を立て、興奮を鎮めることが出来ない。僕は、眠ることなく朝を迎えた。
けれど翌朝の直貴は、昨夜のことなどなかったかのような態度だった。
あれは、僕の願望が見せた幻だったのかな……
そんなことを考えて、肩を落とす。
でも、それが幻でも夢でもなかったことが、その日の夜に証明された。
また昨日のようなことが起こらないかと期待し、直貴に戻っていることを確認してから、僕はいつもよりも早くベッドに入った。
「おやすみ、直貴」
「え、もう寝るのか? 今日は早いんだな」
「うん。なんか眠くなってきちゃった」
子供のように欠伸をしてみせた僕に、直貴はクスッと笑う。
「僕も、もう少ししたら寝るから。おやすみ」
ドキドキして眠れるわけがない。それでも心臓を落ち着かせ、深く呼吸をし、眠っているかのように寝息をたてた。
それから、どのぐらいの時間がたっただろう。部屋の明かりが消え、フーッと直貴が息を吐く音が静かに響いた。
僕の元へそっと歩み寄る足音。
「夕貴……もう、寝たのか?」
もちろん僕は、眠ったふりを決め込んだままだ。
僕の髪に、直貴の手が柔らかく差し込まれる。
「夕貴、好きだ……」
小さく呟き、離れていく手。僕の胸が、激しく打ち震えた。
それから、毎晩のように直貴は僕の寝顔を眺めては髪を撫で、愛を囁いて自分のベッドへ戻っていった。
もちろんね、嬉しいよ? 幸せな気持ちになるよ?
でもね、高校生の男なんだよ、僕。そんな風にされたら、もっとそれ以上のことしたいし、されたいって思うのが普通でしょ?
直貴の傍にいられたら、それだけで幸せだって思ってたのに。
直貴の僕への感情を知ってしまったら、それだけでは、満足できなくなってたんだ……
去年はそれぞれ実家に帰省したけど、そこで再び直貴が母親から虐待を受けていたことを知り、今年はお盆だけ帰省して、それ以外は寮で過ごそうと提案した。
「ぇ。でも……母さんが……」
「去年、夏休みに実家帰ったけどさ、うちはどっちの親も結局家にいないし、やることなくて殆ど分家に入り浸ってたじゃん。それだったら、実家に帰る意味ないと思うんだよね。僕、実家には帰んない。
ねぇ、直貴もここにいてよ。僕ひとりじゃ寂しいよ……」
直貴は躊躇っていたけど、最後には頷いた。
「お盆には、絶対に帰るんだよな? ……母さんに、話してくる」
この学生寮は、スマホや携帯の所持が禁止されている。僕は、歓談室に唯一置いてある電話に向かう直貴を笑顔で見送った。
冬休みや春休みは遠くに住んでる学生達が結構寮に残ってるけど、長い夏休みにはほぼ全員が帰省する。僕たちは悠々とふたりだけの生活を楽しんだ。
水泳部の連中が帰った後の誰もいないプールに飛び込んで泳いだり、暗くなった運動場で花火したり、寮の目立たないところにいたずら書きしたり……
直貴は毎回そんな僕の行動を止めようとし、呆れたように見守ってるんだけど、結局僕に巻き込まれて、最後には笑っていた。そんなバカなことをして過ごす毎日が楽しくて、愛おしかった。
まるで、昔の僕たちに戻ったような気がしていた。
僕を好きじゃなくても、こうして友達として直貴が側にいてくれるなら幸せだって思った。それに今は、直も勝太もいてくれるしね。
ある晩、ベッドが軋む音に目が覚めた。静かに足音が近づいてくる。僕は目を閉じて、眠ったふりをした。
「夕貴……」
愛おしげに声をかけられ、頭を優しく撫でられる。
最初、勝太が近づいてきたのだと思っていた。 でも、その声のトーンは……間違いなく、直貴のものだった。
嘘。どうしよ、すごく嬉しい……
僕の胸の鼓動がバクバクと音を立て、興奮を鎮めることが出来ない。僕は、眠ることなく朝を迎えた。
けれど翌朝の直貴は、昨夜のことなどなかったかのような態度だった。
あれは、僕の願望が見せた幻だったのかな……
そんなことを考えて、肩を落とす。
でも、それが幻でも夢でもなかったことが、その日の夜に証明された。
また昨日のようなことが起こらないかと期待し、直貴に戻っていることを確認してから、僕はいつもよりも早くベッドに入った。
「おやすみ、直貴」
「え、もう寝るのか? 今日は早いんだな」
「うん。なんか眠くなってきちゃった」
子供のように欠伸をしてみせた僕に、直貴はクスッと笑う。
「僕も、もう少ししたら寝るから。おやすみ」
ドキドキして眠れるわけがない。それでも心臓を落ち着かせ、深く呼吸をし、眠っているかのように寝息をたてた。
それから、どのぐらいの時間がたっただろう。部屋の明かりが消え、フーッと直貴が息を吐く音が静かに響いた。
僕の元へそっと歩み寄る足音。
「夕貴……もう、寝たのか?」
もちろん僕は、眠ったふりを決め込んだままだ。
僕の髪に、直貴の手が柔らかく差し込まれる。
「夕貴、好きだ……」
小さく呟き、離れていく手。僕の胸が、激しく打ち震えた。
それから、毎晩のように直貴は僕の寝顔を眺めては髪を撫で、愛を囁いて自分のベッドへ戻っていった。
もちろんね、嬉しいよ? 幸せな気持ちになるよ?
でもね、高校生の男なんだよ、僕。そんな風にされたら、もっとそれ以上のことしたいし、されたいって思うのが普通でしょ?
直貴の傍にいられたら、それだけで幸せだって思ってたのに。
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