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異変

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 中等部卒業を1ヶ月前に控えたある日。

 委員会があった僕は、直貴に教室で待ってもらうように伝えていた。

 その頃の僕たちは、従兄弟とも、友達の関係とも違っていた。僕の命令に直貴が従うという、主従関係のような形になっていたんだ。

 僕は、そんな関係を望んでいたわけじゃないけれど、僕が言うことに直貴は決して『ノー』とは言えない。それは、友達としてでも従兄弟としてでもなく、僕が本家の人間だからだ。

 そんなやり取りを続けていくうちに、いつしか僕は直貴の傍にいたいからという一方的な思いを押し付け、彼の心を押し潰していた。それが分かっていても、彼を僕の元に縛り付けていた。

 急いで直貴を待たせている教室に戻り、息を切らせながら教室の扉を開けた。

 すると、直貴は机に突っ伏して寝ていた。

 直貴が寝てるなんて、珍しいな……てか、ここ僕の机じゃん。

 自分が使っている机に直貴の頬が触れてることにドキドキしながら、そっと前の席の椅子を後ろに向けて座った。頬杖をつき、じっと直貴の寝顔を眺める。

 幼い頃は僕の方が背が高かったけど、今では直貴の方が10センチも背が高く、肩幅だって広い。優しく穏やかな性格だけど、顔つきは精悍で男らしい。僕とは正反対だ。

 顔にかかっている前髪に触れても、直貴が起きる気配はなかった。

 このままキスしても、バレないかな……

 僕はそっと、直貴の顔に唇を寄せた。

「おい」

 突然ムクッと直貴が起き上がり、ビクッと震えて躰を起こす。

「なに、寝込み襲ってんだ」

 乱暴な口調に、違和感を覚える。

「き、み……誰?」

 おそるおそる尋ねた僕に、彼はニヤリと口角を上げた。

「俺の名は勝太だ。覚えとけ」

 勝太は、僕たちと同じ年だった。直貴とは違って、活発で明るく、軽口を叩けるような性格だ。

 勝太はきっと、直貴にとっての理想だ。直貴がなれなかった、なりたかった自分……

 僕は、そんな勝太に魅力を感じた。

「なぁ、お前……あいつのこと、好きなのか?」

 体育倉庫にボールを二人で返しに行った時に突然勝太に聞かれ、戸惑った。勝太は二人きりになると、学校でも突然現れることがあった。

「あいつ、って?」
「決まってんだろ。直貴のことだよ」

 直貴は直や勝太と入れ替わっている時の記憶がない。直もまた、今まで直貴について語ったことはなかった。てっきり勝太も直貴のことを知らないだろうと思っていた僕は、ビックリした。

「勝太、直貴を知ってるの?」
「あぁ……あいつは俺と交替した瞬間に眠りについちまうけど、俺はずっと直貴を通じてお前を見てる」

 勝太の言葉に、熱を感じる。

 僕は勝太を見つめ、笑顔を見せた。

「僕の方がずっと、見てるよ……」

 その日を境に、授業中や昼休み、学校の帰りや習い事など、二人きりじゃない時にも勝太は現れるようになった。

 授業中にボーッとしてるかと思うと居眠りしたり、テストの成績が、ある教科だけガクンと落ちていたり。かと思うといきなりバスケや短距離走で活躍したり、クラスの生徒たちに軽口叩いたり……
 
 大人しく控えめだった直貴の突然の変化に、周囲の人間が戸惑いを見せ始めた。
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