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異変
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急に直貴が、僕に甘えてくるようになったのだ。
突然口調が変わり、いつもなら『夕ちゃん』とか、学校では『夕貴』と呼ぶのに、そういう時は『夕貴お兄ちゃま』と呼ぶ。
僕は戸惑いながらも、直貴が僕にだけ心を許し、甘えることのできない両親の代わりとして甘えてくれているんだと思うと嬉しかった。
けれど、後から聞いても直貴はその時のことをまったく覚えていなかった。その部分だけ、記憶がすっぽりと抜けているのだ。
僕は、直貴が病気なんじゃないかと恐くなった。でも、それを誰かに打ち明けるのが怖かった。
もし直貴が病気だと分かって入院することにでもなれば、僕は彼と離れ離れになってしまう。そんなの、絶対に嫌だった。
相変わらず、直貴の幼児返りは続いた。
でも、そのうち僕は気づいた。
幼児返りするのは、僕の前だけだと。彼の中にスイッチがあって、僕に甘えたくなると幼児返りするみたいだった。
それが分かると、僕はますます直貴を好きになった。それに、僕はいつしか、幼児のような直貴をも可愛いし、好きだと思うようになっていた。
直貴なんだけど、直貴とはまた違う、不思議な感覚だった。
幼児の直貴と一緒にいるうちに、喋り方や表情、行動だけではなく、直貴とは異なる好みや趣向があることに気がついた。
ーーまるで、別人のように。
それが顕著になったのは、僕が分家に遊びに来ていた時のことだった。
本家から来る時にテーブルに置いてあったチョコを掴んでポケットに入れておいたのを思い出し、包み紙を取り出した。
すると、直貴が僕の手をじっと見つめた後、甘えるように僕を見上げた。その表情は、いかにも愛らしい幼児のようだった。
「夕貴お兄ちゃま、僕にもチョコレートちょうだい?」
「ぇ。チョコレート、食べれるの?」
「うん、大好き!」
直貴はチョコレートを受け取ると、嬉しそうに包み紙を開け、パクッと口に入れるとモグモグと動かした。その一連の動きを、僕は呆気にとられて見ていた。
「……ねぇ、君は誰なの?」
思わず、そんな言葉が僕の口をついて出た。
すると、幼児の直貴は笑顔で答えた。
「僕は、素直だよ」
「素直……」
まさか、本当に名前を言われるとは思わず、ビックリした。でも、なんだかそれはそれで納得した。
「……ねぇ、これからは素直のこと、直って呼んでもいいかな?」
「うん! 夕貴お兄ちゃまに名前呼んでもらって、嬉しい!」
直は、幼い頃から母親から虐待を受け、父親から捨てられた直貴がその苦しさから逃れるために生まれた人格だった。
直は直貴の痛いこと、苦しいことを全て吸収し、なかったことにして、明るく素直で朗らかに振る舞う。
その痛みを、僕も共有したい……
いつしか僕は、そんな風に考えるようになった。
それから、直と僕は急速に仲良くなった。普段弱みを見せようとしない、おどおどしている直貴が、僕にとびきりの笑顔を見せ、甘え、『夕貴お兄ちゃま、大好き!』と言ってくれることが嬉しくて堪らなかった。
この幸せな秘密が、永遠に続くよう……僕は願っていた。
突然口調が変わり、いつもなら『夕ちゃん』とか、学校では『夕貴』と呼ぶのに、そういう時は『夕貴お兄ちゃま』と呼ぶ。
僕は戸惑いながらも、直貴が僕にだけ心を許し、甘えることのできない両親の代わりとして甘えてくれているんだと思うと嬉しかった。
けれど、後から聞いても直貴はその時のことをまったく覚えていなかった。その部分だけ、記憶がすっぽりと抜けているのだ。
僕は、直貴が病気なんじゃないかと恐くなった。でも、それを誰かに打ち明けるのが怖かった。
もし直貴が病気だと分かって入院することにでもなれば、僕は彼と離れ離れになってしまう。そんなの、絶対に嫌だった。
相変わらず、直貴の幼児返りは続いた。
でも、そのうち僕は気づいた。
幼児返りするのは、僕の前だけだと。彼の中にスイッチがあって、僕に甘えたくなると幼児返りするみたいだった。
それが分かると、僕はますます直貴を好きになった。それに、僕はいつしか、幼児のような直貴をも可愛いし、好きだと思うようになっていた。
直貴なんだけど、直貴とはまた違う、不思議な感覚だった。
幼児の直貴と一緒にいるうちに、喋り方や表情、行動だけではなく、直貴とは異なる好みや趣向があることに気がついた。
ーーまるで、別人のように。
それが顕著になったのは、僕が分家に遊びに来ていた時のことだった。
本家から来る時にテーブルに置いてあったチョコを掴んでポケットに入れておいたのを思い出し、包み紙を取り出した。
すると、直貴が僕の手をじっと見つめた後、甘えるように僕を見上げた。その表情は、いかにも愛らしい幼児のようだった。
「夕貴お兄ちゃま、僕にもチョコレートちょうだい?」
「ぇ。チョコレート、食べれるの?」
「うん、大好き!」
直貴はチョコレートを受け取ると、嬉しそうに包み紙を開け、パクッと口に入れるとモグモグと動かした。その一連の動きを、僕は呆気にとられて見ていた。
「……ねぇ、君は誰なの?」
思わず、そんな言葉が僕の口をついて出た。
すると、幼児の直貴は笑顔で答えた。
「僕は、素直だよ」
「素直……」
まさか、本当に名前を言われるとは思わず、ビックリした。でも、なんだかそれはそれで納得した。
「……ねぇ、これからは素直のこと、直って呼んでもいいかな?」
「うん! 夕貴お兄ちゃまに名前呼んでもらって、嬉しい!」
直は、幼い頃から母親から虐待を受け、父親から捨てられた直貴がその苦しさから逃れるために生まれた人格だった。
直は直貴の痛いこと、苦しいことを全て吸収し、なかったことにして、明るく素直で朗らかに振る舞う。
その痛みを、僕も共有したい……
いつしか僕は、そんな風に考えるようになった。
それから、直と僕は急速に仲良くなった。普段弱みを見せようとしない、おどおどしている直貴が、僕にとびきりの笑顔を見せ、甘え、『夕貴お兄ちゃま、大好き!』と言ってくれることが嬉しくて堪らなかった。
この幸せな秘密が、永遠に続くよう……僕は願っていた。
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