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僕の愛しい騎士団長

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 窓硝子に手を当て、しとしとと降り続ける雨を感じる。 掌の大きさをなぞるように白い熱気が包み込み、濡れた掌から手首、腕を伝って雫がポタリと落ち、白い大理石の床に水滴を散らした。

 降っているのは窓を隔てた下界の筈なのに、雨は僕のいるこの世界をも包み込んでしまったかのようだ。部屋の中にまで雨の匂いが蔓延し、湿った空気が染み込んでいる。

 夜のとばりが降りるように、静かな雨の音がゆっくりと心の中にまで侵食し、支配していく。

 雨は僕を憂鬱にする。だから、梅雨は嫌い。

 ここに閉じ籠って、何もかも遮断したつもりだったのに、僕はまだこうして世の中と繋がっているのだと思い知らされる。

 いつかこの世界に、終わりが来てしまったらどうしよう……

 そんな考えが、過ぎってしまう。

 額を窓硝子に当て、瞳を閉じると睫毛が濡れた。

 僕は祈りを捧げた。

ーーこの世界がいつまでも続きますように、と。

「おい、何辛気臭い顔してんだ」

 気がつくと、僕のすぐ横に勝太の顔があった。いつも乱暴にドアを蹴破るように入ってくるのに、そんな音にすら気づかなかったなんて、重症だ。

「勝太……」

 額を窓硝子から外すと、ツツーッと滴が鼻筋を伝った。

「んだぁ……何やってんだ、お前は!」

 勝太が袖で、わしゃわしゃと水滴を拭き取った。

「いたっ……痛いよ、勝太。もう少し、優しく拭いてよ」
「人が親切にしてやってんのに、文句言うなバカ」

 そんなやり取りをしているうちに、自然に笑顔が溢れていた。軽口を叩き合える勝太といる時は、僕は学生だった頃の自分に戻った錯覚を起こしてしまう。そんなこと、絶対にありえないのに……

 それは、勝太が僕と同じ19歳であるせいかもしれない。

「なに今度はニヤニヤしてんだよ、気持ち悪ぃな」
「本当は、心配してたくせに」
「なっ……誰がお前の心配なんかするか! お前、ほんと自意識過剰だな」
「ふふっ。勝太、分かってるじゃん」
「否定しろよ、そこは!」

 ふと見ると、勝太の足首から下のスキニージーンズが色濃くなっている。

 あーあ、この前僕がプレゼントしてあげた星のスタッズの入ったスニーカーも思いっきり水吸わせちゃってるし。これセレブリティに人気の、結構高級なやつなんだけどな。って言っても、ランプの精にお願いしたんだけど。

「ねぇ勝太……どこか、出掛けたの?」

 声が、上擦る。勝太に気づかれてないといいけど……

 勝太は別に気にする風でもなく、答えた。

「あぁ。気晴らしに屋敷の庭を散歩してた」
「そう、だったんだ……」

 よく見ると、勝太の髪や肩にも少し雨滴がかかっていた。

「濡れてるね……」

 勝太の肩に手を触れると、その手を掴まれた。

「おら、シャワー浴びるぞ」
「勝太ひとりで入ってきなよ。僕はもう、お風呂入ったから……」
 
 勝太は僕の言葉なんて聞く耳持たず、掴んだ手を離すことなくバスルームへと連れていく。いつものことだけどね。

「お前も濡れてるだろ」

 僕はクスッと笑いを溢した。

「素直に、一緒にシャワー浴びたいって言えばいいのに」
「だ、誰がんなこと言うか!」

 顔を真っ赤にして全力で否定する勝太の言動そのものが、僕の言葉を肯定してるんだけどね。

 まったく素直じゃないなぁ、勝太は。そんなとこが可愛いんだけど。

 僕は短く息を吐き、大きくV字に開いた薄手のニットの裾に手を掛けた。

 勝太の熱い視線に気づき、悪戯っぽく笑みを送る。

「何ガン見してんの? 僕の脱ぐところ見て、厭らしい想像してた?」
「もうお前、喋んな!」

 勝太は背を向け、豪快に服を脱ぎ始めた。
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