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高揚
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黒い半透明のフェイス、白地に黄緑のラインが入った電車がゆっくりとホームに到着する。その見た目は実に近代的で、歴史的な街のイメージのウィーンとは対照的で、美姫は内心驚いた。
車内は黒い革張りの重厚な座席がゆったりと配置されていて、とても快適だった。車窓からの景色を楽しんでいる余裕もなく、電車はあっという間にミッテ駅へと到着した。
「ここから歩いてホテルに行くことも出来ますが、20分程かかります。長旅の後ですし、外は寒いですからタクシーに乗りましょう」
美姫は秀一の言葉に、ただ頷くだけだった。
駅を出るとすぐに、シルバーの車体の屋根の上に【TAXI】と黄色の表示がある車が見えた。秀一が窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けて美姫をエスコートしてくれた。
考えてみれば、日本以外で自動ドアのタクシーに乗ったことってないかも……
こういう小さな違いを発見する度に、自分は海外旅行に来ているのだと実感する。秀一がドイツ語で運転手に目的地を告げると、車は緩やかに発進した。
既にすっかり日が暮れたウィーンの街全体はクリスマスムードに包まれ、ライトアップされて華やいだ表情を見せていた。街灯や立ち並ぶ街路樹にはクリスマス用の飾り付けがほどこされ、店の軒先や家々に飾られた電飾やクリスマスツリー、リース、庭に置かれたサンタクロースやトナカイの人形に目を奪われ、見ているだけで楽しくて、小さい子供のように美姫はワクワクしていた。
あ…あのホテル、だよね……
行きの機内で秀一が教えてくれた、ガイドブックに乗っていたのと同じ外観のホテルにタクシーが近付いた……と、思ったら通り過ぎてしまった。
あれっ?私の勘違いだったのかな……
でも先程の秀一さんの話では、ミッテ駅からホテルまでは徒歩20分と言っていたから、タクシーだといくら道が混雑していたとしてもそこまではかからないはず……
「美姫、折角だからウィーン市庁舎を廻ってからホテルへ行きましょう。疲れているでしょうから、今日は車内から見るだけですが……」
「あ、はい…」
秀一さん、私がオーストリアに来るの初めてだから気を回して少し車内観光できるようにしてくれたんだ。車内観光が出来るのも嬉しかったが、秀一の自分に対する気遣いが嬉しく、美姫の胸の奥が温かくなった。
「あれが、ウィーン市庁舎ですよ」
秀一に言われて車窓から外を眺めると、ライトアップされて金色に輝く五つの尖塔が聳える市庁舎が目に入った。中心の尖塔だけが突出して高く聳え立ち、時計塔の役割も果たしていた。市庁舎前の広場には大勢の人々が集まって賑わっていた。そこにはたくさんの店や屋台が立ち並んでいるのが見える。
「今の時期はここで、クリスマスマーケットが開かれるのですよ。今夜は無理ですが、もし美姫が興味があるのなら明日にでも来てみましょうか」
「はい、ぜひ見てみたいです!」
秀一と明日、クリスマスマーケットを覗いている姿を想像し、美姫の胸が踊った。
車内は黒い革張りの重厚な座席がゆったりと配置されていて、とても快適だった。車窓からの景色を楽しんでいる余裕もなく、電車はあっという間にミッテ駅へと到着した。
「ここから歩いてホテルに行くことも出来ますが、20分程かかります。長旅の後ですし、外は寒いですからタクシーに乗りましょう」
美姫は秀一の言葉に、ただ頷くだけだった。
駅を出るとすぐに、シルバーの車体の屋根の上に【TAXI】と黄色の表示がある車が見えた。秀一が窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けて美姫をエスコートしてくれた。
考えてみれば、日本以外で自動ドアのタクシーに乗ったことってないかも……
こういう小さな違いを発見する度に、自分は海外旅行に来ているのだと実感する。秀一がドイツ語で運転手に目的地を告げると、車は緩やかに発進した。
既にすっかり日が暮れたウィーンの街全体はクリスマスムードに包まれ、ライトアップされて華やいだ表情を見せていた。街灯や立ち並ぶ街路樹にはクリスマス用の飾り付けがほどこされ、店の軒先や家々に飾られた電飾やクリスマスツリー、リース、庭に置かれたサンタクロースやトナカイの人形に目を奪われ、見ているだけで楽しくて、小さい子供のように美姫はワクワクしていた。
あ…あのホテル、だよね……
行きの機内で秀一が教えてくれた、ガイドブックに乗っていたのと同じ外観のホテルにタクシーが近付いた……と、思ったら通り過ぎてしまった。
あれっ?私の勘違いだったのかな……
でも先程の秀一さんの話では、ミッテ駅からホテルまでは徒歩20分と言っていたから、タクシーだといくら道が混雑していたとしてもそこまではかからないはず……
「美姫、折角だからウィーン市庁舎を廻ってからホテルへ行きましょう。疲れているでしょうから、今日は車内から見るだけですが……」
「あ、はい…」
秀一さん、私がオーストリアに来るの初めてだから気を回して少し車内観光できるようにしてくれたんだ。車内観光が出来るのも嬉しかったが、秀一の自分に対する気遣いが嬉しく、美姫の胸の奥が温かくなった。
「あれが、ウィーン市庁舎ですよ」
秀一に言われて車窓から外を眺めると、ライトアップされて金色に輝く五つの尖塔が聳える市庁舎が目に入った。中心の尖塔だけが突出して高く聳え立ち、時計塔の役割も果たしていた。市庁舎前の広場には大勢の人々が集まって賑わっていた。そこにはたくさんの店や屋台が立ち並んでいるのが見える。
「今の時期はここで、クリスマスマーケットが開かれるのですよ。今夜は無理ですが、もし美姫が興味があるのなら明日にでも来てみましょうか」
「はい、ぜひ見てみたいです!」
秀一と明日、クリスマスマーケットを覗いている姿を想像し、美姫の胸が踊った。
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