上 下
192 / 1,014
溢れる想い

しおりを挟む
 テラスから室内へと戻り、ふと、華奢な丸ガラスのテーブルの上に乗っていたウエルカムギフトに目がいく。

「わぁっ、可愛いっ……!!!」

 ウェルカムギフトは仕切りのついた長細いお皿にフルーツがお洒落に載せてあり、クリスマスに因んだ飾り付けがされていて華やかだった。別皿の四角い大きな平皿には小さなチョコレートがバランスよく並べられ、このホテルの名物であるミニザッハトルテも載っていた。   

「秀一さん!!ねぇねぇ、ここ見て下さいっ!!」

 ザッハトルテの上にはホテルの刻印を模したチョコレートの飾りが載せられており、『本家』であることを物語っている。

 子供のようにはしゃぐ美姫を見て、秀一がフッと笑みを浮かべた。

「食べて、みますか?」
「あ、はい…じゃあチョコレートを……」

 ザッハトルテも気になったが、これから重いデザートを食べる気にはなれなかった。秀一の指先がチョコレートを摘み上げ、美姫の口元へと優美に運ばれる。

「ん……」

 秀一の指先が少し唇に触れてから、その別れを惜しむようにゆっくりと離れた。

 チョコレートが口に転がり、口のなかの熱にゆっくりと溶かされ、広がっていく。甘さと少しの苦さとそれからオレンジの爽やかな酸味が混ざり合って豊かなハーモニーを生み出し、美姫の脳髄にまでその感覚が広がって行くような錯覚に囚われる。

「どう、ですか?」

 秀一がレンズ越しにライトグレーの瞳をこちらに向けて覗き込む。その妖艶な表情にドキドキと美姫の胸が高鳴る。

「甘みの中にほんのり苦味とオレンジの酸味があって…とても美味しいです……」
「そうですか」

 秀一がにっこりと美姫に向かって微笑んだ。

 でも、私が本当に欲しいのは……

 美姫は俯いたまま、秀一のジャケットを指で小さく摘んだ。少し近付いた距離から、秀一の甘くセクシーな匂いがふわっと美姫の顔の正面を擽るように漂ってきた。

「秀一、さん……」

 どうしよう……声が、震える……

「どうしましたか?」

 優しく応える秀一の声音に美姫は勇気を振り絞り、彼を見上げる。自分を愛しく見つめ返すライトグレーの瞳に心許ない不安な表情を映し出す。

「お願い……です。キス、して…下さい……」

 秀一はその言葉を受け止め、表情を変えることなく美姫を見つめている。

 少しの沈黙の後、艶を帯びた低音の声が落とされた。

「……そんな誘い方をしていいのですか?」

 美姫を見つめる秀一の瞳が色濃くゆらりと揺れる。その艶やかな揺らぎに引き込まれるように、美姫はそっと秀一の胸に手を置いた。

「秀一さんに……触れて、欲しいんです」

 お願い……

 願いを込めて潤んだ瞳で秀一を乞うように見つめた美姫に、ハア…と秀一が溜息をついた。

「私は、ずっと…貴女に触れたくて……それでも、貴女を傷付けたくなくて……自分を抑制してきました。
 一度箍が外れてしまったら……戻せないかもしれないですよ?」

 そう言いながらも、秀一の手が自身の胸に置かれた美姫の手に重なり、もう片方の手の甲が美姫の頬を撫でた。

 美姫の熱が急激に、押し上げられる。

 高まる鼓動が耳に響き渡るのを感じながら、秀一から瞳を逸らさず、美姫はこの旅が始まってから燻り始めた思いを秀一に打ち明けた。

「私の…心と躰が……どうしようもなく、秀一さんのことを求めているんです。近付きたくて、触れたくて、たまらなく......秀一さんが欲しいんです……」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...