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疑念
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明日、引越会社が来て梱包してくれることにはなっているけれど、大事なものは手元に持っておきたいし、下着は見られたくないから持っていかないと……
急いで部屋の扉を開け、靴を脱ぎ捨てるようにして部屋の中へと入った。2週間もの間あけていた部屋は冷たい空気で満たされており、人の気配や生活臭を全て消し去っていた。美姫はベッド脇に重ねてある梱包済の段ボール箱の横に立て掛けてある折り畳まれた段ボール箱をひとつ手に取るとそれを組み立て、ガムテープを貼った。段ボール箱の冷たさが指にジン…と染みて、凍りつきそうだった。
洋服箪笥の一番上の引出しを開け、仕切りごとに入った美しくグラデーションに並べられたブラジャーとパンティーをセットにしてしまってある下着を箱ごと取り出し、段ボール箱に入れた。それからデスクの引き出しの鍵を開け、秀一の写真や手紙、大事なものが一式入った小箱を手に取り、それも入れた。最後に、ベッドの枕脇に置いてあった少しくたびれたテディベアをそっと上に乗せ、段ボール箱の蓋を閉め、ガムテープで留めた。
段ボール箱を持ち上げ、脱ぎ散らかした靴を足の感覚で探り当てて履くと、不自由な手をなんとか扉に近付けてノブを回し、美姫は部屋を出た。鍵をかけるため一旦段ボール箱を床に置こうと腰を曲げていると、後ろに人の気配を感じた。
「美姫?」
その声に、段ボール箱を下ろして、美姫は腰をあげた。
「美姫……2週間も、どうしてたの!?」
久美が顔をクシャッとして、泣きそうな顔で美姫を見つめた。
「ごめ、ん……」
この2週間、美姫は大学の友人にも、薫子や悠……もちろん、大和にも……誰にも連絡をとっていなかった。精神的にも肉体的にもそんな余裕などなかった。大学に戻ると決めた前日も、美姫は久美に連絡するか悩んだものの、何と言っていいかわからず、結局スマホを見つめたまま、指先が触れることはなかった。
久美が、美姫の足下に置いてある段ボール箱に視線を向けた。
「その、荷物……」
「うん、退寮……しようと、思って……」
久美は美姫を穴のあくほど見つめていた。2週間の間何も連絡せず、戻ってきたと思ったらいきなり退寮する美姫を不審に思うのは当然だ。美姫は何も言えず、ただ黙って床の絨毯の染みを見つめていた……
重い沈黙が流れた後、久美の小さく震える声が美姫の上に落とされた。
「ねぇ……知ってる?
礼音、退学になったんだよ……」
「……え?」
タイ…ガク?
「……その様子では……知らなかったん、だね……」
久美が、ふ…と息をつく。
急いで部屋の扉を開け、靴を脱ぎ捨てるようにして部屋の中へと入った。2週間もの間あけていた部屋は冷たい空気で満たされており、人の気配や生活臭を全て消し去っていた。美姫はベッド脇に重ねてある梱包済の段ボール箱の横に立て掛けてある折り畳まれた段ボール箱をひとつ手に取るとそれを組み立て、ガムテープを貼った。段ボール箱の冷たさが指にジン…と染みて、凍りつきそうだった。
洋服箪笥の一番上の引出しを開け、仕切りごとに入った美しくグラデーションに並べられたブラジャーとパンティーをセットにしてしまってある下着を箱ごと取り出し、段ボール箱に入れた。それからデスクの引き出しの鍵を開け、秀一の写真や手紙、大事なものが一式入った小箱を手に取り、それも入れた。最後に、ベッドの枕脇に置いてあった少しくたびれたテディベアをそっと上に乗せ、段ボール箱の蓋を閉め、ガムテープで留めた。
段ボール箱を持ち上げ、脱ぎ散らかした靴を足の感覚で探り当てて履くと、不自由な手をなんとか扉に近付けてノブを回し、美姫は部屋を出た。鍵をかけるため一旦段ボール箱を床に置こうと腰を曲げていると、後ろに人の気配を感じた。
「美姫?」
その声に、段ボール箱を下ろして、美姫は腰をあげた。
「美姫……2週間も、どうしてたの!?」
久美が顔をクシャッとして、泣きそうな顔で美姫を見つめた。
「ごめ、ん……」
この2週間、美姫は大学の友人にも、薫子や悠……もちろん、大和にも……誰にも連絡をとっていなかった。精神的にも肉体的にもそんな余裕などなかった。大学に戻ると決めた前日も、美姫は久美に連絡するか悩んだものの、何と言っていいかわからず、結局スマホを見つめたまま、指先が触れることはなかった。
久美が、美姫の足下に置いてある段ボール箱に視線を向けた。
「その、荷物……」
「うん、退寮……しようと、思って……」
久美は美姫を穴のあくほど見つめていた。2週間の間何も連絡せず、戻ってきたと思ったらいきなり退寮する美姫を不審に思うのは当然だ。美姫は何も言えず、ただ黙って床の絨毯の染みを見つめていた……
重い沈黙が流れた後、久美の小さく震える声が美姫の上に落とされた。
「ねぇ……知ってる?
礼音、退学になったんだよ……」
「……え?」
タイ…ガク?
「……その様子では……知らなかったん、だね……」
久美が、ふ…と息をつく。
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