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後悔
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クリスマス間近の忙しいこの時期に、秀一は今日はオフなのだと言い張り、美姫の傍にずっと付き添った。秀一は足枷を外したが、まだ美姫には罪人のように見えない足枷で繋がれているような気がしていた。躰の痺れはなくなったものの、躰全体が鉛のように重く、動かす度に骨が軋んで痛んだ。頭も未だ靄がかかったようにハッキリしない。それは、媚薬の名残りによるものなのか、激しく愛し合った末の結果なのか、泣き過ぎたからなのか、ぼんやりした頭では考えることが出来なかった。
ダイニングテーブルに用意されたトーストは一口しか齧ることが出来ず、冷めた紅茶と共に置き去りにされたままになっていた。けれど、美姫はそこから立ち上がることが出来ず、ただ放心したように座っていた。
秀一がピアノに向かい、リサイタルの際のような物腰で椅子に座った。後ろを振り返り、美姫に尋ねる。
「何か、リクエストはありますか?」
リクエスト……
「では、『きらきら星』を……」
「隣で聴きますか?」
秀一はそう言うと、美姫が座れるぐらいのスペースを空けてくれた。断れるはずなど、ない。
「あ、はい……」
ダイニングテーブルから重い腰を上げると、足がふらつき、椅子に引っ掛かって美姫は椅子ごと倒れてしまった。
「美姫っ!!」
秀一がピアノの椅子から立ち上がり、駆け付ける。
「怪我は、ありませんか?」
躰全体の骨が軋んでいるので、もし怪我をしていても分からない。けれど、美姫は無理やりに微笑んだ。
「えぇ、大丈夫です……」
秀一は倒れた椅子を起こし、美姫を横抱きにすると、ピアノまで運んだ。
「ここで、聴いていて下さい」
美姫を隣に座らせた後、頭をそっと横倒しにして、膝枕した。それは、美姫が幼い頃、秀一がピアノを弾いている時によくしていた大好きな体勢だった。
「では……」
秀一の細く長い指が鍵盤を弾く。単調なメロディーが響き渡る。単調…けれど、優しくて懐かしい、温かい思い出に包まれた曲。初めて秀一から教えてもらったピアノ曲が『きらきら星』だった。瞳を輝かせて秀一の隣に座り、ひとつひとつ鍵盤を追い掛けて弾いた。この曲のように、あの頃の世界は単調でシンプルだった。
いつのまに……私と秀一さんを取り巻く世界は、こんなにも複雑になってしまったのだろう……
『きらきら星』が終わると、モーツァルト作曲の『きらきら星変奏曲』へと切り替わった。単調だった曲調に様々な変化が加わって展開し、複雑に音が重なり合っていく。美姫は瞼を閉じ、秀一の膝から伝わる体温と震動を感じた。響いてくる旋律に身を委ねていると、閉じた目尻から涙が溢れ出て、秀一の膝を濡らした。
秀一は美姫の流れ落ちる涙を感じながらも、労わるように優しい曲調でピアノを弾き続けた。
ダイニングテーブルに用意されたトーストは一口しか齧ることが出来ず、冷めた紅茶と共に置き去りにされたままになっていた。けれど、美姫はそこから立ち上がることが出来ず、ただ放心したように座っていた。
秀一がピアノに向かい、リサイタルの際のような物腰で椅子に座った。後ろを振り返り、美姫に尋ねる。
「何か、リクエストはありますか?」
リクエスト……
「では、『きらきら星』を……」
「隣で聴きますか?」
秀一はそう言うと、美姫が座れるぐらいのスペースを空けてくれた。断れるはずなど、ない。
「あ、はい……」
ダイニングテーブルから重い腰を上げると、足がふらつき、椅子に引っ掛かって美姫は椅子ごと倒れてしまった。
「美姫っ!!」
秀一がピアノの椅子から立ち上がり、駆け付ける。
「怪我は、ありませんか?」
躰全体の骨が軋んでいるので、もし怪我をしていても分からない。けれど、美姫は無理やりに微笑んだ。
「えぇ、大丈夫です……」
秀一は倒れた椅子を起こし、美姫を横抱きにすると、ピアノまで運んだ。
「ここで、聴いていて下さい」
美姫を隣に座らせた後、頭をそっと横倒しにして、膝枕した。それは、美姫が幼い頃、秀一がピアノを弾いている時によくしていた大好きな体勢だった。
「では……」
秀一の細く長い指が鍵盤を弾く。単調なメロディーが響き渡る。単調…けれど、優しくて懐かしい、温かい思い出に包まれた曲。初めて秀一から教えてもらったピアノ曲が『きらきら星』だった。瞳を輝かせて秀一の隣に座り、ひとつひとつ鍵盤を追い掛けて弾いた。この曲のように、あの頃の世界は単調でシンプルだった。
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