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後悔
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どれくらいの時間が経ったのだろう……涙が涸れ果て、ようやく美姫が一息ついた頃、秀一がサイドテーブルに置かれていた水の入ったグラスを渡した。
「喉が、乾いたでしょう」
「はい……」
大和との出来事が一瞬脳裏に蘇り、美姫の胸に針が刺さったような痛みが走った。グラスを手に取ると、指先が細かく震えている。両手で包み込むようにしてグラスを支え、少しずつ水を喉に流し込んだ。乾いた砂漠が水を素早く吸収するように、躰の隅々にまで水が浸透していくのを美姫は感じた。
「お腹も空いているのでは、ないですか?トーストと紅茶を用意しましょう」
「あ、私が……」
ベッドから下りようとして、美姫は足首に違和感を感じた。
え、何……?
ベッドに腰掛けた状態で足だけ下ろしてみると、それはシャラシャラ……と音を立てた。美姫の足首には足枷が嵌めてあり、長い鎖を通じてベッドルームの窓枠に掛けられた足枷と繋がっていた。鎖は部屋を自由に歩き回れることは出来るが、外へと出ることは不可能なぐらいの長さだった。
「あぁ、これですか。私がシャワーを浴びて美姫の傍にいてやれない間に、貴女がが何かの拍子で家を出たり、何者かに連れ出されることのないようにと思い、掛けておいたのですよ」
秀一が事も無げに答えた。普通に考えれば尋常ではないその行為に、なぜか、あぁ、そうか……と、美姫は素直に納得した。
「......美姫……私は、怒っているのですよ」
唐突な秀一の言葉に美姫は顔を上げた。
「貴女を凌辱したあの男に対してはもちろんですが……美姫、貴女に対してもです」
秀一の声は少しずつ大きさを増し、怒気を含んで僅かに震えていた。
「貴女は男に対して無防備過ぎます。特にあの男が貴女を狙っていたことなど、私から見れば一目瞭然でした。まぁ、あの時…美姫と電話をしながらもそれに気付くことの出来なかった自分にも苛立ちますが……」
怒りを孕んでいた筈の秀一の眼差しに深い影が落とされる。その悔恨を背負った眼差しは、美姫にとって怒られるよりもずっと苦しく、胸が絞られるようだった。
「そ、んなっっ!!悪いのは……私、です!!……ごめ、な……ウグッ……ッグ…ングッ……」
美姫は激しい自責の念に駆られ、涸れたと思っていた涙がまた懲りもせず流れ落ちる嗚咽が漏れ、肩を大きく揺らした。その美姫の様子に秀一がハッとして、彼女の頭を引き寄せた。
「……すみません。こんな時に貴女を責めるのは間違っていると分かっているのですが……
胸の収まりがつかないのです……」
秀一の喉を押し潰すような、苦しげな声が漏れた。
秀一さんも、苦しいんだ……
後悔が後から後から大波となって押し寄せる。
ごめん、なさい……ごめんなさい、秀一さん……
「喉が、乾いたでしょう」
「はい……」
大和との出来事が一瞬脳裏に蘇り、美姫の胸に針が刺さったような痛みが走った。グラスを手に取ると、指先が細かく震えている。両手で包み込むようにしてグラスを支え、少しずつ水を喉に流し込んだ。乾いた砂漠が水を素早く吸収するように、躰の隅々にまで水が浸透していくのを美姫は感じた。
「お腹も空いているのでは、ないですか?トーストと紅茶を用意しましょう」
「あ、私が……」
ベッドから下りようとして、美姫は足首に違和感を感じた。
え、何……?
ベッドに腰掛けた状態で足だけ下ろしてみると、それはシャラシャラ……と音を立てた。美姫の足首には足枷が嵌めてあり、長い鎖を通じてベッドルームの窓枠に掛けられた足枷と繋がっていた。鎖は部屋を自由に歩き回れることは出来るが、外へと出ることは不可能なぐらいの長さだった。
「あぁ、これですか。私がシャワーを浴びて美姫の傍にいてやれない間に、貴女がが何かの拍子で家を出たり、何者かに連れ出されることのないようにと思い、掛けておいたのですよ」
秀一が事も無げに答えた。普通に考えれば尋常ではないその行為に、なぜか、あぁ、そうか……と、美姫は素直に納得した。
「......美姫……私は、怒っているのですよ」
唐突な秀一の言葉に美姫は顔を上げた。
「貴女を凌辱したあの男に対してはもちろんですが……美姫、貴女に対してもです」
秀一の声は少しずつ大きさを増し、怒気を含んで僅かに震えていた。
「貴女は男に対して無防備過ぎます。特にあの男が貴女を狙っていたことなど、私から見れば一目瞭然でした。まぁ、あの時…美姫と電話をしながらもそれに気付くことの出来なかった自分にも苛立ちますが……」
怒りを孕んでいた筈の秀一の眼差しに深い影が落とされる。その悔恨を背負った眼差しは、美姫にとって怒られるよりもずっと苦しく、胸が絞られるようだった。
「そ、んなっっ!!悪いのは……私、です!!……ごめ、な……ウグッ……ッグ…ングッ……」
美姫は激しい自責の念に駆られ、涸れたと思っていた涙がまた懲りもせず流れ落ちる嗚咽が漏れ、肩を大きく揺らした。その美姫の様子に秀一がハッとして、彼女の頭を引き寄せた。
「……すみません。こんな時に貴女を責めるのは間違っていると分かっているのですが……
胸の収まりがつかないのです……」
秀一の喉を押し潰すような、苦しげな声が漏れた。
秀一さんも、苦しいんだ……
後悔が後から後から大波となって押し寄せる。
ごめん、なさい……ごめんなさい、秀一さん……
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