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焦燥 ー秀一視点ー

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 名古屋から東京へと向かう新幹線の中。グリーン車の座席に座った秀一の表情にはいつもの落ち着きは見られず、流れていく景色を胸が炙られるような焦燥感に駆られながら凝視していた。

 美姫…どうか無事で……待っていて下さい……

***************************************************

 アンコールを終え、控室に戻ってみるとテーブルに置いてあるスマホのランプが点滅していた。

 おや、これは……?

 美姫からの受信履歴と残されていないメッセージに違和感を覚えた。

 美姫は私が仕事中だと分かっている時は、電話をしない。ましてや、先程電話で話したばかりだ。

 リダイヤルボタンを押し、美姫が出るのを待つが、いくら待っても出る気配がなく、やがて無機質な留守番電話のメッセージへと切り替わった。

 もし、電話に出られない状況だったとしたら……?

 胸に湧き上がった不安が、暗雲となって広がっていく。通話終了ボタンを押すと監視アプリを起動し、美姫のスマホの場所をGPS検索する。
 事前にインストールしておき、スマホをプレゼントしておいたのは正解だった。インストールされていても画面には表示されない為、美姫は自分のスマホにこんなシステムが入っているとは知らない。電源が落とされていなかったのは救いだった。

 どうか、ただの思い違いであって欲しい……

 そう願いながら、画面を食い入るように見つめる。
 先程話していた時は、美姫は直ぐに家に帰ると言っていた。そうであれば、大学寮が表示されるはずだ。

 ん…?ここは……

 黒い革の鞄から茶封筒を取り出し、書類の二枚目を捲る。

 やはり……この住所で、間違いない。
 藤堂礼音。美姫のサークル仲間の一人であり、以前、美姫の誕生日に電話を掛けてきた男。

 まさか、この男の家に美姫がいたとは……迂闊だった。

 心の中を掻き毟られるような激しい苛立ちが募る。遠隔操作により、美姫のスマホから写真を撮影する。

 画面には真っ白な天井とベッドの脚のようなものが映し出されていた。画面のどこにも美姫や美姫の持ち物らしき姿は見当たらない。どうやらスマホはベッドの近くの床に転がっているらしい。

 普通に考えればポケットや鞄の中、もしくはテーブルの上に置いておくはず……

 一体、何があったのですか、美姫……

 やきもきする気持ちが胸の中に広がる。さらにアプリを操作し、音声録音を開始する。スピーカーを通して、男にしてはやや高めの、興奮した声が聞こえてきた。

 『あはぁ……思った通り……ハァ…美姫ちゃん……ハァ…足の裏まで丁寧に磨かれてる……その上に微かに臭う汗と靴の香りが…ハァ…そそるぅ……』

 その言葉にゾワゾワと身の毛がよだち、吐気を感じる。

 『っつぅっ……』
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