130 / 1,014
罠
1
しおりを挟む
ーー4時間前
「美姫、準備できた?」
扉を開けると、久美が顔を覗かせた。久美は大学に入ってから初めて出来た友達で、同じ寮住まいということもあり、親しくなった。幼馴染の薫子のように何でも話し合えるほどの仲ではないが、大学のことに限らず、日々の生活において『普通』の女子大生の有り方について教えてくれるので、幼稚舎から高等部まで金持ちの子息令嬢が通う学園にいた美姫にとっては、とても有り難い存在だ。
「うん、迎えに来てくれてありがと。わぁっ、久美、そのワンピめちゃめちゃ可愛いねっ!」
美姫は久美の服装に目を向けた。久美は普段はカジュアルな服装をしているが、今日はグレーのモヘアのミニワンピースに真珠のネックレス、シルバーラメのクラッチバックと白のロングコートを手に持ち、特別気合いが入っているようだった。
「へへっ、一応クリパってことで、それなりにオシャレしてみましたっ♪」
美姫といえば、大学に行く時と変わらない、ダボッとしたカシミアのセーターにショートパンツ、厚めのレギンスを履いていた。秀一の知らないところでドレスアップするのは何となく気がひけたし、今日は親しい友達だけの集まりだからと思い、普段通りの服装にすることにしたのだった。
高価なものは、秀一から誕生日プレゼントでもらったピアスのみ。先週、ようやく念願叶ってピアスの穴を空けてきたばかりだった。今日は集まりに礼音もいるので、先日もらった銀色の熊のネックレスをしていた。
こういう時しかつける機会ないし、今日は秀一さんは地方公演で会うこともないから、いいよね……
「じゃ、行こっか」
美姫は玄関脇のクローゼットからダッフルコートを手に取り、扉に手を掛けた。今日は、サークル仲間でも特に仲のいい友達6人で集まって、礼音の家でクリスマスパーティーをすることになっている。
まだ12月に入ったばかりだが、クリスマス間近では田舎に帰る子もいるし、サークルやゼミ、バイトや同窓の友達との飲み会などで忙しくなるこの時期、都合がつきやすいように早めにしよう、ということになった。
「今日、鍋パーティーだって。クリスマスって感じしないよねー」
久美は言葉とは裏腹に、嬉しそうな口調で言った。
「大勢で集まる時は、鍋がいいよ。温まるし、私、好き」
みんなでわいわいできるのって、いいな……
家族や友達と集まって鍋を囲むなんてそんな経験、大学に入るまでしたことなかった。
やはり自分は一般の家庭とは違っているのかと、美姫が少し哀愁を感じていると、久美が思い詰めた口調で話し掛けてきた。
「美姫…って、さ……」
そう言った後で、久美は言葉を詰まらせた。
「え、なに……?」
「……」
な、なに?急に、どうしちゃったの!?
異様な雰囲気に包まれて美姫は居心地悪さを感じた。
ま、まさか...秀一さんとの仲を気づかれたんじゃ......
先日秀一と大学の近くで待ち合わせしたところを見られたのかもしれない......そんな思いで全身にひやりと冷たい汗を感じる。
久美がようやく重い口を開いた。
「礼音と……付き合ってるの?」
え……?
「そんなわけないじゃん!」
ドキドキしちゃったよ……そう、だよね...秀一さんのことなわけ、ないよね。
美姫は秀一との秘事が露呈したわけではないとわかり、心から安堵した。
「そ、そう…なの?なんか……サークルでもいつも仲いいし、付き合ってるのかと……思ってた…」
「まさか!だって、私には…」
『秀一さんがいるんだから…』と、喉まで出かけた言葉を美姫は飲み込んだ。
「っと……他に、好きな人いるし……」
危ない、危ない……
久美は焦る美姫には気付かなかったようで、安心したように大きく息を吐いた。
あれっ?……もしか、して?
「久美、礼音のことが好きなの?」
久美は、明らかに肯定と分かるほど顔を赤らめた。
「そうだったんだ……全然、気付かなかった……」
自分も秀一のことを全く話していないにも関わらず、親しくなったと思っていた久美から突然礼音が好きだと聞かされて、美姫は少し寂しい気持ちになった。
「私……恋愛って得意なタイプじゃないからさ。いつも礼音、女の子に囲まれてるし……遠くで見てるだけ、だったんだけど……
最近、礼音が美姫と親しくなって、私もそれで話すようになったから……もし、美姫が礼音のことを好きじゃないなら……頑張ってみようかな、って」
「いいじゃん、いいじゃん!頑張って!私も協力するしっ、ふふっ」
久美から恋の相談されるなんて、嬉しいな。私も秀一さんのこと、久美に話せたらいいのに……
「でも、礼音は……美姫のこと、好きかも……」
「えっ、そんな訳ないじゃん。思い過ごしだよー。礼音って女の子みんなに優しいじゃん」
「そう、かな……うん……でも、頑張ってみる。クリスマスも近づいてるしねっ」
「美姫、準備できた?」
扉を開けると、久美が顔を覗かせた。久美は大学に入ってから初めて出来た友達で、同じ寮住まいということもあり、親しくなった。幼馴染の薫子のように何でも話し合えるほどの仲ではないが、大学のことに限らず、日々の生活において『普通』の女子大生の有り方について教えてくれるので、幼稚舎から高等部まで金持ちの子息令嬢が通う学園にいた美姫にとっては、とても有り難い存在だ。
「うん、迎えに来てくれてありがと。わぁっ、久美、そのワンピめちゃめちゃ可愛いねっ!」
美姫は久美の服装に目を向けた。久美は普段はカジュアルな服装をしているが、今日はグレーのモヘアのミニワンピースに真珠のネックレス、シルバーラメのクラッチバックと白のロングコートを手に持ち、特別気合いが入っているようだった。
「へへっ、一応クリパってことで、それなりにオシャレしてみましたっ♪」
美姫といえば、大学に行く時と変わらない、ダボッとしたカシミアのセーターにショートパンツ、厚めのレギンスを履いていた。秀一の知らないところでドレスアップするのは何となく気がひけたし、今日は親しい友達だけの集まりだからと思い、普段通りの服装にすることにしたのだった。
高価なものは、秀一から誕生日プレゼントでもらったピアスのみ。先週、ようやく念願叶ってピアスの穴を空けてきたばかりだった。今日は集まりに礼音もいるので、先日もらった銀色の熊のネックレスをしていた。
こういう時しかつける機会ないし、今日は秀一さんは地方公演で会うこともないから、いいよね……
「じゃ、行こっか」
美姫は玄関脇のクローゼットからダッフルコートを手に取り、扉に手を掛けた。今日は、サークル仲間でも特に仲のいい友達6人で集まって、礼音の家でクリスマスパーティーをすることになっている。
まだ12月に入ったばかりだが、クリスマス間近では田舎に帰る子もいるし、サークルやゼミ、バイトや同窓の友達との飲み会などで忙しくなるこの時期、都合がつきやすいように早めにしよう、ということになった。
「今日、鍋パーティーだって。クリスマスって感じしないよねー」
久美は言葉とは裏腹に、嬉しそうな口調で言った。
「大勢で集まる時は、鍋がいいよ。温まるし、私、好き」
みんなでわいわいできるのって、いいな……
家族や友達と集まって鍋を囲むなんてそんな経験、大学に入るまでしたことなかった。
やはり自分は一般の家庭とは違っているのかと、美姫が少し哀愁を感じていると、久美が思い詰めた口調で話し掛けてきた。
「美姫…って、さ……」
そう言った後で、久美は言葉を詰まらせた。
「え、なに……?」
「……」
な、なに?急に、どうしちゃったの!?
異様な雰囲気に包まれて美姫は居心地悪さを感じた。
ま、まさか...秀一さんとの仲を気づかれたんじゃ......
先日秀一と大学の近くで待ち合わせしたところを見られたのかもしれない......そんな思いで全身にひやりと冷たい汗を感じる。
久美がようやく重い口を開いた。
「礼音と……付き合ってるの?」
え……?
「そんなわけないじゃん!」
ドキドキしちゃったよ……そう、だよね...秀一さんのことなわけ、ないよね。
美姫は秀一との秘事が露呈したわけではないとわかり、心から安堵した。
「そ、そう…なの?なんか……サークルでもいつも仲いいし、付き合ってるのかと……思ってた…」
「まさか!だって、私には…」
『秀一さんがいるんだから…』と、喉まで出かけた言葉を美姫は飲み込んだ。
「っと……他に、好きな人いるし……」
危ない、危ない……
久美は焦る美姫には気付かなかったようで、安心したように大きく息を吐いた。
あれっ?……もしか、して?
「久美、礼音のことが好きなの?」
久美は、明らかに肯定と分かるほど顔を赤らめた。
「そうだったんだ……全然、気付かなかった……」
自分も秀一のことを全く話していないにも関わらず、親しくなったと思っていた久美から突然礼音が好きだと聞かされて、美姫は少し寂しい気持ちになった。
「私……恋愛って得意なタイプじゃないからさ。いつも礼音、女の子に囲まれてるし……遠くで見てるだけ、だったんだけど……
最近、礼音が美姫と親しくなって、私もそれで話すようになったから……もし、美姫が礼音のことを好きじゃないなら……頑張ってみようかな、って」
「いいじゃん、いいじゃん!頑張って!私も協力するしっ、ふふっ」
久美から恋の相談されるなんて、嬉しいな。私も秀一さんのこと、久美に話せたらいいのに……
「でも、礼音は……美姫のこと、好きかも……」
「えっ、そんな訳ないじゃん。思い過ごしだよー。礼音って女の子みんなに優しいじゃん」
「そう、かな……うん……でも、頑張ってみる。クリスマスも近づいてるしねっ」
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説



義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる